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絆魂繋縁~種を超えし者~  作者: 千夜真虚人
第一部「  」第一章
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序章

 序章


むかしむかし・・・


人がまだ力を持たず弱き者として妖や霊に怯えていた時代


種族の垣根を乗り越えて様々な種族と親しい『者』が居たそうな


その『者』は人を支え、妖魔と遊び、妖精を叱り、精霊を友とし、神にすら文句を言ったそうな


その『者』を中心に争いは減り、人間も妖魔も、妖精も、精霊も、神すらも手を取り合って生きていた


しかしある時何故か、力を持った別の『モノ』が支配を掲げ他の種族を攻撃し、そこから再び争いが起こった


力を持った『モノ』は暴虐の限りを尽くし多くの者が息絶えた


その時その『者』が立ち上がり、様々な種族を従えて力を持った『モノ』に立ち向かった


その『モノ』との戦いは7日間に亘り、流れる時に比例して戦いは激しさを増していった


ついに力を持った『モノ』が倒れたその時、どの種族も疲弊しきり、世界はその有様を無残なまでに変えていた


あらゆる種族が絶望に打ちひしがれる中、その『者』は再び立ち上がり、種族間の架け橋となって世界の復興に尽力した


その後、その『者』が寿命を向かえ死に絶えるまで、他の種族との諍いなど一切起こらず、平和そのものだった


今ではその『者』が何の種族だったのかは伝わっておらず、悠久を生きる神々すら覚えていない


しかし、その彼、または彼女の話は神々や精霊の間で語り継がれ、後にその人種も種族も何もかも気にせずに接したその様から、その『者』はこう呼ばれるようになる


魂の絆と縁を繋ぐ者・・・『絆魂(はんごん)繋縁(けいえん)』と・・・



「というのが、彼の者に関する話で最も原型を保っている話の流れだ」


 真っ黒の装束に、しかし藍銅鉱や柘榴石、黒曜石によって煌びやかな装飾がなされ、誰が見ても非常に位の高い家の子だと考えるであろうその少年は話を締め括る。


 それを聞いていた巫女服を着た幼い少女が目を輝かせながら、終わり?続きは?あるんでしょう?とでも言いたげな表情で少年を見ていた。


 少年は苦笑しながらぽんっぽんっと少女の頭を撫でて残念だが終わりだと告げる。


 少女がその話を聞きたいと願ったのは神社の蔵にある書物を漁っていた時に見つけた擦り切れた一巻の巻物が原因だった。


 少女の見つけてきたそれは少年にとって非常に懐かしく、そしてあまり見たくない物でもあった。さきほどの話が数多もの年月の中で風化し、だんだんと改変されていった彼の者の話で最も原型を保っているとするならば、少女が持ってきたそれは過去に少年自身の手で書き上げられた偽りの物語だったからだ。


 当時まだ幼かった少年はあの戦であまり役に立たなかった。それでももはや忘却の彼方に消えかけているあの方は優しく頭を撫でてくれたが、子供心にそれは逆効果であり嬉しくはあったが神経を逆撫でされてもいた。そのため忘れないようにと書物に書くにあたって、事実とは異なる、自分の活躍した物語を書いた。俗に言う黒歴史という奴だ。


 まだ神として未熟極まりない幼子だったとはいえ、数千年経ってからそれを見るとなんとも情け無く思えてしまう。


夜杜尊(やとのみこと)様」


 苦笑しながらあの頃を思い出し感傷に浸っていると、少年は何時の間にか離れて行った少女と入れ違いに傍らに控えていた自身の従者に話しかけられる。


 従者は妖孤だった。それも上級妖怪に名を連ねる天孤で、その齢は二千八百を越える。あと二百年程で空孤に至る、自慢の従者。名を天音と言う。


「どうした?天音(あまね)

「いえ、やけに楽しそうだと思いましたので・・・如何なされましたか?」


 心配性な奴だ・・・いや、この場合は純粋な興味か?


「なに、昔を思い出していただけさ・・・」


 そう言って少女に目を向ける。今は遊び相手にと『妖魔ヶ庭』から連れて来た銀孤と仲良く走り回っている。本当に無邪気なものだ。あの愚か者が戦乱を起こす前を思い出す。


「そういえば」

「ん?」

「前々からお聞きしたいと思っていたのですが、何故夜杜尊様は夜杜神神社に現界なさられている際に、その様な幼子の姿をとるのですか?仮にも八百万の一柱、それどころか夜という概念を司る御方だというのに、それでは威厳の欠片もないではありませんか」

「お前わりとはっきり言うな!?普通従者なら口を濁すなり遠まわしに言うなりするものであろう!?」

「そうでしょうか?後この従者のあり方や主への接し方といったやり取りは私が貴方様にお仕えしてから六億四千七百二十三万五千五百九十一回目です。そろそろ飽きませんか?」

「お前は・・・いやいい。で、この格好だったな。別に大した事じゃない。我が幼き頃、あの方が態々我の前では人に換算してほんの二つ三つほど年上に見える身体にして、我を弟のように接してくれていたからな。あの娘・・・癒姫(ゆき)はお前も知っての通り家族を知らぬ・・・要するにそういうことだ」

「夜杜尊様、重要なところを隠すとはもしやお恥ずかしいのですか?」

「口を慎め狐。そろそろ我とて怒るぞ?」

「・・・失礼」


 心底残念そうに一歩下がる天音・・・本にこいつは嫌な奴だ。それでいて有能なのだから困る・・・しかしこいつ、何やら死相が出ているが死にはせぬよな?天孤が空孤に至る例は少ない。大抵が至る直前に天命を全うしたり死神がその命を刈り取りに来るのだ。神といえど死の否定は出来ぬ。幾度となく繰り返してきた別れの一つと考えれば我は問題ないが・・・やはり親しい者の死は辛いものがある。出来れば癒姫が成長するまでそんなことがなければよいのだが・・・


「夜杜尊様?」


 じっと見て考えていると、視線が酷く気になったらしい。きょとんとした表情で首をかしげながらこちらを見ている。


「いや・・・何でもない」


 何か言うべきか迷ったが、こいつ自身まだ己の死相には気付いておるまい。何も言わぬ方がいいだろう。


「そうですか?ならよろしいのですが・・・」

「そうだそうだ。何もない」

「・・・まあいいでしょう。それにしても無邪気な物ですね」

「癒姫か?」


 天音と共に自身の神社の巫女となりうる少女に眼を向ける。何時の間にか銀孤だけでなく家鳴りや猫又といった妖怪や妖精が加わり、なんとも賑やかに楽しんでいるではないか。特に今は春、月明かりが照らす中に桜吹雪がそれらを彩り、幻想的な光景となっていた。


「人と妖魔、妖精、御遣い・・・これほど種族が入り混じった光景を見れるのはここだけであろうな」

「そうですね・・・」


 腕を振り杯と酒を取り出して杯に注ぐ。甘い香りを楽しみ、杯をあおって飲み下す。再び酒を注ぎながら独り言のように天音に言う。


「我はな、天音・・・癒姫には期待しているのだよ・・・」

「期待・・・ですか?」

「そうだ。あの娘はいつかあの方のような・・・絆魂繋縁になってくれるのではないか、とな」

「しかし、今の世は力を持った人間が妖魔を狩る世界となっています。その期待はあの娘にとって重荷になるのでは?」

「別になってほしいともなれとも言っておらん。この神社周辺・・・いや、この村だけで、本当にちっぽけな世界でいい。あの娘ならば種族の垣根なぞ軽々と取っ払って人妖入り乱れる豊かな場を作れるのではないかと、そういう期待だよ。本人に言わず、期待するだけなら問題はないだろう?」

「それは・・・そうですね・・・そうなると、なんと素晴らしいことか・・・」


 近年、人間は退魔の力を掲げ人外に対して攻撃、殲滅を繰り返している。そう・・・人風情が生意気にも我が夜の眷属である妖怪を狩っているのだ。腹立たしいことこの上ない。何が苛立つかって三百年程前に一度祇霊院とかいう陰陽一族を叩き潰しているにも拘らず再び妖魔狩りなどしているのだ。許せるものではない。


「世の中癒姫のような者ばかりであれば平和でしょうに・・・」

「そうさな・・・」


 切実な願望だった。しかし願望は所詮願望であり叶うことはない。


 溜息を吐き立ち上がる。この後は神々の会合だ。またあの忌々しい天照の阿婆擦れの顔を見にゃならん。神の地位など捨ててくれようか・・・


「天音、我は出雲に向かう。此度の会合、『大陸』から渡ってきた客が居るらしい。どれほどの時を要するか分からぬ故、社を頼むぞ」

「承知いたしました」

「天音、壮健でな」


 天音に一時の別れを告げ神社を離れる。とはいえ死相が濃かった。天音と会うことはもう二度とないだろう。癒姫に新しい御遣いをつけねば。



 この時我は、数年後、かの戦にも劣らぬ厄災が訪れようとは微塵も考えていなかった。


 まして、その中心に古き友人が、そして癒姫がいようなどとは、夢にも思わなかった。




 夜杜尊が去った後、神社で癒姫は月を見上げた。何か懐かしい感じのするものに呼ばれた気がしたがそれはすぐさま消えた。きょとんとして月を見つめるが、妖精の悪戯にあい、他の妖精や妖怪と共に仕返しと言わんばかりにその妖精を追いかけている内に、それは忘れてしまっていた。


 別の場所、深き森にて少年は木々の隙間から月を見上げる。懐かしいものに呼ばれた気がした。それは気のせいではなく、会話出来ずとも今は亡き友人の魂が自分を見下ろしていた。悲しさが心に溢れ、泣き出したい衝動に駆られたが、それを抑えて手を振る。次第に薄れていく友人に別れを告げ、少年は歩き出す。まだ僕は、答えを見つけていないから。


 退魔御三家陰陽一族祇霊院。それが自分の家の名だ。人外は絶対悪であり、狩らねばならない敵、それが退魔師として最初に教えられることだった。魔を凌駕する存在になれ、祖父にそう言われ、期待に応えたいが為に術を磨いてきた。しかし、ふと思う。月を見上げると、本当にこれで正しいのか不安になる。しかし疑うことは許されない。今宵も月の下、ひたすらに術を練る。いつか妖魔を消し去れるように。


 月は好きだ。あの白さはまるで母親のようだから。優しく包み込まれるような月明かりは、見ていて心が癒される。太陽は嫌いだ。あの照り付くような熱い光は翼が焼かれる錯覚を感じる。人は恐い。でも同族も恐い。もうずっと一人のような感じがする。お母さんが死んで2ヶ月。人間のお父さんは優しいけれど、まだ私は一人だ。いつか私も友達と言えるような、仲間と言えるような者に出会えるのだろうか?月はただ、無言でそこにあるだけ、答えはくれなかった。




 四人の子供は月を見る。自分自身を見るかのように、幻を見るかのように、過去を見るかのように、問いに対する答えを求めるように・・・ただ月を見る。



 数年後、子供達は出会う・・・厄災を前に、孤独な者が月の下で邂逅する・・・



続く...



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