鴉、先手を打たれる。
もう―――限界だった。
「俺は……」
言ってしまいたい、好きだと。
「俺は――俺は!貴方を」
「なぁ、零一」
俺の言葉を遮った声は
穏やかな、まるで子供を諭すかのような
そんな声だった。
「家庭に飢えてるのはお前だけじゃない。
執着してるのは俺も同じだ。
母子家庭で、そのお袋も生活の為に
仕事でいなかったし
お前も知ってる通り夜勤とかで
夜一人になることだってあった。
一人で食べるメシは味なんてしない。
どんなに高級な食事を出されるより
誰かと一緒に食べるカップメンの方が
余程美味い」
分かるだろ?お前ならと
兄さんは言う。
「確かにバスケは好きだったが、
将来それで食える保証はないし。
どうせやめるなら早いうちの方が
諦めがつく。
どんなものも家族と引換には出来ないさ。
……お前を見てて同じだと思ったんだよ。
例え血が繋がってなくても
どこにも負けない兄弟になりたかった」
……兄さん。
「この先もお前は大事な弟。
俺の一番であることには変わりない」
「……!?」
「なぁ――、俺、
ちゃんとお前の兄貴になれてるか?」
「まっ、兄さん……俺は」
兄さんはニッコリ笑って
俺の唇に人差し指を立てた。
「一度口にしてしまったものは
無かったことにはならない、
よく考えるんだ。
言ってる意味、分かるな?零一」
「!!!!!」
――知ってる。
――この人は知ってる、俺のこの気持ちを。
そしてもう一度、兄さんは
改めて問い直してきた。
「良い兄貴になれてるか?俺」
そして、
それを敢えて、
今、聞くんです……か?
答えは一つしかない、
「……兄さんは……」
なのに?
「ずっと完璧……です」
そう答えるしかなかった。
だって最初からそれ以外の選択肢は
用意されていない。
涙が零れ落ちる。
先手を打たれてしまった。
兄さんは俺を弟としてしか見ていないと
遠回しに言っている。
それ以外の何者でも無いと。
だからそれ以上何も言うなと、
そう聞こえた。
もしかしたら俺の気持ちに
気が付いているからこそ
わざわざそんな事を言わせたのだろうか。
どんなに好きでも諦めるしかない。
兄さんは望んでいない。
“一番の大事な弟”
少し前だったらこれは躊躇いもなく
嬉し涙だと断言できた。
“弟”として可愛がってくれ
大事にしてくれる
その気持ちで一杯だったろう。
でもいまソレが辛い。
“弟”の言葉が痛くて堪らない。
こんな日が来るとは思わなかった。
人とは実に欲深く出来てるもので
満足することを覚えない
愚かな生き物だと思う。
俺が欲しかったものを過分に与えてくれる。
この人にこれ以上何を望むつもりだ?
満たされ、どんどん貪欲になって
歯止めが利かなくなったその先に
一体、何が残る?
ソレを越えないようにと
線引きをされてしまっては
もう手も足も出ない。
今まさに口から出て来そうになっていた
言葉を涙の苦味とともに飲み込む。
そうするしか無かった。
兄さんは家族である“弟”の俺を
欲しっている、それ以外はいらないのだと
それを知ってしまったから。
その証拠に―――
「そっか完璧、か」
兄さんは今までで
一番嬉しそうな顔で笑ったように見えた。
「それを聞いて安心した。
お前も俺の自慢の弟だよ」
だからこそ、
兄さんは俺の泣いている理由を
この日に限って追求しようとはしない。
誰よりも残酷で優しいこの人に
俺は一生敵うことはないだろう。
頭をその大きな手でポンポンと
撫でられた時、瞬きと共に
大粒の涙がこぼれ落ちた。
――気が、狂いそうだ。
昨日一緒にUPしようか迷った回。




