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32話 入札開始

朝になると、昨日飛ばした鳩が帰ってきていた。・・・信長の書状を付けて。


智はそれを読むと真っ赤になっていた。読ませてくれと頼んだが、ダメだった。一体なんて書いてあるんだろう…キニナル。


智は別の書状を俺に渡してくれた。それは、俺の働きを褒める内容の信長からの書状だった。おお、よっぽど嬉しかったのか、可愛いのうウチの殿は…。


それにしても信長が智を選ぶとはな…。まあ智は美人だけど、今の時代の女性としては随分気が強いように思うんだが…意外に織田信長ってSに見せかけてMなんじゃないかとちょっと思う。


とりあえず、信長に頼まれた用事はこれでOKだな。


せっかく馬も連れてきているし、このまま本来の仕事に戻ろう。と考え、今日は清洲に戻らず、熱田に行くことにする。


七郎左衛門を通じて、競争入札に熱田商人も入ってもらう。大手が複数参加することで、この案件が重要案件だということが他の商人にも伝わるだろう。


それに、『大手が入るなら』と諦める商人と逆に挑戦してくる気概のある商人をふるいに掛けることが出来る。たとえ今回選ばなかったとしても、そういう商人を発掘しておくのも将来的に役に立つだろう。


・・・・・


久しぶりに訪ねた熱田は相変わらず活気があった。

七郎左衛門は熱田で商売をするようになったということで、その店を探す。


いつもの定宿から出て店舗を兼ねた家に住んでいる、と以前、店の場所を書いた手紙をもらっていたのだ。


ようやく、それらしき店を見つける。


「よう!旦那いるか?」


と冗談っぽく言って店に入る。・・・と店で働いているらしき小僧が目を丸くしてこちらを見ていた。


うお!七郎左衛門がいるんじゃないのかよ!?従業員使ってんの!?


「は、はい。少々お待ち下さい!!」


上客でも来たと思ったか、若者が狼狽しながら奥に駆けて行った。

驚かせちゃって悪かったかな…ちょっと反省しつつ、待つ。


「…なんだ。藤吉郎かよ。孫兵衛がなんだか偉そうな人が来たって言うから誰かと思ったぞ」


「いや、すまんすまん。てっきり七郎左衛門が一人でいるもんだと思い込んでてな」


と謝る。孫兵衛と呼ばれた小僧が後ろからこちらを覗いていたが、俺と目が合うとすぐに隠れた。

…あれ?なんかあの孫兵衛って誰かに似てる気がする。誰だっけ?


「で、今日はどうしたんだ?織田家の足軽組頭がこんなとこブラブラしてていいのか?」


「いや、一応仕事だよ。七郎左衛門殿にちょっと相談事がありまして…」


「・・・なんだよ、勿体ぶって。なんか儲け話か?」


「まあ、場合によってはそうかも」


「ふーん。まあ、上がれよ。孫兵衛、茶を頼む」


七郎左衛門は奥の座敷へ案内してくれた。


孫兵衛くんの入れた茶を飲みながら、例の競争入札について七郎左衛門殿に話し、熱田商人の有力者にも参加して欲しい旨を伝える。


「なるほどな。お前、熱田の有力者って、つまり加藤家に参加して欲しいってことだろ?」


さすが七郎左衛門は話が早い。


「ま、そういうこと」


「いいぜ。加藤家の当主に伝えてやる。…ただし、俺も参加するぞ。いいだろ?」


「え?あ、ああ。もちろん良いに決まってる…が、言っとくが口利きはしないぞ?今回は正々堂々だ」


「んなこたわかってるよ。それよりも、昇り調子の織田弾正忠家の殿様の肝煎りだろ。名前売っておくに越したことないってな。上手くいけば俺も御用商人になれるんだろ?」


「おう。そう言うことだな」


そんなわけで七郎左衛門も参加してくれるということになった。台風の目になってくれることを期待しよう。


・・・・・・・


こうして熱田での用事も終え、俺はすぐに清洲へ戻った。


津島と熱田の商人が参加してくれれば、一応の体裁は整うだろう。あとはこの後に手を上げてくれる商人がどのくらいいるかだな。


清洲に帰還後、すぐに信長に面会の時間を貰う。


「おお、藤吉郎。智から返事が来たぞ!大義であった!」

「はい」


先日とは打って変わった機嫌の良さで信長は俺にねぎらいの言葉を掛ける。いや、それよりも智に送った手紙の内容教えてくんないかな?キニナル。


「此度の件はまだ内密にな。時が来たら、儂から老臣どもに話すからな」


そういって信長はニヤリと笑う。

え!?重臣の人達に話す前に智にプロポーズしたの?マジで?大丈夫かね?…と、心配していることが顔に出てしまったのか、


「はは。心配するな。俺が決めたことに文句は言わせん」


信長はそう言って笑った。


「して、今日の案件はなんだ?入札のことと申しておったか?」


あ、そうそう。本題に入らなくては。


「はい、実は『競争入札の参加商人を募集する』高札を立てたく…」


一般に広く周知するにはやはり今は高札だろ、ということで信長にお願いすることにしたのだ。


信長はあっさりOKしてくれた。理解あるなぁ。


その後、すぐに目ぼしい場所に高札を立てて、入札への参加商人を募集し、更に知り合いの連雀商人達に口コミでの勧誘をお願いしたりで、情報の拡散に努めた。


その甲斐もあってか、入札に対する反響は大きく問い合わせが多数あった。そして最終的に競争入札に参加することになったのは10組の商人達であった。

もちろん津島の大橋、熱田の加藤、そして七郎左衛門もきっちりと参加表明をしてくれた。


・・・・・・・


そして、いよいよ競争入札の日がやってきた。

選定がきちんと公正に行われることを示す為、参加者立会いの下で開札を行う。


今回の入札では価格だけではなく、納品する槍の品質、製造場所、素材の手配先等の複数項目を評価対象として選定をすると伝えてある。もちろん虚偽の記載をすれば厳罰だ。


これは結果的に他の大名の勢力圏に金が流れないようにする防止策でもあり、また尾張国内の産業の活性化を促す方針を明確に示すために設定した。


複数の項目を評点しなくてはならないので開札に時間がかかってしまうが、談合抑制策としても機能するし、今後のことも考えるとこういう総合評価落札方式が良いだろう。


開札は清洲城の広めの座敷一室を使って行われた。


結果だけ伝えると言ったにもかかわらず、信長は「自分も参加する」と言って勝手に部屋に陣取った。

それよりも、智にどんな手紙を送ったのか教えてくんないかな…。キニナル。


更になぜか前田又左衞門も信長のお付き?として参加することになった。


「槍の事なら俺に任せろ!」


と、又左衞門は豪語していた。まあ、あの派手な赤い槍を使ってるくらいだからな。槍の腕には自信あるんだろうな。けど、別に今日は戦じゃないから!とツッコミたいけど我慢する。大人ですから。


仕方がないので部屋の上座の評定場に信長と又左衞門の席を追加して、周りを具足奉行、勘定係、俺で固め、それぞれの前に文机を置く。少し離れたところに今回の点数計算をする計算係2名を置く。


入札参加者は座敷の下座に待機してもらい、評定の様子を見ていてもらう。


開札の流れとしては、それぞれの入札内容に計算係の者が点数を付け、間違いがないかを全員で確認し、もし同点が居た場合は公正にくじを引いてもらうことにしていた。



こうして初の競争入札が始まった。


まずはそれぞれが持ってきた入札内容を書いた書面を回収する。10組の参加者からそれぞれ書類を受け取り、計算係に渡す。


計算係は前もって打ち合わせた内容通りに、入札内容をそれぞれ点数化していく。点数化し終わったものから順次回され、それぞれが確認する。


回ってきた書面に記入された点数を俺が算盤で計算し直していると、又左衞門が覗きこんできた。


「お前、算盤も使えるのか?凄いな。それってやっぱり便利か?」


と、人が計算してるのにお構いなしに話しかけてくる。おいおい。


「藤吉郎は多才よのう」


信長は面白そうに見ている。いや、皆ちゃんと書類の確認してもらえるかな…?何しに来てんのあんたら。


「あとで俺にも教えろよ。算盤の使い方!な?」


キリの良いところまで計算したので、書類を又左衞門に渡しつつ答える。


「いいですよ。これが無事に終わった後にお教えします」

「よし。約束だからな!」


下座の方を見ると、そんなやりとりが何かのツボに引っかかったのか七郎左衛門が笑いを堪えてる様な顔をしていた…。


こうして採点および確認は滞りなく終了し、今回の入札の結果が出た。

今回は俺が責任者だと言うことで、結果発表も俺がやる。



「それでは今回の入札の結果を発表いたします…」



下座に座る商人達が熱い視線でこちらを見ていた・・・






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