30話 緊急案件発生
…朝起きると、昨日の部屋でそのまま寝ていた。
重い頭を抱えて起き上がると、寝てる間に掛けてくれたのであろう厚手の立派な着物がズルっと下に落ちた。
昨日の記憶を必死で思い出す…あ、そうか。
大橋清兵衛と酒を飲みながら清洲の城下町について語り合ってる内に、酔っ払って寝ちゃったのか。
寝起きでボーっと昨日のことを思い出していると、ドタドタと廊下を歩く音が聞こえたので、立ち上がって部屋の襖を開ける。
歩いてきたのはやはり大橋清兵衛だった。
「おお。起きておったか」
「おはようございます…。昨日は夜遅くまでありがとうございました。それと、お部屋と着物まで借りてしまって…ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
慇懃にお礼を述べる。
「なに、良い良い。藤吉郎殿のお陰で久方ぶりに楽しい酒が飲めたぞ。お前のように大きな夢を語る若者は大歓迎じゃ!またちょくちょく遊びに来るが良い!」
今回も遊びじゃないっての!!と思うが、一応素直に受けておく。
「ありがとうございます。ではまたちょくちょく寄らせていただきます」
そうして、ようやく大橋家を辞去したのだった。
・・・・・・・・
ふー。なんだか疲れたな。頭がガンガンする。…二日酔いかな?
ふらふらしながら、清洲に向かって歩き始める。
けれど、これで無事に津島でのミッションは果たしたぞ。
それどころか、清洲の城下町の準備が整ったら、色々な商人に声を掛けてくれるという大橋清兵衛との約束まで取り付けた。うん、上々の成果だよな!
随分色々と大口を叩いちゃったけど、ま、俺がホントに豊臣秀吉ならジジイになる前には出来るだろ。と、酒がまだ残ってるせいもあり、楽観的に考える。
さて、次は…と。
やっぱり津島が参加するなら、熱田商人にも参加して貰わないと良い勝負にならないよな!
と、言うことで、明日は七郎左衛門に会いに熱田へ行こう、と決める。
清洲へ到着後、そのまま具足奉行の元を訪ね、大橋清兵衛との商談結果を伝える。ついでに次は熱田商人へも競争入札の打診をしたい旨を伝える。
「…うむ。任せる」
とだけ、具足奉行は言った。
なんだか肩透かしな感じがしたが、まあ、変に口出しされるより良いか。
具足奉行への報告を終えて、足軽詰所へ戻る。さて、留守にしていた間に溜まった仕事を片付けないとな。
「こちらに木下殿はおられるか?」
バリバリ仕事を片付けている最中、不意に誰かに呼ばれたので文机から顔を上げた。
「あー良かった。やっと見つけた」
そう言いながら立っていたのは、あの派手な侍だった。名前なんだっけ?えっと、前田又左衞門だったかな?
「前田殿。どうしたのですか?」
俺は立ち上がって又左衛門の所へ行く。
「おお。なんか、殿がすぐにあんたを呼んで来いってさ」
「え…?なぜでしょうか?」
「知らん。俺の事を使い走りにするぐらいだ。なんか、重要な件なんじゃないか?」
まじか。なんだろう?競争入札のコトかな?
「ちなみに、一昨日くらいからずっと殿の機嫌が悪いから、一応、言動に気を付けろよー」
又左衞門が軽く言う。ちょ。やめて。そう言うフラグ立てるの!
「え…。じゃあ、急いで行ってきます…」
信長が機嫌悪いって、チョー怖いんですけど。ついた瞬間に「来るのが遅い!!」ズバッ‼みたいに斬られたりしないよね?
足取りも重く、上段乃間の前まで行く。
今日も前に立っていたのと同じ足軽が警護に立っていた。
「ああ、前田様にお会いできたんですね!良かった!」
「殿は?」
「中にいらっしゃいますが、何やら荒れておられるご様子…」
「やっぱりそうなんだ…」
「お気をつけ下さいませ…」
…ホント勘弁して欲しい…。緊張と二日酔いでゲロ吐きそうだわ。
「木下藤吉郎、参りました!」
「…入れ」
中からドスの効いた声がする。うう、マジで怖い…。泣きそうになりながら、中に入る。
前と同じように部屋には信長だけが座っている。
「失礼致します!」
「うむ。そこに座れ…」
前と同じように信長の前に座る。
「・・・」
信長は何か考え事をしているようだ…。機嫌が悪いというよりも、心ここにあらず…のような。
「…あの?ご用件はなんでしょうか?」
恐る恐るこちらから尋ねる。すると、ようやく信長が口を開く。
「藤吉郎。お前、智から何か聞いているか?」
「は?」
想定外過ぎて、一瞬言葉が出てこない。
「あの?智と言うのは私の姉の事でしょうか?」
「…そうだ」
信長がギロリとこちらを見る。
「いえ。特に何も。最近はまったく連絡を取っておりませんで…。あの姉が何か…?」
信長は質問には答えず、俺に言った。
「藤吉郎。お前、今すぐ中々村に行って、智に早く返事をよこせ、と伝えてこい!」
「は、はい!?分かりました」
いや、全然分からん。なんの話?でも、すぐに行かないとヤバイ気がします…。
急いで立ち上がる。すると信長が更に付け足した。
「嫌なら強制はせん…とも、伝えよ」
「は、はい…失礼致します!」
慌てて部屋を後にする。
何だか全然よく分からんが、とにかく中々村に行って智に話してみよう…。
部屋を出ると、警護の足軽と一緒に前田又左衞門も立っていた。
「殿はなんだって?」
又左衞門に聞かれたが、俺も上手く答えられない。
とりあえず、ここで呑気に立ち話をしていて信長に見つかったら殺されちゃいそうなので、又左衞門の袖をひっぱりとにかく上段乃間から離れる。
人気のない廊下まで行って、ようやく口を開く。
「それが、良く分からなかったんですよね」
「はぁ?なんだそれ」
又左衞門が素っ頓狂な声を上げる。
「いや。どうやらウチの姉に関係することのようなのですが、詳しくは話してくれませんで。とにかく、殿からは姉に伝言を伝える様に言われたので、これから急いで中々村へ向かいます」
「へー。で、それはどういう伝言なんだ?」
「えーっと。『早く返事をよこせ』と『嫌なら強制はせん』の二つです。一体どういうことでしょうね?」
「はーん。なるほどね…」
又左衞門はニマニマしながら一人で納得している。
「…なにか御存じなのですか?」
「いーや。知らん。ま、早く伝えてやった方がいいんじゃないか?ああ、そうだ。城の馬を借りて行けば良い。歩くよりは早いぞ」
「え?いいんですか?」
「良いだろ。殿のご命令だ。業務だろ」
確かに!
又左衞門に礼を言って急いで馬小屋へ向かう。
・・・中々村へ急ごう!!




