第二話 ログインⅡ
完成次第、投稿するようにします。
これからも引き続き、よろしくお願いします。
「あの………どこかで会いましたっけ?」
「あ……いや、すいません。ただの独り言ですので気にしないでください」
少し慌てた表情を見せるも、すぐに穏やかな表情に戻す。
すると、目の前の女性は、
「まずは、座ってくれませんか?」
と、言ってくる。
俺もここに立ち続ける意味は無いから、言われた通りに西洋風の椅子に座った。
俺が座ると同時に、女性は語り出した。
「ようこそ、"異世界"へ。如月 悠人君」
女性が今、俺にとって信じ難い言葉を発した。
「は、え? 異世界?」
「はい、異世界です。というか、実際のところを言うと貴方に心当たりがあるのではないですか?」
心当たり、と言っていたが、多分それは自分がいた世界とは違うあの世紀末みたいな世界の事だろう。
だが、問題が一つ。
「異世界、なんですか? 妙に近代的な感じがするし、俺の世界の未来か、あるいは過去みたいに見えるんですが」
矢張り、そこが一番気になる。
異世界といえば、緑が生い茂っていたり、西洋風な建物が並んでいたりしているのが定石。まぁ俺の勝手なイメージかも知れないが。
そのイメージが微塵とも感じないこの世界が、本当に異世界という事を呑み込めずにいる。
「それは、この世界が貴方の世界みたいに発展を遂げたからです。因みに魔法もありますよ」
「発展、ですか」
「まあ、見ての通り滅亡しましたけど」
「やっぱり滅亡からあんな光景なのか……」
「何故滅亡したのかはさておき、まずはこの世界が今どの様な状況にあるのだという事を説明しますね」
「状況?」
滅亡したのに、状況なんてことが有り得るのか?
そう考えていると、女性は説明する為にまた語り出す。
「滅亡はしましたが、人類が絶滅した訳では無く、小規模ではありますが生き残っています。それが今の人類の現状です」
「ちょっと待って下さい。さっきまで俺がいた場所には人が見つからなかったんですが?」
「何せ小規模なので、ほとんど一ヶ所に集まっています。さっきまでいた場所に人が居ないのは、多分そのせいでしょう」
「なるほど……ん?」
「どうしましたか?」
あの場所に人が居ないとなると、さっきビルが破壊したのはやはり事故だったのだろうか、
「いや、あの場所には本当に人が居なかったのか気になって」
「ちょっと待ってください。………これは」
女性が人差し指で机を叩くと、いきなり薄く四角い結晶が出現する。
そこには液晶画面の様な映像が映っていて、その映像を見た瞬間、女性は何故か驚いていた。
「何があったんですか?」
「………これを見てくれますか?」
女性が手を横に振る。
それと同時に、特大の液晶パネルみたいな物が何も無い空間から出現する。
画面に映っているのは、二つの人影。
遠くから映っている様な為に良く見えないが、この二人は不思議な事に、建物を軒並み破壊しながら移動している。
そこからは建物が崩れる音の他に、金属同士がぶつかり合う音が微かに聞こえる。
つまり、あの二人は戦っているのだ。
「何ですか、これ?」
「緊急事態が起きてしまいました。なので、重要な事を簡単に説明していきます」
「え? あ、はい。分かりました」
目の前の女性が、深刻そうな表情に変わる。それだけ、今起きている事は危険な状態なのだろうと思い、素直に話を聞く。
「この世界は––––––いわゆる、『ゲーム』です」
……早々何を言っているんだこの人?
そう思ってしまうほどの奇妙な台詞に、驚き過ぎて言葉を発せなかった。
「まずは、そのスマホ? と言うのでしょうか。それを持って『ステータス』と念じるか、喋って見てください」
とりあえず、信じ難いが言われた通りにやってみることにする。
さっきまでしまっていたスマホを取り出し、『ステータス』と念じてみる。すると、スマホの画面からパネルの様なものが拡大して浮き出でてくる。そこに書いていたのは、
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名前 ユウト・キサラギ
Lv. 1
BP.100
HP.1000/1000
MP.100/100
STR.1000
DEF.100
AGL.1000
LUK.10
スキル
メイン. 『未来視の眼』
サブ.
1 未設定 2 未設定 3 未設定
アタックスキル
未取得
装備品
武器
メイン.『???』タイプ:ブレイド・ 無属性
サブ. 未設定
上.『???』
下.『???』
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「これは………確かにゲームだな」
ゲームに良くある『ステータス』。それが存在するという事は、女性の言う通り、この世界がゲームの様になっているのは間違い無いらしい。
それにしても、?が多いのは何故だろうか。
「ご理解頂けましたか?」
「良く理解しましたよ。けど、スキルと武器のメインがどちらも埋まっているのはどういう事なんですか?」
「それは、最初から設定されている貴方自身のオリジナルのスキルと武器です。変える事は出来無いですが、サブは変える事が出来ます」
「そうですか」
「では、理解して頂けた所で、本題に入りたいと思います」
女性は一回深呼吸すると、また話し始める。
「まず始めに、さっきの画面に映っていた二人の内、………片方の男性を撃退して下さい」
「………はあ!?」
予想外の本題に、思わず大きな声を出してしまう。そんな俺を気にせず、女性は話を続ける。
「実は、戦っている二人の内の片方の女性がこの世界にとって重要な存在でして、今殺されるのは……非常に駄目なんです」
「……やつらはこの世界の人間なんですか?」
「いいえ、あの人達は貴方と同じ『プレイヤー』です」
「プレイヤー? ………もしかして、俺以外にもこの世界の外から来た人がいるんですか?」
「質問などは極力答えたいのですが、時間がありません。早く助けないと………手遅れになってしまいます」
そう言いながら、女性は悲しそうな表情へと変わる。そんな顔を見た瞬間、頭の何処かがズキッと痛み出した。
『––––––お願い、助けて……』
目の前には、転んだかのような擦り傷が所々にあり、綺麗な白髪を泥で汚した少女が立っている。
少女の背後には炎によって包まれた村が、遠目でも良く見え、その炎によって生まれた熱がここにまで届いている。
人の悲鳴や怒号などが、耳を覆いたくなる程の大音量で聞こえてくる。
少女は自分の服を握り締め、涙を流しながらも俺に助けを求めている。
これは身に覚えの無い記憶。だが、何故か鮮明思い出された、悲しい記憶だった。
「大丈夫ですか?」
その言葉のおかげで、俺の意識は現実へと戻される。
いったい今の記憶はなんだったのだろうか?
「あ、ああ。大丈夫です」
「そうですか。………無理を承知でお願いします。どうか、戦ってくれませんか?」
今の女性の瞳が、記憶の中の少女の瞳と、酷く良く似ていた。
正直な所、俺は戦いたく無い。
何処にも俺にメリットが無い。というかデメリットしか無い。
何処ぞの誰かを助けるなんて、もっての他。
………そう、思っているはずなのに、女性の表情を見た瞬間、こんな表情見たく無い、あの人を助けないといけないという考えを持ってしまうのは何故だろうか。
勝てる気がしない。
けれど、助ける事が出来るのに逃げるのは、何と無く駄目な気がする。
だから、俺は、
「分かりました。あの男と戦います」
戦う事を決意する。
「ありがとうございます!」
女性の顔が悲しい表情から華やかな表情へと変わった事により、不覚にも内心ドキッとしてしまう。
「と、とりあえず、戦い方を教えてくれませんか? このままだと勝て無いと思うので」
ゲームって言っている程だから、戦い方ぐらい普通にあるだろうと考え、それを聞いてみる。
「でしたら、【ウェポンスキル】の発動方法について教えます」
「ウェポンスキル?」
「ウェポンスキルというのは、その武器に備わっている力を解放する、いわば必殺技です。武器の名前を言えば発動すると思います」
武器の名前を確認する。
けれど、『???』と書いてあるだけで、名前が書いていない。
「名前、無いんですが……」
「それは多分……レベルや条件が足りないんだと思います。レベルを上げたり条件を満たしたりすれば後々表示されますが、武器の種類名をいうだけでも発動するようになっています。単発で威力が極端に弱くなるのが欠点ですが」
とすると、俺の場合は『ブレイド』と言えば発動するのだろう。
てか、ブレイドか。多分、剣か何かなのかな?
「他の事は後々説明しますので、今の所は戦いに行ってきてくれませんか?」
「分かりました。あのドアから行けますね?」
「はい。……あ、後一つ良いですか?」
「なんです?」
ドアに手を掛けながら、顔を向ける。
「………いえ、やっぱりなんでもありません」
「そうですか。じゃ、行って来ます」
ドアを開け、俺はさっきの世界に戻って行く。
ドアが閉まったあと、女性はただ椅子に座り続けていた。
「………この世界で、また貴方に会えるなんて思っていなかったです」
女性の頬に、一筋の涙が伝う。
その涙に、悲しみの意味は籠められてはいない。
「お願いユウト。いえ、【戦王】。また、この世界を救って下さい……」
その言葉に返事は無く、この綺麗な空間に儚く消えていくだけだった。