街への途中
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街へと向かう途中、ツバキたちは話をしていた。
そのほとんどは、ロッティが一方的にツバキやティノに話しかけていて、ツバキは曖昧な返事を返し、その代わりにティノが答える、というようなものだったが。
そんな会話の中、ロッティはある事を聞いた。
「どうしてツバキはレグルスなんて呼ばれているの?」
ロッティは気になっていたのだ。ツバキと名乗りながらも、他の人にはレグルスと呼ばれているわけを。
「……」
ツバキは答えたくないのか、何も言わず、代わりにティノが返事を返す。
「コイツにもね、いろいろあるのよ」
ティノの姿は黒猫に戻っていた。ツバキとロッティを先導するかのように、前に出て歩きながら言う。
「調べていたのなら、御伽噺について少しくらい知ってるんでしょう」
淡々と言うティノ。
「少し……だけ……。それでも肝心な部分はあまり知らないの……」
調べるにも何も、それに関する情報は少なく、集められる量にも限りがあった。
「でも、レグルスの事は分かったのね」
数少ない情報の中、ルディの言葉だけでレグルスの事を調べられたのはすごいことだろう。
御伽噺に関係する文献は少なく、そのなかで"御伽の国の小さい王"のことに触れているものなど、指で数えられるくらいしかない。
「探しているときに、一人の男の人が教えてくれたの。そのときに初めて知ったわ。ルディが言った時はなんの事を言っているのか分からなかったもの」
その言葉に、ツバキが反応した。
「男……って、どんな奴だった」
「え……どんな奴って言われても……」
ロッティは思い出すように視線を巡らす。その次の言葉を待つようにツバキはロッティを見つめる。
「銀髪で、片耳に紅いピアスをしていたような……あとは……んー……」
ほかに特徴があったかを、ロッティは思い出そうとするが、それ以上はわからなかった。
記憶にある青年の記憶は見た目のものしかなく、顔はどうしても思い出せない。まるで、そこだけモザイクかかったかのように、その記憶だけが曖昧だった。
いや、それは顔だけじゃない。何故その青年と話していたのか、どこで話したのか、その類のことを一切思い出せなかった。
「……銀髪……紅いピアス……」
ツバキはロッティのその言葉を反復して言う。
思い当たる人がいるのだろうか。
「知ってる人なの?」
「……俺の旅の理由だ」
ツバキはそう答えた。
「え?」
旅の理由……それは、ツバキが御伽噺に関わる事と繋がっているのだろうか。
「お前に情報を教えた奴は、確実に俺が探している奴だ。間違いない」
「な、なんで……?」
考えるよりも先に言葉が先に出た。
何故、ツバキはその青年を探しているのだろう。もしかしたら、自分がルディを探しているのと同じ理由なのだろうか……。
「……俺は助けないとならない人がいるんだ」
静かに、ツバキは言った。
「助けないと、ならない人……?」
話の流れから、銀髪の青年なのだろうか。
「ツバキの想い人よ」
ティノがこちらを振り返りながらそう言うと、ツバキの方をちらりと見た。
ということは、青年ではない……?
それとも、ツバキはソッチの……?
「……その銀髪のことじゃないぞ」
だが、対するツバキはティノと目を合わそうとせず、少し視線を逸らし言う。
「じゃあ想い人って、つまり好きな人?」
「……」
横に並んで歩いていたロッティもさらに追い打ちをかける。
「無愛想なのに……いるの……?」
「そ、それは関係ないだろ!」
ツバキは初めて動揺の色を見せた。
「違うのよロッティ〜。無愛想なんじゃないの。人見知りなの」
クスクス、と笑いながらティノが言う。
「酒場とか、粋がって行くくせに、そこで絡まれるとどうしたらいいのか分からなくなるのよ」
そういえば、店の店主には結構堂々としていたが、男たちに絡まれてからツバキはほとんど自分の口を開かなかった。
「クールな人だからかと思った……」
「……悪かったな」
むすっとしたようにツバキはそう答え、どんどん前へと進んでいく。
「あらあら」
ティノを追い越して歩いていくツバキは、しばらく歩くと、ふと足を止めた。
「……」
遠くを見つめるように立ち尽くすツバキをロッティは不思議そうに見つめる。
「……恋人だよ」
そして、少し振り返り、まるで呟くようにそう言う。
「恋人を、助けるって、何が……」
ロッティはそこまで言うと、口を閉ざした。
少しだけ見えたツバキの顔がとても悲しそうな顔をしていたからだ。
「ツバキ……」
青年とツバキの恋人。その二人は、どうしたのだろう。どうして青年を探し、恋人を助けるのだろう。
ロッティの疑問は尽きることがなかったが、ツバキは足を動かし始める。
「……ほら、早くしないと夜になる。進もう」
辺りは既に日が沈みかけていた。目的の街まではもう少しかかるだろう。
「たどり着けなかったら?」
「野宿だ」
「え⁉︎」
ツバキの返事に驚いたのはティノだった。
「野宿だ」
驚くティノに対してツバキは同じ返事を返す。
「絶対に嫌‼︎」
「私も嫌‼︎」
駄々をこねるようにティノとロッティは二人で地団駄を踏む。二人とも女の子だ。野宿は色々と嫌なのだろう。
「じゃあ早く行くぞ!本当はさっきの街に泊まる予定だったのが駄目になったんだから急がないと」
日の沈む方角を見ながら、ツバキの歩くスピードが速くなる。
「ツバキが喧嘩をふっかけられたのがいけないのよ!」
文句を言いながらもツバキのスピードに合わせて付いていくティノ。
その後ろから、ロッティは二人に追いつくように駆けていく。
新しい物語が、今、幕を開けた。