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03話 1歳の決意

ここ半年間。どうすれば寺に行けるか考えている。

寺では、坊さんが読み書きそろばんはもとより最近の世の中の動きとかも教えてくれているらしい。


戦が始まったら、いつ巻き込まれてしまうか分からない。せっかくの新しい人生を儚く散らさないためにも、出来るだけ情報を集めて少しでも早く現状を正確に認識したい。


引き続き、継続して声出し訓練を行ってはいるが、なかなか通じる言葉を発することができない。ようやく「テラ」という発音をできるようにはなったが、「寺に行きたい」という一文を発することが大変難しい。何度発話を試みても「テラニャーニニャイ」になってしまう。

最近はトモが面白がって「テラニャーニニャイ」を真似するようになってきた。完全にバカにされてる…ぐぎぎぎ。


そんな調子で、忸怩たる思いを抱えながらこの半年を過ごしてきたが、チャンスはある日突然やってきた。ヤエモンとナカが別の村へ行く用事が出来たとかで、トモと俺が3日間、寺に預けられることになったのだ。



「それではお手数ですが、よろしくお願いいたします…」

「トモとヤスケをよろしくお願いいたします」


静かに雪が降るある冬の朝、ヤエモンとナカはお坊さんに深々と頭を下げて出かけて行った。俺はお坊さんの腕の中に抱かれて、二人を見送る。


段々小さくなっていく二人の背中を見ていたら、急に胸がジンと痛くなった。ホームシックに似た気持ちが強く湧きあがる。同時に自然に涙が溢れ出して止まらなくなる。

トモに見られると恥ずかしいので、泣き声は出さないように、グッと唇を噛む。


・・・思ってた以上に、俺はこの新しい両親のことが大好きになっていたようだ。

ちらっとトモを見ると、同じように唇を噛んで泣くのを我慢しているようだった。


「さ、寒いから、中に入ろうな」


歳をとったお坊さんが、優しく俺達二人に声をかけた。

念願だったはずの寺の生活だったが、意外にもしんみりとした気分での出だしとなった。




寺の中では既に手習いに来た村の子供たちが、若いお坊さんとイロハ歌を諳んじているところだった。


「いろはにほへとちりぬるを・・・」


俺はハイハイでその部屋の中へ入り込み、子供達の一番後ろに静かに座る。

前で教えている若いお坊さんは俺を見ると少し驚いた顔をしたが、俺が特に騒ぎもしないのでそのまま授業を続けてくれた。


30分ほどでその音読の授業は終わった。1つ1つの授業の合間に、少し休憩時間があるらしい。普通に小学校みたいな感じだな。


休憩時間になった瞬間、俺に気付いた男児達がわらわらと集まってきた。


「おい、なんでこんなところに赤ん坊がいるんだ??」

「あ、こいつ。貧乏ヤエモンのとこのガキじゃんか」

「しょんべんくせーから、あっち行けよ!!わはは!!」


やはり小学生くらいの男児はいつの時代もアホっぽいな。こいつらもやっぱり「うんこ」「ちんこ」ネタがあれば1日中楽しく暮らせんだろうな。

それにしてもこんなガキンチョ達にすら貧乏と揶揄されるとは、ヤエモンの貧乏は相当だな。


「やめなさいよ!」


ガキンチョ達の後ろから、女の子の声が聞こえた。

おお、学級委員長の登場か。


「あんた達、そんな小さな子を虐めるなんて恥ずかしくないの!?」


そう言って、男子達を分け入ってきたのは学級委員長ではなく美少女ヤエだった。

いつの間にか怯えた顔のトモもヤエの後ろについて来ていて、こちらへ駆け寄るとぎゅっと俺を抱きしめた。おお、トモが俺を守ってくれてる!!なんだか感激。


「別に虐めてなんかねーよ!」

「ちょっと話しかけただけだよなぁ?」

「なあ。もう、あっちで雪にションベンかけて遊ぼーぜ」


男子達があっという間に散って行く様子を、生温かい目で見守る。こういう男子女子のやり取りはいつの時代も不変なんだな。


「さ、トモちゃん。ヤスケくんを連れて、あっちのお部屋に行きましょうか」


ヤエはそういうと、俺を抱っこしようとした。

ありゃ、まずいぞ。別の部屋に連れていかれたら、授業が聞けない・・・。

俺は精いっぱいのアピールで全身を使ってイヤイヤをした。


「ヤスケ、ここに居たいんだって」


トモがナイスフォローをしてくれた。

さっき俺を守ってくれた件といい、本日のMVPはトモだな。


「でも・・・」


ヤエがちょっと困った顔をする。困った顔もカワイイな。


「ヤエさん。別にその赤子が騒がないようなら、このまま部屋に居させてあげていいですよ」


さっきの若いお坊さんが、困っているヤエに声を掛けてくれたおかげで特別に俺はこのまま勉強部屋に居座ることを許された。ナイス、坊さん。


「あーとー(ありがとう)」


本当にありがたかったので、精一杯かわいらしくペコリと頭を下げる。

ヤエと若いお坊さんは俺がきちんとお礼をしたことに驚きつつも、すぐにニコニコと俺の頭を撫でてくれた。


この一件があったおかげで、その後、俺は気兼ねなく三日間寺の授業に参加することができた。そして同時に「真剣な顔で寺の手習いに参加する数えで2歳の子供」の話は、3日後には寺の中ばかりでなく村中に広まったのであった。


3日目の夜に俺たちを迎えに来たヤエモンとナカは、寺の住職に俺を寺に通わせるようにと進言されて目を白黒させていた。しかし、住職の「この子は見込みがある」という言葉を聞いて俺を寺に通わせることに同意をしてくれた。


ようやく有用な情報源である寺に入り込むことができそうだ。

早く情報を集めて上手く生きるための道を見つけないと、戦に巻き込まれる前に餓死しかねん。ヤエモンはいいやつだけど、生活力がないからな。家族を守るためには俺がなんとかせねばなるまい。


新たに心に誓った1歳の誕生日であった。


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