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シークレット・ゲーム  作者: 岩神 シキ
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第七話 白銀の剣Ⅱ

「何でって、この高校に通ってるからじゃない」

「マジかよ……」

「マジよ」



 今、俺の目の前にいるのは昨日あの異世界で助けた黒髪の少女である。まさかとは思ったが、ここで会うことになるとは。



「あの時の『また明日』って、このことかよ?」

「いえ? それは全くの偶然だと思うけれど?」



 食堂で偶然の再会とか正直笑えねえ。


 その上やたら視線を感じるし、居心地が悪い。昌紀達の事だから、この後に俺は質問責めに合ってしまうのだろう。そう思うと嫌になってくる。



「そういえば如月君。放課後予定とかある?」

「無いけど……」



 そう言った途端、宮園の口角が少しばかりあがる。その薄く笑った少女の顔に何故だか、俺には嫌な予感しか感じなかった。



「放課後、屋上に来て。待ってるから」











 帰りのホームルームが終わって質問責めから解放された後、俺は屋上へと向かう階段の前に来ていた。



「どうすっかな。帰ったら悪い気がするし……しょうが無い。約束は約束だし、行くか……」



 明かりの無い暗がりの階段上がり、僅かばかりの夕日の光が漏れ出す古びたドアの前に到着した。


 ここの学校は屋上を利用する人は少ない。ドアに付いた鉄さびと、ひび割れが目立つコンクリートの地面が良い証拠だ。


 ここを使う奴は不良かもしくはボッチぐらいしかいない。そして、いまは放課後。不良すらも帰ってしまう事で利用する人が無くなり、この場所の寂寥感は一層増している。


 そんな空間に入る為、俺は鉄さび臭いドアノブを回して扉を開く。

 そこで最初に目に映ったのは、フェンス越しに夕日を眺めている少女の後ろ姿だった。



「約束通り来たわね、悠人。待っていたわ」



 俺がいる事に気付き、宮園は夕日を背後にしてこちらへと振り返る。



「それにしても遅かったわね。今日はもう来ないと思ったわよ?」

「お前の所為でクラスの連中から質問責めに合っていたからな」

「質問責め? どうして?」



 そう言って、不思議そうに首を傾げる。天然か、それとも分かってやっているかのどっちかだが、顔を見る限り笑ってはいないかった。



「わからないなら別にいい……で、何の様だ?」

「これよ」



 そう言って、彼女は制服のポケットからスマホを取り出し、こちらの方へと画面を向ける。



「 スマホがどうした?」

「そこじゃなくて、このアプリのことよ」



 良く見るとスマホはホーム画面では無く、あの「シークレット・ワールド」のスタート画面が表示されていた。



「このアプリ、というかあの“世界”の事をどこまで知ってる?」

「ロキさんに聞いたところぐらいしか知らないな」

「そう。因みにどんなことを聞いたの?」

「あの世界が世紀末な理由と、あとは……ウェポンスキルの発動方法ぐらい、だな」



 あの時にロキさんに教えて貰った事を挙げてみる。が、出てきたのは思いの他少なかった。



「全然知らないじゃない!……まあ、どうせなら教えるわ。ちゃんと聞いてね」



「はあ……」とため息を漏らし、若干呆れた口調で言ってくる。だが、呆れている割に説明してくれている所を見ると、根は悪い人ではないのだと思う。



「あの世界がああなってしまった理由は?」

「確か滅亡したとかなんとか……?」

「そこのところは合っているわね。じゃあ、滅亡してしまった理由は?」

「それは知らない」

「そう。じゃあ、そこからね」



 彼女は屋上の錆でボロボロになったフェンスに沿って緩やかな速度で歩き出し、比較的綺麗なベンチを見つけると腰を下ろした。



「滅亡してしまった理由は、簡単に言えばあの世界に封印されていた『魔神』と呼ばれる存在が復活して、片っ端から滅ぼしていったからだそうよ」

「なんというか、随分とありきたりな設定だな」

「でも、本当の話かどうかは分からないだけどね」

「そうなのか?」

「あくまで噂だから、信憑性が低いのよ」



 あれだけファンタジーな世界ならそれもあり得そうな気がしないでもない。でも、正直今聞いた話が本当なら、『魔神』とやらには出会いたくないものだ。


 人類を滅ぼしたんだ、下手したら世界を滅ぼしかねない存在と戦う事になる。もしそうだったら、俺は瞬殺されてしまうだろう。


 もっとも、会うこともないだろうし、会ったとしても戦う事になるとは限らないから心配することはないだろう。



「実際、あの世界に『魔神』はいるけど、出会うことは滅多に無いから大丈夫よ」

「………」


「いきなり黙り込むなんてどうしたの?」

「……いや、ちょっとびっくりしただけだ。問題無い」



 一瞬、心を読まれたと思ったが、多分ただの勘違いだろう。彼女の発言だって、あの話を聞いたら気になりそうだと思ったから言ってくれただけだろうし、偶然に起きたのだろう。



「話を変えるけど、君はあの時以外で異世界に行ったことは?」

「無いな。昨日の今日だし」

「じゃあ、行く予定は?」

「まあ、行きたいとは思っているよ」



 あのアプリを起動すれば行けるのだろうから、後で試してみるか。あの世界にはまだ色々と知りたいことがあるからな。



「えと、じゃあ、明日の土曜日に一緒に行かない? 説明とレベル上げを兼ねて、ね」

「いいけど、ってかレベル上げって?」

「君、まだレベル9ぐらいだったでしょう? あれぐらいじゃ、遅かれ早かれ死んじゃうわよ」



 彼女の声色が変わる。レベルの高さはそれぐらい重要なことなのだろう。

 まあ、俺も死にたくは無いし、早めにレベル上げなきゃいけないのだろう。それに––––––



「––––––昨日死にかけてた人に言われると現実味があるな。本当に」

「そ…それは、あの時の男が不意打ちしてきたからで……別に、私が弱いって訳じゃないわよ!」

「わかったわかった」


「はあ……とにかく、明日の9時に異世界あそこに行くから準備してね。それじゃ、また明日」



 彼女はそう別れを告げると、足早に屋上の出口へ向かって行った。











 あの後俺も家に帰り、少し時間が経った今、俺は自分のスマホを眺めながらベットで横になっていた。


 スマホの画面に映し出されているのは、あの世界に行く為の鍵となる「シークレット・ワールド」という名のアプリだ。



「………どうすっかな」



 それを見て俺は今、何を悩んでいるかというと、



「行くな、とは言われてないし……」



 あの世界に今行くか行かないか、だ。


 あんなに不思議な世界なんて知らなかったから、正直冒険してみたい。それに、宮園とは約束しただけで行くなとは言われてはいない。



「……よし、行くか」



 結局の所、好奇心に負けてしまった。

 危険な気がするが、行ってみるだけだ。それに、もしもの時は全力で逃げれば大丈夫だろう。






 そして俺は、またあまり考えずに、アプリのログイン表示をタップしてしまった。


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