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シークレット・ゲーム  作者: 岩神 シキ
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第四話 ログインⅣ

 少年の剣に光が纏い始める。それは、男にとって信じられない光景だった。




 そもそも『無属性』というのは文字通り、属性を持たない。

 その為、無属性は属性持ちのように特別な能力を持たない。


 そして、属性を持たなければ『ウェポンスキル』は起動しない。

『ウェポンスキル』は、属性によって発動する能力が変わってくる。例えば、火属性だったら火を用いた攻撃行い、風属性だったら風で攻撃する。

 なら、無属性は? その答えは誰も知らない。


 なのに、男は無属性のプレイヤーがウェポンスキルを発動しないと考えている。

 その理由は、男が唯一知っていた無属性のプレイヤーがウェポンスキルを使えなかったからだ。勿論、そのプレイヤーは宮園藍奈の事を指している。


 ……だとすると、属性を持たない無属性のプレイヤーはウェポンスキルを発動することができないのでは?

 と、男は一方的な解釈をする。

 そして、男はその解釈を真実と勝手に信じ込み、無属性を雑魚を決めつける様になった。


 結果、男は突然現れた無属性の少年も大した脅威では無いと考えてしまった。



 ––––––それが間違いと知らずに。











「––––––なんで使えんだよ!?」

「知るか!」



 男にとってそれが一番の疑問らしく、その表情から驚きを隠せていない。


 正直、俺は半信半疑だったが、『ウェポンスキル』は思い通りに発動した。女性の言っていたことが正しくて良かったと思う。


 けれど、全く状況は変化していない。

 今も尚、真っ赤に燃える炎の剣撃が俺に向かって直進してくる。

 対処の仕方は、男のように剣撃を放てればいいのかもしれないが、今の俺に方法が分からない。多分、不発で終わる気がする。

 なら、できることは一つ。



「––––––ぶった斬る!」



 そう考え目の前寸前に迫る炎に目掛けて、白く光る白銀の剣を後方から引き抜く。


 そして、炎と剣が真正面からぶつかり合う。

 その衝撃により、右手の剣に掛かる力が一気に増え、負荷を与える。まるで、大男の突進を片手で止めている様な感覚だ。



「ぐっ––––––がぁぁぁぁあああ!」



 右手首に感じる骨が軋む感覚に気持ち悪さを覚えながらも、剣を力一杯に振り抜く。


 その瞬間、『ウェポンスキル』を発動した白銀の剣によって、熱量と威力を合わせ持つ炎の三日月は跡形も無く消し飛んだ。





















「………何、これ?」



 気が付いた私は、今の光景を理解出来ずにいた。


 あの少年が何故私を助けてくれたのか……そんなことが頭に疑問として残る。

 だが、それよりも。


『ウェポンスキル』。無属性のプレイヤーが使えることが、一番の疑問だった。


 あの男が言うように、無属性は『ウェポンスキル』が使えない。

 私は何度も試してみた。が、全て不発に終わった。


 他の無属性プレイヤーは分からないが、実際、私は使えなかった。

 けれど、あの少年は私と違って使えている。その上、相手の『ウェポンスキル』を、その力で破壊している。



「………いったい、何者なの?」






















「何なんだよテメェ!?」

 


 男からは一種の悲鳴染みた怒号が発せられる中、そんな奇声を気にせず悠人は全力で地面を蹴り一気に加速する。

 矢のように飛んで行く景色を横目で眺めながら、直ぐに悠人は男の真正面に到着した。



「なっ!?」



 男が目蓋を閉じた瞬間に移動した為、悠人の動きが見えなかったのだろう。

 そして、目蓋を閉じるたった一秒にも満たない僅かな時間に、男の『加速アクセル』と言っていた能力並の速度で距離を詰めた事実が、男を更に困惑させる。


 そして、その少しの困惑で生まれた時間が男にとって命取りとなった。



「これで……終わりだ!」

「な!? やめ………」



 気合いと共に放たれた白銀の斬撃が、男の胴体を二つに両断する。



「ガァッ……!」



 男があまりの痛みに掠れた声を出し、そのまま後方へ飛んで行く。



「…あり…えねェ……」



 その言葉を最後に、男は赤色の光の粒子へと変化し、空中で跡形も無く霧散する。


 こうして、十分にも満たない短い戦闘は幕を閉じたのだった。











「………今更ながら、ゲームとは思えねえな、これ」



 誰も居なくなったアスファルトの上で、一人言を呟く。

 白銀の剣は、役目を終えたかのように光の粒子に変化し、消えていった。


 俺は男に勝った。勝ったのだが、



「………うっ」



 あまりの気持ち悪さに吐き気が込み上げてきた。

 理由は、斬った時の感触が明確にあった、という訳では無い。

––––––ただ、人を“殺した”という事実が嫌で、気持ち悪かった。



(………慣れたら終わりだな。色んな意味で)



 大分落ち着いてきたところで、俺はあの男以外にもいないか確認する為に辺りを見回す。

 人影は無し。という事は、あの男だけだったということだろう。


 俺はあの少女のところへ向かうことにしようと考え、後ろを振り向く。


 するといきなり少女と目が合った。

 というか立っていた。



「………」

「………」



 どちらも無言となるのは、正直言って気まずい。

 目を逸らしたくなる状況だが、とりあえず話をしようと声を掛ける。



「……今日はいい天気ですね」

「え? どこ見ても曇ってるけど……」

「………」

「………」


(あっ……やべ)



 始まって早々後悔した。

 別に初対面の人に天気の話をするのは悪くない気がするが、それを使う場面を間違えてしまったらしい。

 おかげで喋れなくなってしまった。それに、曇っていたのは前々から知っていた。


(くそっ、ただでさえ女子と会話することがあまり無いのに……どうすれば)


 そんなことを考えていると、



「………ねえ、」



 突然少女の方から話し掛けられた。



「……何だ?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」



 一体何だろうか? 出来ればさっきのはスルーして欲しいのだが。

 


「………貴方、一体何者なの?」



………いきなりどうした。


 いや、当たり前か。

 見ず知らずの赤の他人の俺が何故助けてくれたとか、普通に疑問を持つだろう。


 どう答えるべきだろうか……「ある女性から君を助けろと言われた」と素直に言っても信じて貰えない気がする。

 どうすればいいか考えながら横を向くと、俺は思いがけない光景を目にする。


 あの時の『白い扉』が数百メートル先に存在していた。



「何、あれ?」



 少女の方も気付いたらしく、小さいながらも驚きの声が聞こえる。

 あの扉はさっきのように道の真ん中にぽつんと立っている。その異様な風景に驚くのも仕方ないだろう。実際俺も驚いている。


 だが、なんの為に今頃………いや、俺にとっては助け船かもしれない。

 別に、少女を助ければいいわけで、話をしろなどとは言われてない。それに、このまま気まずくても息苦しいだけだ。

 それならば、何もせずあの扉の向こうの世界に戻った方が俺にとっていい。



––––––よし、逃げよう。



「さよなら!」



 その言葉と同時に地面を蹴り、走り出す。



「な!? ちょっと待ちなさい!」



 俺は少女の制止を聞かず、あの場所に居たく無いが為にひたすら走り続ける。

 扉までの距離が後百メートルに差し掛かったところで後ろを振り向くと、驚くことに少女も走っていた。



「なんで……!?」

「待てぇ!」

「追いかけて来んな!!」



 だが、少女の方も思いの外速い。

 段々距離を縮められてる所をみると相当なものだろう。

 出来ればその力はさっきの戦いで使い切って欲しかったものだが。


 しかし、このままだと追い付かれるのも時間の問題。

 だが、幸い扉まで後十メートル。これなら余裕で逃げ切れる。


 後五メートルのところで全力で地面を蹴り、一気に加速する。

 目の前に迫った扉のドアノブに手を掛け、勢い良く開け、あの神秘的な空間へと向かう。



「お疲れ様ってえぇ!?」



 あの女性の驚いた声を聞きながら、俺は勢い良く前方へと水飛沫を上げながら転がっていき、最後に体制を整える為に立膝を着く。



「……ええと、あの、もうちょっと静かに入って来れませんでしたか?」



 女性が今の光景を見て驚きながらも、呆れたように聞いてくる。



「………ちょっと…急いで…いたもので」



 息切れをしながら女性の質問に答える。まあ何にせよ、面倒なことをせずに済んで良かったと安堵する。



「まあ、とりあえずお疲れ様です。それと、も」



 ………え?


 貴方も、てことは俺以外にもここに人が?

 恐る恐るさっき入って来た扉に目を向けると、



「………どこ、ここ?」



 というふうに戸惑いの声を上げている、先程助けた少女が立っていた。



「………あの」

「何ですか?」



 俺は目の前に座っている女性に、あることを聞いてみる。



「あの扉、俺が入った瞬間に消えるっていうギミックありますか?」

「いえ? 直ぐには消えませんよ。多分、数分はあそこに存在していると思います。それがどうかしましたか?」



 必死で走っても結果は変わらないという、所詮は無駄な努力だったらしい。

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