止まった時計11
10時10分。
止まった時計を見上げて一息。
フローリングにカバンと上着を投げ出してべたりと座り込む。
じわじわ動いてストッキングから解放される。
使い捨ての紙雑巾でぎゅっぎゅとフローリングを磨く。
そのままべたり床に伏し、
ああ。このまま時間が止まればいい。
時計は止まっても時は動く。
ぐるぐると時間は動く。
もどかしくおぞましく。
いつ、私の心の時は止まったのだろう?
それとも動き続けてる?
記憶は残る。積み重なる。
記憶は残らない。風に惑う砂のように流れていく。
テレビが囁いた記憶。
落ちた高速。
ほんの10時間前に通った道が落ちていた。
記憶は残る。残ってる。
その時の感情は残ってる?
わからない。
抜け落ちてしまった。
部屋を一人彷徨う。
まだ幼かった暗い早朝の記憶。
外に勤めに出ている母を部屋の中でただ待った記憶。
そうしたことは覚えてる。
何を感じていたのかは思い出せない。
残らないものはいらないもの。
砂が舞う。
10時10分。
止まった時計を見上げながら今日も生きている。