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36話 那古野城侵入

ようやく作戦が決まった頃、俺は那古屋の城下町に着いた。そのまま那古野城の搦手門に回り込む。


「藤吉郎!」


搦手門に立っていた彦二郎が俺を呼んだ。彦二郎は懐かしの一太軍団の団員の一人だ。


「彦二郎!息災か?」

「おお、お前も元気そうだな。智から聞いているぞ。上総介様の命令で来たんだろ!?」

「ああ、そうだが…すまない。危ない橋を渡らせてしまって」

「何言ってんだ!俺たちは上総介様に仕えてる気持ちで那古野城で働いているんだ。もちろん協力するにきまってるだろうが」


彦二郎の他にもう一人立っていたが、彼も同じ気持ちだと言わんばかりに頷いていた。


「ありがたい!助かる!!」


礼を言うと彦二郎は嬉しそうに笑って言った。


「いいってことよ!他にも何人か上総介派の奴らには声を掛けてある。一度、足軽詰め所へ寄ってくれないか」


彦二郎の手回しの良さに驚く。


「それは…助かるが。そんなに上総介派はいるのか?」


「何言っとる。智先生の授業のお陰で中々村周辺の出身者はみんな上総介派じゃ。そこから伝播して那古野城内ではもうほとんど上総介派だ」


おお、智は寺で子供達に一体何を教えてんだ?…若干、洗脳教育の様な気もするが…。まあ、今回はありがたいから、とりあえず置いておこう。


足軽詰め所には十数人の若者たちが待っていた。皆、上総介シンパらしい。彼らに作戦を指示する。


「まずは、城に残っている者たちに『敵対する気のないものは城から出る様にと上総介様から命が出た』と城外に出る様に扇動して欲しい」


「おお!お安い御用だ!!」


若者達は威勢良く答える。


「…それと、扇動係3~4人を残して、あとは皆で林佐渡守様を捕まえたい」


「おお!…本気か?」


若者達は一瞬にして青くなる。まあ、一応現在のこの城の留守居役(トップ)だしな。そりゃビビるよな。けど、やんなきゃならないんだよね。嫌だけど。


「上総介のご命令だ。降伏しない場合は斬っても良いとのお許しもいただいている…」


改めて、本気度を伝える。若者達は青白い顔のまま、けれども頷いた。


「分かった。林佐渡守様を捕まえよう」


彦二郎も青い顔をしていたが、皆を代表して答えてくれた。これで若者達もやるしかないと思ってくれたようだ。


こうして4人の扇動役を残して、俺は10人程の若者達に武器を持ってきてもらい、一緒に林佐渡守が篭っているという部屋を目指した。


途中、小者衆の詰め所へ寄って、仲の良い知り合いを何人か見つけると彼らにも城内扇動を依頼し、扇動しつつ城外へ逃げるよう指示する。


もしかすると乱戦になる可能性もあるからな。できるだけ人死には出したくない。


ドキドキしながら城の奥へと進む。もし林佐渡守達が死ぬ気で立ち向かって来たら、生かして捕らえるなんて悠長なことは言ってられないだろう…こちらも本気で倒しに行かなければならない。


「あそこだ…」


彦二郎が奥にある部屋の襖を指さして、小声で俺に教えてくれた。


「何事だ!!」


襖の前で見張りに立っていた武士が大声で怒鳴る。俺はできるだけ敵をビビらせるために、抜き身の刀を掲げて負けずに大声で叫んだ。


「退け!!上総介様のご命令だ!!!」


見張りに立っていた者は、上総介の名を聞くと慌てて襖を開けて中に叫ぶ。


「敵襲だ!」

「なに!!」

「何をしておる!?入り口を塞げ!!」


部屋の中から慌てたような叫び声が聞こえる。この一発で終わらせたい!!と願いつつ、できるだけ大きな声で怒鳴る。


「林様!!上総介様のご命令により御身を預からせていただきます!!!」


「おのれ!!!」


俺が部屋に踏み込んだ瞬間、一番手前に居た武士が刀を抜いて襲いかかってきた。逆上しているのか、酷く乱れた構えで突っ込んでくる。


「うっ!!」


反射的に刀の刃先で受けてしまう。『ガチン!!』と鈍い音がして、俺の刀が折れて刃先が飛んでいった。


…マズイ!!


襲いかかってきた武士がそのままの勢いで、次は切り上げてくる。ほとんど条件反射で体を後ろに引く…が、額に焼けたような痛みが走った。


…そこからは無我夢中だった。手に持っていた折れた刀を相手に投げ付け、もう一本腰に下げていた短刀を抜き放ち、刀を投げつけられて狼狽している目の前の武士の太ももに突き立てる。


「ぐわっ!!!」


と叫ぶ声が聞こえ、目の前の武士が倒れ込んだ。


「藤吉郎!!!」


彦二郎の大声で我に返る。


「大丈夫だ!!林殿を捕らえる!!」


倒れた武士が痛みでのたうち回り騒然とした雰囲気ではあったが、もはやこちらに襲いかかって来るものはいなかった。こちらの人数を見て、多勢に無勢だと諦めたのだろう。


林佐渡守の一派は皆大人しく武器を外し、降伏した。


「すまんが、そいつの手当てをしてやってくれないか」


俺は自分が短刀を刺した男の手当てを彦二郎に頼み、林佐渡守の前に行く。額を斬られたらしく、血がダラダラ垂れてくる。傷口を手ぬぐいで押さえても血が止まらない…が、林佐渡守を始末をつけないと…。


「林佐渡守様。お初にお目にかかります。上総介様の下で足軽組頭を務めております木下藤吉郎と申します」


「足軽組頭…か」


林佐渡守は呟いた。


「大変申し訳ございませんが、上総介様の沙汰があるまで座敷牢に入って頂きます。上総介様に降るご意思があるようでしたら、お命までは頂戴せずとも良いと申しつけられておりますゆえ。良くお考えくださるようお願い申し上げまする」


そう言って、彦二郎達に林佐渡守の一派を牢に入れるよう頼む。


林佐渡守達が部屋を出ていくのを見送ると、俺はそのまま部屋に座り込んだ。



…ヤバいなぁ…血が止まらない…。






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