08話 3歳の棚ぼた
約束通り、一太は漁師の爺ちゃんを紹介してくれた。
爺ちゃんは気っ風がイイ人で、俺が魚を欲しいことを伝えると春から週に一度船に乗せてくれることを約束してくれた。
「一太のダチだってんなら断れねーなぁ!ただし、てめえの分はてめえで釣り上げるこった」
と、言うことで、冬の間は一太から魚釣りのための道具作りなどを教えて貰うことになった。
実はあの戦以降、一太と俺はすっかり大親友になっていた。雨降って地固まるってヤツだな。
ちなみに三郎とはあれ以来会っていない。預かった短刀は家に大切にしまっている。
ま、次に会えたときにちゃんと返せればいいよね。
・・・・・・・・
さて、魚の入手見込みは立ったが、食べられるようになるのは春以降だ。
かーちゃんと生まれてくる赤子のためにも、なるべく早くたんぱく質はたくさん欲しいので、貪欲に次は卵に当たってみることにする。
毎朝、村の何処かから鶏の鳴き声が聞こえてくる。まずはそいつを探してみよう。
次の日の朝、いつも通りかーちゃんとトモと家を出て、寺へ向かう。その途中に村を通って行く。いつもこの時に鶏の声がするのだ。
今日もそろそろ鳴くはず…
まだか… まだか…?
「コッケコッコォォ~‼」
鳴いた‼
すかさず、かーちゃんに可愛く質問する。
「かーちゃん、今の何のオト??」
「あら、ヤスケはニワトリを見たことなかったかしら?」
「ニワトリ?」
「ええ、お日様のお使いの鳥さんよ。いつも日の出に合わせて鳴いて、お日様をお迎えしてくれるありがたい鳥さんなのよ」
あれ?鶏ってそんな聖なる鳥的な立ち位置なの?それは初耳。
「見てみたいなぁ…」
とりあえず、可愛く呟いてみる。
トモが「何を企んでるんだ?」と言う目で俺を見てくる。
まあまあ、オネーサマ。ここは俺に任せて。
「ふふ…ヤスケは好奇心旺盛ねぇ。分かったわ。じゃあ、村長さんに見せて貰いましょうか」
そう言って、かーちゃんはいつもとは違う道に曲がっていった。
・・・・・・・
村長の家は村の中央辺りに位置していた。
さすがに村長だけあって、そこら辺の家より断然大きい。もちろん我が家とは比べるまでもない。
早速ニワトリがいないか庭を覗きこんだ時、ガラッと音がして玄関からヤエが出てきた。
「・・・ヤスケ?」
「ヤ…ヤエねーちゃん!」
勝手に庭を覗いていたところを見られてドギマキする。
なんと言って誤魔化そう⁉てか、なぜここにヤエが居るんだ⁉
「ヤエちゃん、おはよう。朝からごめんね。ヤスケがニワトリが見たいって言うの。寄らせて頂戴ね」
かーちゃんがさらっと言う。
あ、正直に言うスタイルね。いや俺は断じて姑息に誤魔化そうとなんかしてないぞ!…うん、嘘です、すみません。誤魔化そうとしてました。って、ヤカマシイワ!!!
劇的に下手くそな一人ノリツッコミで、家の覗きをしてた所を見られた恥ずかしさをカバーしようとしたがまったく効果がない。
あああああ!!!!!と心の中で転がり回る。
しかし、そんな俺の内心の動揺など誰も気にする事もなく、会話は穏やかに流れていく。
「ニワトリ?ええ、構いませんよ。裏庭に放しているから、こちらからどうぞ」
ヤエが案内に立ってくれた。
…あれ?
「ここ、ヤエねーちゃんちなの?」
小声でトモに聞いてみる。
「知らなかったの?」
「…うん」
「ヤエねーちゃんのとーちゃんが村長だよ」
「あ…そうなんだ」
「コッケコッコー!!!!」
そんな俺をバカにするかのように、ニワトリがデカイ声で鳴いた。ヤカマシイワ!!!
・・・・・・・・・・
裏庭では、6羽のニワトリが思い思いに土をほじくり、エサをついばんでいた。
白黒ツートンの、長い尾羽を持ったなにやら立派なニワトリだ。
なんとなく白いニワトリを想像していたから、まったく違う品種で驚く。
「立派な羽を持っている子は、お武家様やお公家様の下へ行くのよ」
ヤエが説明をしてくれる。
立派な羽ね。観賞用にするってことかな?けど、念のため聞いてみる。
「食べるの?」
「まさか‼お日様の使いを食べる訳ないでしょ。何て言えばいいのかしら…。見て楽しむため…かな?」
そうかそういう理由で、戦国時代の人はニワトリを食べないんだ。知らなかった。そしてこの鶏はやっぱり観賞用なんだな。
…と、今はニワトリの勉強をしに来たんじゃなかった。
なんとか雌鳥を手に入れる方法を考えなくては。
「すごい。僕もニワトリを育ててみたいなぁ…」
とりあえず、ダメ元で可愛くおねだりしてみる。まずは軽くジャブだ。
「え?本当に?」
ヤエが驚いてこちらを見る。
あー、そうだよね。大切なニワトリだもん。人にやれないよね。
分かってる。分かってたけど、聞いてみただけ・・・
「雌鳥で良ければ、あげられるけど…」
・・・メンドリ!GETだぜ?




