鴉、焦る。
「くっそ繋がらない」
電話もメールも。
俺がホテルでの桐江さんの件を
四堂に言ったせいで二人の間で
色々揉めていたのは知っている。
余計な事を言ったと四堂に詫びた俺に
それ自体が問題じゃないからと
四堂は言ってくれた。
でも、だからってそうかとは
流石にならないって。
女関係は折込済みだしとか
口では言ってても俺にはそうは見えないよ。
だってそれはお前が再会して口説く前の話で、
今の状況での桐江さんの行動は
お前にとってどう映ってるのかと思うと……。
四堂……
随分余裕をなくしてる気がするのは
俺の思い過ごしか?
電話口でもイライラしてるのが
伝わってくるし、しかも俺にも内緒で
来日してるだろ、お前。
事実、機会を作っては何度も四堂は来日し
可能な限りコンタクトを取っていたことを
後で聞かされた。
後でっていうのはこの間のことをあまり
アイツが話したがらなかった事と、
それでも数日前、桐江さんから
言われたという会話を何とか
聞き出した後から一切連絡が
取れなくなったからだった。
向こうの知人にきいてもアメリカには
戻ってないという。
日本にまだいるとして
アイツのことだから実家には戻ってないだろう。
とすれば、あのマンションか。
電車に揺られながらもう一度
メールを確認するがやはり返信は無い。
(あの馬鹿……)
今、会社にとって新たな投資を受ける
大事な時期にCEOが何をやってるのかと
叩かれても仕方ないような事を
アイツはしている。
実際、マウリッツやジーニーから日本で
トラブルを抱えてるのなら
いっそ撤退しろとまで言われてるんだぞ。
元々『Updraft=Faust』にとって
日本のシェアは重要視されていない。
お前のたっての希望だからと
社員が反対しなかった経緯があること
よもや忘れた訳じゃないよな?
問題があれば真っ先に切り捨てる
対日本におけるうちのスタンス。
それってお前が一番危惧していたことだろう?
自ら事態を引き起こしてどうする。
……もしかして、今
そんな事も分からなくなってるのか?
マンションに辿り着いた所で
深呼吸をし一気に階段を駆け上がった。
見つけたらとことん説教してやろうと
勇んで乗り込こみ、合鍵を使って
扉を開けて数歩入った所で絶句した。
いつもは整然と片付けられた部屋が
見るも無残な状態になっていたからだ。
(何だ……コレ。何が起こってる?)
寝るだけの仮部屋といえど
多少なりとも家具やその他日用品とかが
あるわけで、それら殆どが形をなしておらず、
書類も散乱し破られているモノさえあった。
四堂は何処だ!!??
凄く嫌な予感がして急いで
ゴミと化したモノを避けつつ家人を探す。
「四堂ッ!!!」
寝室の奥、壁にもたれ掛かり倒れ込んでいる
奴を漸く発見した。
(良かった……いた)
その目はうつろで
明らかに泣きはらしたと分る目元。
恐らくあまり眠れてもいないんだろうと
察しがつく。
俺が来たことさえも気が付いていないようだ。
「四堂……」
嘘、だろ?
―――これがあの四堂?
ここまで変わるのか。
「お前、食事……取ってんのか?」
「…………。」
その返事は無くて。




