彗星衝突、軌道を変えろ! ー混沌とした日本を救えー
その時、日本は混とんとしていた。
安保法案の賛否で国論を2分していた。
アメリカの戦争に巻き込まれると主張する反対派が45%
C国の脅威を考慮すると安保法案は必要とする賛成派が41%
両者の意見は拮抗していた。
しかし、この拮抗が日本を混とんさせてしまった。
その時だった。
数日前に衛星量子望遠鏡によって発見された彗星群の軌道が明らかになった。
各国の科学者らはスーパーコンピュータで流星の軌道解析した。
そして、地球と流星が衝突する確率を40%とはじき出した。
しかし、この数字は楽観できなかった。
衛星量子望遠鏡はすべての彗星を観測できたわけではなかった。
新たに彗星が発見されれば、地球との衝突確率が確実に上がることになるだろう。
T大法学部に在籍している太田はメンバーを集めた。
そのメンバーは偶然なのか全員がIQ160以上だった。
「とりあえず、かんぱ~い!」
みんなはジョッキを掲げ、ぶつけ合った。
居酒屋集まったメンバーは太田を含め4人だった。
「どうなんだ、流星?」
太田は理系の奴らに意見を聞きたかった。
「核兵器ミサイルで撃ち落とせばいいだけじゃん」
髪の長い斎藤が言った。
太田はしかめ顔を作った。
斎藤は哲学科だった。
お前の意見を聞きに来たんじゃない、と心の中で呟いた。
「流星の質量とか材質によるからな~
核ミサイルじゃあ、砕けないかもしれない」
理学部の藤崎が答えた。
「それじゃあ、地球は消滅か」
太田は焼き鳥を頬ばった。
「地球は残るだろうな」
藤崎は答えた。
「でも、人類はほぼ死滅するな。
まず100Mの津波、それに衝突時に舞った塵が太陽を覆い尽くし、
氷河期を入るかもしれない」
環境工学の星野が補った。
「何か方法があるんだろう」
太田は藤崎の余裕を読み取っていた。
「ああ、もう何度もシミュレーションされている問題だ」
藤崎はジョッキを置いた。
「ある程度の質量を持った物体を後方から彗星にくっつけてやればいい。
高校で習っただろう」
「力積か~」
星野がホッケの身を骨からほぐしながら言った。
「そう、力積。
わずかに角度を変えて軌道を変えてやればいい。
彗星を割って砕く必要はない」
藤崎はそう言った後、
店員を呼び、ビールのお代りを注文した。
太田はピンと来た。
急に表情が明るくなった。
割る、軌道を変える、心の中で呟いた。
「200年後の日本人の活躍に乾杯!」
哲学科の斎藤が乾杯の音頭を取ると、また4人はジョッキをぶつけた。
流星群が地球に接近するのは今から200年後だった。
次の日、太田らは永田町に向かった。
「憲法9条を守れ」
「安保反対」
「集団的自衛権は違憲」
シュプレヒコールが飛び交っていた。
太田らはそれに加わった。
日本を混とんから解放するためだった。
「9条守れ」
「軍隊持つな」
「自衛隊は違憲」
「自衛隊、撤廃」
太田らはデモに紛れて叫び続けた。
するとデモ参加者の一部が太田らから離れていく。
それに伴い、デモの勢いがみるみると下がって行った。
太田は一つの力を加え、隕石ではなく、デモを割ったのだった。
一つの力とは『自衛隊は軍隊か』という問題だった。
『憲法9条を守るなら、自衛隊を廃止するべきだ』と、
デモ隊参加者に問うたのだった。
これにより国民の意見は3つに分かれた。
安保法案賛成派と自衛隊を廃止して憲法9条を守る派と自衛隊は合憲で9条を守る派である。
安保法案賛成派 47%
安保法案反対派、自衛隊は合憲派 24%、
安保法案反対派、自衛隊は違憲派 10%
この議論が始まると、安保法案賛成派が支持を伸ばし、
自衛隊を容認し安保法案反対派の約2倍になった。
それで、議論はようやく終止符を打つことになった。
こうして太田は混とんとした日本を解放したのだった。