少女の依頼
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酒場をでたあと、二人……一人と一匹はそのまま村を出て行った。
少し辺鄙な場所に位置する村のため、その周辺にはただ、深い森と、開けた草原しかない。次の町へ行くには森を進むのが早いと判断したツバキは迷わず森の方へ向かった。
「……なんで言わなかったの、あの男たち、あなたを見抜いていたのに」
先を行くティノが振り向きもせずツバキに問いかける。
「そりゃあ、黒猫を連れていれば誰でもそう見えるだろ」
男たちが言った《黒猫連れのレグルス》とは、確かにツバキの事だった。
「……なによ、レグルス。もう名乗ったっていいじゃない。《アレス》の足跡は掴めているんでしょう?存在を教えてやるくらいしてやりなさいよ」
おちゃらけたように、からかうように言うティノに対してツバキは歩みを止める。
「レグルス……いい加減」
「俺をその名で呼ぶな。今はツバキだ。何度言ったらわかるんだ……」
先ほどとは違う、少し低いトーンで言うツバキに対し、ティノも同じく歩みを止め、ツバキの方へ向き直る。
「……はいはいツバキさん。……んで?後ろについてきている女の子はどうするの?この話も聞かれていたみたいだけど」
そう、ティノの言う通り村を出てからずっと、隠れるように後をつけてくる一人の少女がいた。
周りの木に隠れるようにしているが……バレバレなのだ。
「……」
怪訝そうに、ツバキは後ろを振り返る。が、それに合わせて少女は木の後ろに隠れる。木からは彼女の服の端が見えていた。……全く、隠れる気があるのか無いのか……。
「おい……。そこにいるのは分かってるからいい加減出てきたらどうだ」
ツバキが木に隠れている少女に声をかけると、少女はビクッと肩を震わせた。
「あ……あの……あなた、本当に黒猫連れなの……?」
少女は恐る恐る、という感じで木から顔を出し聞いてくる。先ほどのティノとツバキの会話を聞いていたのだろう。
「……ずっとついてきていたなら分かるだろ」
面倒くさそうに頭をかきながらツバキは答えた。
「あなたに、お願いがあるの‼︎」
その答えを聞くと、先ほどまで隠れていた少女は隠れるのをやめ、ツバキたちのほうへ向かってきて、真剣な、低い声で言う。
「殺して欲しい奴がいるの」
ツバキの眉が微妙に動いた。
……殺して欲しい奴がいる。少女はそう言ったのだ。
少女の見た目は十四歳くらいだろうか。少し質素なワンピースを着ていて、スカート部分には小さな花の刺繍が施されていた。髪は綺麗なブロンドで、かわいらしいな顔立ちをしている。
そんな可愛い少女の口から、『殺し』という言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。
「話を聞こう」
詳しく話を聞かない限り、すぐに返事をすることではない。
ツバキは近くに話をするための場所を探し始める。
近場に座れるほどの木陰に位置する岩を見つけ、そこへ移動すると、早速、少女は依頼の内容を話し始めた。
「まず、私はロッティ。ここではないけれど、こういう森の奥に、家族三人で住んでいたの」
「住んでいた……過去形なのか」
「そうよ。私の家族は、私以外……殺されたわ」
語尾の方は、悲しみというよりも、もはや諦めに近い声音だった。
「……」
「父も母も、何箇所もナイフで切り裂かれたようになっていたわ。私は、ちょうど家にいなかったの。家に帰ったら、酷いことになっていた。鼻をつくような血の匂い。切り裂かれた両親……部屋中に飛び散った血……」
思い出したかのように、ロッティは俯き、言葉をつなげる。
「その日の事を、私は絶対に忘れない……」
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これで、次に行くんですそうなんです……