妖魔と退魔師~交わらない思い~
「お前・・・妖怪?いや、妖魔か。神殺しすら可能とする人外が人の用心棒とは笑わせてくれるな・・・!」
「そういう君は退魔師・・・より厳密には陰陽師かな。人外に恨みでもあるの?随分牙をむくね」
物の怪森にて少年達は邂逅を果たす。それは殺気に塗れた殺伐とした出逢いだった。
「恨みは無いが怨みならある・・・人外は絶対悪、お前は敵だ!」
「人に善悪が存在するように人外にも善悪は存在する。悪と決め付け、見るべきものから眼を逸らすのなら・・・お前死ねよ」
片や人外を絶対悪とする退魔師、片や種族の垣根を捨て去る妖魔。
決して理解しあえない存在同士の戦いが始まった。
妖魔と退魔師~交わらない思い~
「間もなく森を抜けます。そうすれば闇永夜杜尊の統べる『境なき里』に到着ですよ」
「申し訳ない。貴殿には本当に世話になった」
「いえいえ、これも仕事ですから」
少年の言葉に男が答える。少年を除いた、男を含む妖怪二人に人間三人計五人の彼らは、四国伊予の国にいる隠神刑部という狸妖怪の遣いであり、古くから隠神刑部が懇意にさせていただいている夜杜尊に二十年周期で挨拶のために社に行っている。
今年は前回の訪問から二十年目で、再び夜杜神神社に隠神刑部は遣いとして彼らを出した。
しかし近年退魔師の活動が非常に活発であると共に、大陸から渡ってきた魔物たちが旅人を襲う事件が多くなっており遣いとして出した人間と妖怪だけでは不安が大きかった。
かといって遥か昔から続けている夜杜神神社への遣いをやめるわけにもいかない。そんな時、人間妖怪問わず用心棒として護衛を請け負っているという妖怪の噂を耳にした隠神刑部が、今彼らと共にいる少年の姿をした妖に依頼したのだった。
その少年・・・妖怪には名前がない。いや、正確にはあったのだが過去のとある件から名乗ることを止め、ななしで通してきたため彼の名を知る者は数百年来の極僅かな友人のみだ。
彼ら隠神刑部の遣い達も依頼した当初名を名乗ろうとしない少年に困惑したが、実力は確かであり地理にも詳しく伊予の国から境なき里を囲う物の怪森までは本来なら半年ほどかかる道のりを四ヶ月と一週間で来ることができたこともあって、最初に抱いていた少年への警戒心は完全に薄れていた。
「形は違えど、この森に入るのは何度目かな?随分と久しぶりだ・・・」
少年は小声で呟く。その声は護衛対象の耳には届かなかったが、もし誰かが聞いていれば酷く寂しげな声だと言うだろう。それほどに哀愁が漂う一言だった。
妖怪とは本来ならば人を襲う存在だ。襲うと一言で言ってもその方法は様々であり。生きるために食用として殺すもの、快楽のために危害を加えるもの、悪戯気分で襲うもの等々多くの妖怪が存在する。しかし手段は如何あれ妖怪が人を襲うというのはある意味公式になっている事実だ。
にも関わらず何故この少年は人の用心棒をしているのか。それは少年がある妖怪であるからだ。
少年は空亡と呼ばれる妖怪だった。空亡とは『太陽の化身』『百鬼夜行最後の妖怪』『全てを壊す者』『闇を呼ぶ者』など様々な呼び名がある大妖怪だ。
『百鬼夜行最後の妖怪』の名が示す通り彼の存在は人の描いた百鬼夜行絵巻という巻物状の絵の一番最後に描かれている。本来それは夜明けを意味する太陽だと思われていたもので妖怪とは考えられていなかったのだが、ある時その絵を見た人間がその太陽のような赤い丸をこれも妖怪なのではないかと主張したことが彼の誕生だった。妖や怪異は偶然や自然現象に人が畏れを抱き、こんな存在がいるのではないかと考え、空想の存在を認識したその時人外として生を受ける。たった一枚の絵が、彼の親だった。
それ故に少年は血の繋がりや絆というものを知らず、生まれたその瞬間から孤独を強いられてきた。加えて人の想像力とは尋常で無いものがあり生まれた直後から彼の力は凄まじいほどに強かった。加えて、その妖怪の特徴というのは素となった話の通りになる。故に少年が人に仇をなすのは百鬼夜行が過ぎ去った後ということになるのだが、生憎と少年が誕生してからは百鬼が集い暴れたことは一度も無い。だからこそ少年はその力を文字通りの厄災として振るったことは無かった。
しかしその力は意思を持ったばかりの少年では持て余すことしかできず、会う妖怪会う妖怪が皆漏れ出る妖力に身を震わせて離れていった。常に一人であった少年はあるとき一人の人間の少女に出会う。少女は少年が人ではないと分かったようだがまるで古くからの友人のように少年に接した。
その時のことを今でも少年は覚えている。人の手の暖かさを初めて知った、会話することの楽しさを初めて知った、孤独ではない喜びを初めて知った、離れたときの寂しさを初めて知った・・・その少女が少年に教えてくれたものは数知れない。やがて少女は死んでしまったが少年はそれ以来人も妖も関係なく、種族という壁を捨てて生きるようになった。
その過程で人間の用心棒を始めたのだが前述の通り彼は空亡というある種最強の妖怪であるためその依頼は大抵が完璧に遂行されてきたのでいろいろと噂が広まっているのだった。
今回もそんな用心棒の仕事の一つだったのだが少年はいつもより真剣にこの依頼に挑んでいた。何故なら目的地である境なき里、夜杜神神社は少年にとって親友とも呼べる仲である夜杜尊の神域なのだ。彼への挨拶のための旅だというのだからはりきらない理由はなかった。
あと少しで森を抜けて里に入る。それが少年のやる気を上げていた。なんといっても夜杜尊とは二百年近く会っていない。久しぶりの友人の里への訪問に、少年は浮き足立っていた。
そんな時少年は違和感を感じて振り返る。そこには森が広がっているだけで何も無い・・・かのように見えた。しかし次の瞬間。
「ひぃぃぃぃやぁっっっはぁぁぁーーーー!」
何やら世紀末染みた奇声を上げて真上から少年に飛び掛る影。しかし少年はそちらを見向きもせずに一歩下がり、そっと呟く。
「闇とは壁。精神的にも物理的にも超えることのできない無慈悲な存在」
その言葉に呼応して少年を真っ黒なナニか・・・少年が『暗黒結晶』と呼ぶ物質が覆いかぶさり、その影を阻む。
少年は腕を突き出して攻撃しようとするが、その影はばっと飛び退り軽く三丈(約10m)ほど離れた位置に着地して少年を見る。
その影は猫だった。ただし相当でかい。何よりも眼を引くのが猫の近くに死体が乗った荷車が火を上げながらふわふわと浮かんでいることだった。
その妖怪の名は火車、化車とも書き、葬式や墓場から死体を奪うといわれている妖怪だ。妖怪は猫又などはっきりとこの姿と判る妖怪から同じ名でも様々な姿がある妖怪なども存在するが、火車は猫の姿が最もよく知られている。猫なのになぜ火車なのか、それはこの妖怪が燃え盛る荷車によって亡者に責め苦を与えることに由来する。ようするに死んだ人の死体を更に痛めつけるという非常に加虐趣・・・残虐な妖怪だ。
しかし近年は退魔師が活躍していることもあり、昔と比べて死者の数が少なくなってきている。ある意味喜ばしいことではあるのだが、火車を含めた死体を餌にする妖怪や死体を依代にする妖怪からすれば堪ったものではない。そのため火車は死体ではなく生きた人間を襲って死体にした後、荷車に乗せるようになった。一言でいうなら「死体がないなら殺せば良い」というとんでも理論だ。人間、襲われる側からすればそれこそ堪ったものではない。
「にゃぁ・・・そこの人間くれ」
「却下、死ぬか帰るかどっちかにしてくれると僕的には嬉しいな・・・さがっていてください」
火車と少年が一言ずつ喋ると会話はもう終わりと言わんばかりに火車が少年に向かって走り出す。
火車が炎を纏った爪で少年を引き裂こうとするが先ほどの暗黒結晶の障壁が再びそれを阻む。
少年はそれを冷めた目で見ていた。この世界には種族序列と呼ばれるものがあり妖怪はその中でも下位存在なのだが、序列などものともせず上位存在に並びうる力を持った存在がいる。空亡も当然その異常存在に名を連ねる妖怪、種族序列第二位の『妖魔』だ。はっきりいうと少年からすれば火車ごとき動く必要も無い雑魚でしかなかった。
しかし火車はそんな少年を動かないのではなく動くことができないと勘違いして格下だと判断してしまった・・・それが間違いと気付くことはなかったのだが。
「にゃはははは!お前もしかしてショボイにゃ?お前の死体も焼くにゃ!」
火車がそう言って高笑いすると、障壁に当たっている爪を離して瞬時に少年に後ろに回り再び爪を振るう。
しかしそれも障壁に阻まれる。火車は荷車の火力を上げて少年に突っ込ませて、その反対側から爪を伸ばす。所詮は雑魚、何度か防がれたがこんな奴これで終わりだ、そう思っていた。
「・・・調子に乗るな」
少年が呟くと障壁が内側から弾け飛びその破片が荷車と火車を襲う。衝撃を抑えられず派手に飛ばされた火車は強く尻餅をついた。
火車が身を起こし少年に眼を向けた瞬間。
「焼き尽くせ、『魔陽紅玉』」
少年が火車に向かって伸ばした右腕から直径五寸(15cm)ほどの火球、否擬似太陽が打ち出された。火車はそれがなんなのか認識する間もなく摂氏六千度を超える超高温に焼かれて蒸発した。
その様を見届けて少年は呟く。
「人を喰らう汚らわしい塵屑が・・・この森を、夜杜を汚すな・・・」
それは友人の神域を侵されたことに対する怒りの込められた一言だった。少年はほんの数秒ほどそのまま火車の灰を見つめた後、護衛対象に近づいて述べる。
「おまたせしました。さあ、里に参りま・・・?」
「どうかしたのか?」
「いえ・・・」
少年は振り返って目を瞑る。数秒ほどすると何かを感じたのか目を見開き、護衛している人たちに早口で告げる。
「高い霊力を持った存在が近づいています。おそらく退魔師でしょう。僕がここに残るので貴方達は急いで森を抜けて里に入ってください」
「退魔師だって・・・!?わかった、急いでここを離れよう」
「念の為低級ですが妖怪をつけます。最後まで同行できないのが残念ですが・・・」
「いや、十分助かった。本当にありがとう。武運を祈る」
「そちらもお気をつけて」
少年の言葉に隠神刑部の遣いたちは頷いてその場から去る。それを守るように周囲から何体かの妖怪が傍らに付く。
彼らを尻目に、少年は近づいてくる霊力の塊へと視線を向けた。
『よいか?遥か昔から人は妖や怪異に脅かされて生きてきた。加えて近年大陸から魔物なる存在が国へと渡ってきておる。我ら退魔師はそれら人外から人を守らなければならん。妖精や精霊も同様じゃ。自然はただそこにあってこその自然。意思を持ち、力を持ったその時点で奴らもまた人外。人外とは人の敵であり絶対なる悪なのじゃ。凌魔よ、その名の示す通り魔を凌駕せよ。闇を祓い人を守るのじゃ。祇霊院を頼むぞ?若き陰陽師・・・』
ふっと思い出す先代の言葉。何故今になって思い出したのだろう?今いる場所の所為だろうか?
少年・・・『祇霊院凌魔』は瞑っていた目を開けて前方の森を見上げる。
森の名は物の怪森。祇霊院と因縁の深い夜を司る神、闇永夜杜尊の神域である里を囲う自然の結界だ。当然ながらその中は混沌としており、弱強様々な妖怪や魔物、妖精が生息している。人外魔境という言葉がぴったりの人にとって危険な場所。
何故凌魔がそんな森を目の前にして立っているのか。それは彼の一族、祇霊院の使命のためだ。
祇霊院家とは代々続く退魔師の家系で古くから人を襲う人外と戦ってきた一族だ。退魔師と一言で言っても彼らの使う術は複数存在し、使用される術式によってその呼び名は異なる。祇霊院はその内の一つである陰陽師の総本山とも言える家名であり、国の退魔師の最高位である退魔御三家の一柱だ。
彼は祇霊院の現当主含む退魔御三家の上層部にして退魔組織の統括「奥の院」の命令でこの森の妖魔の殲滅に来た、殲滅といってもそこまで過激ではない。元々は別の退魔師が追っていた妖怪『火車』が森に逃げ込んだため代わりとして凌魔が抜擢されたついでに妖魔の数を減らして来いというのが上からの指示だった。
本来なら前任の退魔師が森に入る筈だったのだが、里だけでなくその森を神域としている神の作り出した結界『妖魔結界』の存在が退魔師の進入を拒んだことに加え、森から攻撃してきた妖怪が上級だったのでその退魔師では力不足と判断された。
何よりもその森を神域とする神が夜杜尊ということも、代わりの退魔師を祇霊院から出す要因になった。
重ねて言うが祇霊院家は夜杜尊と浅からぬ因縁が存在する。妖は夜に生きるものたちであり、退魔師が妖を狩るというのはひいては夜杜尊の眷属を狩るということなのだ。そのため今より三百年ほど昔、夜杜尊が退魔師、それも祇霊院に制裁を下したのだ。それ以来退魔師はある程度まで人外の行動を見逃してきたのだが、近年大陸から魔物が渡ってくる頻度が上がったのに加え人を襲う妖怪の活動が活発になったためこうして定期的に妖魔狩りを行っている。
もっとも物の怪森は夜杜尊の神域ということもあり奥の院としても手を出すつもりは無かったのだが、追っていた妖魔が逃げ込んだ以上おとしまえをつけさせるためにも干渉はやむなしと判断された。
さて、そこで凌魔が抜擢されたのだが、その理由としては彼が陰陽師だというのがまず第一に挙げられる。
陰陽師とはその名の示す通り陰と陽、二つの属性を掛け合わせて使用される術式だ。夜杜尊が神域に張った妖魔結界は光を拒むものであり、通常の退魔師であれば霊術にせよ結界術にせよ込められた霊力は陽の力に偏ってしまう。それ故前任の退魔師は結界に阻まれて森に入れなかったのだが、陰陽師であり陰の力さえも利用するものならば入れるのではないか。奥の院はそう考えた。
加えて凌魔が天才と称される程優秀な人材であるということも、彼がこの任についた要因である。彼は今年で齢十六を数える若さでありながら都を襲う大妖の相手を幾度と無くこなしてきた。実を言うととある理由から彼は祇霊院の本家からも、分家からもあまり良い目では見られていない。しかし流石に殲滅にまでは至らなかったがそれらの妖を追い払ってきた事実があり、彼の実力は一応ではあるが認められていた。
問題は実際に彼が森に入れるかどうかなのだが・・・
「一先ず試してみるしかないか」
凌魔はそう独り言ちると森に向かって手を伸ばしながら数歩前に出る。伸ばした手が木々の間に入ろうとしたその時、
バチィッ
一瞬の閃光と共に凌魔の手がはじかれる。やはりこの結界は凌魔を通してはくれないようだ。
「さて、どうしたもんか・・・ん?あれは・・・」
この状況の打開策を考えながら周囲を見渡すと結界に違和感を感じる場所を見つける。違和感といっても、目に見えておかしいといほどではなかった。ごく一部だが、結界が薄くなっているところがあった。おそらくその場所を誰かが通ったのだろう。
これならばいけるか。
凌魔はそう考えて懐から紙で作られた人形を取り出すと人差し指と中指で挟むようにして持ち口の前に持っていく。霊力を人形に込めて陰と陽の比率を7:3ほどにして言霊を唱える。
「我を守りし者よ。依り代を仮の姿とし、力を示せ。契約に従い、この場に顕現せよ。汝の名は式神・破鴉、我が意に従い魔を滅ぼさん」
詠うように唱えられたその言葉に合わせるように真っ白だった人型に文字が浮かび上がり光を放つ。
最後に凌魔がふっと息を吹きかけて指を離すと、人形は風に舞うように飛び上がってその姿を変えた。
それは鴉だった。ただしその大きさは普通の鴉よりも少々大きく、左右の翼には眼のような赤い、紅い、朱い模様が入っている。
「破鴉、壊せとは言わない。穴をあけろ」
凌魔が命じるとその鴉は結界の薄いところを通って森に入り、振り返ると結界に向かって羽の眼球模様の中心から暗い色の光を放つ。
光が結界に触れると陶器や磁器が割れたような甲高い音が鳴り響く。凌魔が手を伸ばすと、先ほど凌魔を拒んだ結界は効果を成していないらしくその手は森の木に触れた。
凌魔は一つ頷くと破鴉を先行させて森の中へと走り出した。
途中、追っている妖魔の捜索とその他の木端妖怪の殲滅のために複数の式神を召喚しながら森の中を進んでいく。
森に入って一刻ほどたったのを月を見て確認したその時、追っている妖魔の特徴のある妖力を感知してそこに向かった。
しかしその場に到着した時既にその妖魔の姿は無く、代わりと言わんばかりに少年の姿をした妖怪が立っていた。
その少年の後方には人と妖魔の入り混じった数人の集まりが慌てたように森の奥・・・おそらく里であろう場所に向かっている。その周囲には目の前の妖魔の使役していると思われる妖力の強い獣が二、三匹連れ添っていた。
その様子を見てから凌魔は少年に向かって声を上げる。
「お前・・・妖魔か。人外が人の用心棒とは笑わせてくれるな・・・!」
怒りを込めて放たれた言葉に少年は顔を顰めながら応えるように話し出す。
「そういう君は退魔師・・・より厳密には陰陽師かな。人外に恨みでもあるの?随分牙をむくね」
妖怪に恨み?随分牙をむく?その言葉を凌魔は嘲笑する。こいつは自分の立場を、狩られる側だという自覚がないのか、と考えながら。
「恨みは無いが怨みならある・・・人外は絶対悪、お前は敵だ!」
霊力を練り、式神を呼び戻す。目の前の敵を滅ぼすために、凌魔は力を行使する。
「人に善悪が存在するように人外にも善悪は存在する。悪と決め付け、見るべきものから眼を逸らすのなら・・・お前死ねよ」
対する少年は凌魔に向かって無表情で殺気を放ちながら静かに告げる。
戦闘の回避など不可能だった。何故なら少年達には、互いに譲れないものがあったから。
少年と凌魔はそれぞれ妖力と霊力を練り上げ詠唱する。
「闇とは物、不定形故に姿を変えて形を持つ・・・空亡が命ず、刃となりて切り伏せよ。闇小太刀二刀“上弦”“下弦”」
「祖は光、素は霊鉄、楚は守護の願い・・・魔を破り闇を払え、我が声に応え顕現せよ!霊刀“陽祇刃”」
二人はそれぞれ得物となる刀を創り出す。片や月の銘を冠する二振りの小太刀、片や太陽の銘を冠する一振りの刀。また、弥生だというのにその日は夜明けが早く、まだ落ちきっていない月と上り始めた太陽が二人を照らす。奇しくもそれは妖怪である少年と退魔師である凌魔そのものを表しているかのようなものだった。
二人は構えると相手を見据えて隙を探す。しかしどちらも油断はなく、そのまま硬直して動くことができなかった。
風が吹き木々が揺れる。獣でも通ったのだろうか?パキッという枝の折れる音を機に、二人は同時に走り出す。
接近すると同時に二人はそれぞれの刀を振るいぶつけ合う。今、相反する存在達の戦いが始まった。
続く...