少女の事情。依頼の承諾。
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「……その犯人を、殺して欲しいの。……いえ、手を貸して欲しいの」
そして、ロッティはもう一度そう言い、付け加えた。
「お前の理由は分かった……が、なんで俺がお前のために手をかすんだ」
そこが一番の疑問点だった。ツバキは殺し屋でもなんでもないのだ。
「"御伽噺"が関係しているから。それに、ルディが言った。あなた、黒猫連れなんでしょ?」
やはり、後をつけてきているときに聞いていたのだろう。
「知ってるのよ。さっきだって聞いたしが」
そして、ロッティは一息置いて続ける。
「この世界の御伽噺はすべて、一人の少年が、レグルスが終止符をうつ。御伽の国の小さな王、レグルス」
「黒猫連れ。あなたがレグルスって言われている少年でしょ?私だって調べたのよ!それに、黒猫連れのレグルスって……」
ロッティは力説を黙って聞いていたツバキが、そこで口を開いた。
「……こいつは黒猫じゃない」
「え?」
「こいつは、妖精族だよ」
「え……ほんとにいたの?妖精なんて……」
「実際目の前にいるだろ」
「それは、そうだけど……」
いまいち信じられないとでも言うかのように、ロッティはティノの方をチラチラ見ながら語尾を濁す。
「ティノ」
ツバキは短く名前を呼ぶ。それに呼応するように黒猫の姿だったティノが酒場の時と同じ、黒髪美女の姿となった。
「紹介がまだだったね!私はティノ。黒猫のままでも話せるんだけどね。普段は、ツバキがこの姿じゃ目立つっていうから黒猫にしてるの。わかってもらえたかな?」
はしゃぐようにまくしたてるティノに対し、ロッティは少し引いた。
「あ、目立つっていうのは私が美人だからって意味じゃないよ?そりゃあ、スタイル抜群で最高の私だけど、目立つ理由はこれ」
自分にどれだけの自信があるのかがうかがえる事をいいつつ、ティノは後ろを向く。
そこには、半透明で、微かに光を放つ綺麗な羽があった。
「綺麗……」
酒場の時には見えなかったのだが……意識しないと認識しにくいのだろうか。
「でしょ?でも、妖精の羽って、高く売れるから……襲われるかもしれないのね。だから、姿を変えているの」
確かに、妖精の羽として売りに出ているのをロッティも見かけたことがあった。それはかなりの値段で売り出されていたが本物とは思っていなかった。
「……黒猫連れ……あなた、どうして妖精と」
「俺の名前は黒猫連れじゃない」
ロッティの問いを最後まで聞かず、ツバキは言った。
「レグルス」
少しムスッとした感じで続けてロッティが言った。だが、ロッティは先ほどの酒場の喧騒を見ていたのだ。本当は知っている。わざとこっちを言ったのは嫌味だった。
「ツバキだ」
対するツバキも少し拗ねたように答える。
「……ツバキさん。私に力を貸してください」
急にロッティはかしこまり、頭を下げ頼んできた。
「さん、なんてつける必要はない。頭を下げる必要も。御伽噺が関係するのなら、俺にも利点がある」
「じゃあ……」
かるく頭をあげると、ロッティは続きの言葉を期待するかのようにツバキの顔を伺っている。
「できる限り、力を貸そう」
そして、返事を聞くとロッティは安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう!ありがとう……」
下げなくていいといった頭を深々と下げ、お礼をする。地面には、ポタポタと雫が落ちて土が湿っていた。
「……だがまずは情報を集めないとな。ちょうど次の街で情報屋と待ち合わせをしているんだ。一緒に来るか?」
ツバキたちは旅の道中だったのだ。
「え、あ、いいの?」
「どうせ、一緒に行動しないとならないだろ?」
手を貸して欲しいというのだ。一緒に行動しないでどう手を貸すのか。
「付いて来いって言ってるのよ」
二人の会話が面白かったのか、くすくすと笑いながらティノが言う。
「じゃあ、お願いします!」
先ほどまでの涙はなくなり、ロッティの顔に笑みが浮かんだ。
「ほら、いつまでもそんなんじゃなくていいから……その、早く行くぞ!」
ツバキは照れたのか、少しだけ髪を掻きさっさとその場から動こうとする。
「あ、まって!」
そのあとを駆け足で追いかけるロッティ。
「……面白くなりそうね」
それを一番後ろから眺めていたティノはそう呟いた。
ロッティの過去編が一旦終了です。
一行はこれから次の街へと向かいます
次話もよろしくお願いします!