鴉、絶望する。
いつ暴れだすか分からない父。
よそよそしい継母。
俺や父に一切、口をきこうとしない義兄。
でも、平穏ならもうそれで良かった。
痛くもない、我慢もできる。
……だから、
父と二人っきりの時より
寂しさが増した気がするのは
気のせいなんだと自分に
毎日毎日言い聞かせながら
あの頃は生きていた気がする。
父が暴れることは誰も知らない。
それだけが救いだった。
このまま―――
もう本当にそれ以上何も望まないから、
どうか父さんが……
そう願わずにはいられなかった。
だけど、そうそう俺の願望など
叶うわけなどなく、
俺の危惧はすぐに
現実へ投下されてしまう。
父は変わらなかった。
いや、最初こそはお酒を
飲もうとはせず、父なりに我慢
しようとしていたのかもしれない。
だけど、悲しいかな人っていうのは
そう簡単には変わりはしないのだと
すぐに思い知る事になった。
再度それが起こったのは
丁度、兄さんがバスケの全国大会で家を
数日空け、母も遠方の親類の
法事ごとで自分だけ出れば済むからと
不在の時だった。
たまたま父の知り合いが、久々に
近くに寄ったからと父に酒を勧め、
俺が見た時には一旦は断っていたのに
良い酒だからとの誘いでも
受けたのだろうか乗ってしまったようだ。
陽気な話し声からやがて怒号に
変わり、階下からの激しい物音が
聞こえだした頃、俺の脳裏に
かつての恐怖が蘇ってきた。
恐る恐る下に降りてみると
想像以上の惨状で、ありとあらゆる物が
散乱し壊れ、見るも無残な残骸へと
成り果てていた。
「ひゃ~~ぁぁ!助けてくれ!!
一体どうしたっていうんだ?
い、石川さんっっ!?」
「うるせぇ!!黙れこの野郎!!」
「うわぁ!!!」
多分、この人はこんな父を見たのは
初めてなんだろう。
おじさんは部屋の隅で父を止めることなく
ブルブルと震えていた。
「おじさん!早く出て行って下さい」
「だ、だけど、き、君は……うあッ!」
今にもおじさんに飛びかかろうとする父の
足に飛びついた。
「大丈夫です、慣れていますから。
良いから早く!!」
「離せ!零一っ!!」
「わぁぁ~~!」
「お父さん!もうやめて!!
お願い、お父さんお父さん」
足にしがみついたまま悲鳴を上げて
飛び出したおじさんを見届けると
俺は漸く手を離し、後は
父の感情のままに身を任せた。
「痛っ……」
久々に受けた痛みは
思った以上にキツく身体を
苛んでいた。
淡い期待は脆くも崩れ落ち
そんな甘い考えを持った自分に落胆する。
(あ……でも良かったかな)
あの二人がいない時で。
暴れ疲れて横たわってる父と
壮絶な部屋の在り様をみて
急に可笑しくなって声を
立てて笑っていた。
何か……疲れた。
もう何もかもが
どうでもいい。
俺は二人が帰って来る前に
あの酒瓶を近所の空き地で叩き割った。
父さんが悪いんじゃない、
こんなものがあるからいけないんだ。
「こんなモノ……っ」
割れた瓶を何度も踏みつけ
粉々になるのをぼやける視界で
見届けたのち俺はその場に崩れ落ちた。




