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02話 生後半年

俺が生まれてから半年が経った。

この頃には、やはりここは戦国時代なのだろうと確信を持つようになっていた。


俺の親父であるヤエモンはどうやら織田軍所属の足軽らしいことも分かった。しかし、織田軍所属とはいってもそうとう下の身分らしく、戦が無い時は農業で生計を立てて何とか家族4人を食わせているという状況のようだ。


ちなみに俺自身はというと、ようやく寝返りが出来るようになり多少の移動が可能になっていた。

しかし、より多くの情報取得のためゴロゴロ転がりながら家中を探索していた時に、一度うっかり土間へ落ちてしまったことがきっかけで、母親のナカに始終おんぶをされる羽目になっていた。

・・・今現在も畑仕事をするナカの背中に括りつけられているのだが、最高にヒマを持て余している。


あまりにもヒマなので、小一時間前から声出し訓練を行っていた。

「あーあー、あぁーあぁー、まんまんま、ぶーぶーぶー、ぱーぱー、ぴゃーぴゃー」

これを1分につき3セットの目安で繰り返す。

早く話を出来る様に喉の使い方の訓練をしているのだ。効果があるかどうかは分からないが、何もしないよりはマシだろう。


「ヤスケはよくしゃべるねぇ・・・」


ナカは呆れたように呟いていたが、特にやめさせる気も無いようでそのまま好きにさせてくれていた。

トモは少し離れた場所で泥遊びをしているようで、長時間しゃがみこんで何かを作っている。

ヤエモンは村の会合があるとかで、今日は朝早くから出掛けていた。


「ピー・・・ヒョロヒョロヒョロ・・・」


真っ青に晴れた空にトンビの鳴き声が響き渡る。


・・・平和だ・・・。

とても戦国時代とは思えない長閑さだ。

以前、ヤエモンとナカが話していた「オダ」と「イマガワ」の戦も結局今のところはまだ始っていない。


戦国時代とはいえ、戦が起きていなければ農村の生活はこんなにのんびりしたものなんだな・・・としみじみ思う。

生まれ変わる前の社畜時代の忙しさが、常軌を逸していたことも今ならよく分かる。あんなの真っ当な人生じゃないよな。

せっかく新しい人生をスタートできたんだ。この人生はしっかりと生きていこう…と改めて心に誓う。


「ナカさーん」


ふと、遠くの方から声が聞こえた。村の方向から、子供が走ってくる。

トモよりも年上の女の子だ。肩まである髪を二つに結わえた髪型が、賢そうな瞳と相まってとてもよく似合う、かわいい少女だった。


「あら。ヤエちゃん。どうしたの?」

「これ。母さんが、ナカさんに届けてって」


ヤエと呼ばれた少女が、持っていた布を丁寧に開く。開いた布の上には2本の『針』が載っていた。


「まあ!この間、お願いしていた木綿針ね!こんなに早く…ありがとう!お母さんにもお礼を言っておいてね」


ナカは受け取った針をもう一度丁寧に布に包むと、大切そうに懐にしまった。


そうか、この時代には針は貴重なのか…。

確かに金属をあんなに細く加工するのは難しそうだしな。そういえば、家にある布団も服も結構破れてたりするけど、ナカが裁縫とかしてる姿は見たこと無かったな。庶民が針を手に入れるのは案外難しいのかもしれない。


「ヤエちゃん。ちょっとうちでお茶でも飲んでいかない?」

「ヤエ姉ちゃん!トモと遊ぼう!!」


ナカとトモが同時に話しかける。

っていうか、トモもこのかわいい女の子と知り合いなのか?いつの間に。

トモの意外な交遊関係に一瞬驚く。が、まあよく考えると、俺より早く生まれてるんだから俺の知らない知り合いがいるのも当然か。あとで紹介してもらおう。


「ありがとう。でもこれからお寺に手習いに行かなきゃいけないの」


そう言うと、ヤエはあっという間にまた来た道を戻って行った。


「えー!!トモもヤエ姉ちゃんとお寺に行きたい~!!!」


トモはその後しばらく駄々をこねていた。

この村のこどもは6歳くらいになると、近くの寺に手習いに行くのだそうだ。あと3年経ったら行ってもいいよとナカに言われても、トモは中々納得しなかった。


「お寺に行ったって遊ぶわけじゃないんだよ。ヤエちゃんは手習いに行ってるんだから」

「トモもテナライするもん!!」


うむ。手習いってことは読み書きそろばんとかだろ。トモにはまだ無理だろ。落ち着きないし。


「お坊さんのお話も聞かないといけないんだよ?」

「きくもん!!」


いや、無理だな。トモが坊さんの話を静かに聞いてるなんて、全然想像出来んわ。


「昔のお話とか、戦のお話とか、難しい話を静かに聞かないといけないんだよ」

「きくもん!トモ、静かにきくもん!!」


はー、ムリムリ。歴史とか戦術とか、トモに分かるわけなかろうが。大人しく諦めろ!

・・・ん。ってか、寺でそんなことまで教えてくれんの?


それはむしろ俺が聞きたいんだが・・・。


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