鴉、助けられる。
その日を境にして、父は取り繕う気を
なくしたのかの様に益々自暴自棄になり、
昼間から酒を飲んでは暴れ、仕事も
休む事が多くなった。
当然、次第に生活は荒れ家庭崩壊へ
真っ逆さまに落ちていく。
母は疲れ切っていて、
父と同じ血が流れている俺を
以前以上に疎ましく思ってるのも
その目つきから容易に想像がついた。
「いい加減にしろ!テメェー!」
「貴様!父親に向かって
その口のきき方は何だ?」
「アンタが父親だと?笑かすなよ。
知らないのか?
子供に手をあげるような奴を
親とは呼ばねーんだよっ!」
「なんだと!」
諦めに近い俺とは対照的に
兄は父が暴れだすと必ず矢面に
立ち自分の方へ注意が向くように
振る舞っていた。
母は疎か、俺にも時には上に
覆い被さって助けてくれた。
(たすけてくれてる?
この俺を?この人が?)
身体の上に振動と共に伝わってくる
その体温が不謹慎だと思うそれ以上に
嬉しくて……嬉しくて……仕方なくて
そこには恐怖など微塵も無かった。
俺は生まれて初めて他人の温かみを
感じていていたのかもしれない。
それ程…………嬉し……かった。
ある日のこと、例によって
騒ぎ出した父とそれを制しようと
している兄を見て意を決して飛び出した。
「もうやめて下さい、お父さん!!」
いつも助けてくれる兄を俺も庇いたくて
俺は掴み合いをしている二人の間に
割り込んだ。
「どけー!!零一っ!」
「うわっぁぁぁ!!」
でも結果、俺は思い切り払われた
父の手によって吹っ飛ばされた。
兄がそんな俺を見て、父の方に
再度向き直り叫びながら突進していく。
「てんめぇぇーぶっ殺す!!」
「やめてぇぇ」
馬乗りになって渾身の力で
殴る兄に俺は転んだままの姿勢で
その足を掴んでいた。
「……こんな奴、庇うのか?」
「それでも俺の父さんなんです。
本当はとっても優しくて
こんな……人じゃ……な……った」
どんなに酷いことをされても
血まみれの父を目にして
このまま死んじゃったらと思うと
どうしても止めずにはいられなくて。
それに……
もしそうなれば、この兄だって
ただでは済まないことくらい
いくら馬鹿な俺だって分かる。
声に詰まった俺に怒気を削がれ
兄はチッと舌打ちをして
父から離れてくれた。
「……分かった。
手当するから部屋いくぞ」
腕を引っ張られ初めて踏み入れた
兄の部屋となった部屋。
緊張と珍しさとその他諸々の
わけがわからない気持ちが一杯になって
嬉しいくせに急に泣きたくなった。
「そんなに痛かったか?」
ぽろぽろ泣く俺に痛みで泣いているのだと
思った兄の言葉に又涙が溢れてくる。
「ちが……や、そうじゃありません」
でも何と説明していいのかは
分からない。
だって実際何で泣いているのか
自分ですら分からないから説明の
しようもなくて。
「消毒終わったぞ、頭少し切ってるけど
そこなら先ず他人には分からないだろう」
「ありがとうございます、兄……あ」
“兄と呼ぶな”
「……好きなように呼べばいい」
「―――え?」
今度は自分の手当をしながら
ぶっきらぼうに言われた言葉に
耳を疑って反射的に聞き返してしまった。
「お前の呼びたい言い方で
構わないって言ったんだよ。
今度は聞こえたか?」
「は、はい!ハイっっ!!」
「声、でけーよ」
「……すみません……すみ……ません」
「バーカ、お前謝りすぎ」




