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第1章  嵐の中で

空は厚い雲で覆われ、稲妻が瞬くような速さで走っている。


超豪雨といってもいいほどに大粒の雨が降り、風は暴れて地面に生えた草花を容赦なく散らしていった。


そんな中、未だ散らされてはないが空中でぐらぐらと傾いでいる大きな物体があった。


それは、まるで城のようだ。


白い壁で造られたそれは、嵐の中必死に宙に浮いていた。


底面には大小数千個のプロペラが付いており、それぞれが違う速度で動いているが、その中には動いていないものやびっこをひいているものもあった。


今にも壊れそうな城は、高度700mほどの場所で左右にぐらついている。


そのとき、城は急に体勢を整えた。


ガシャン、バコンと危なっかしい音を響かせながら高度をぐんぐん上げていく。











「もう!どうなっちゃってるんですかーっ!言うこと聞いてくださいよぉっ」


だんだんと上昇していく城の操縦席に、黒いサングラスに白衣を着た男が椅子の上で嘆いていた。


城の名前を連呼し、緑色の頭を抱えてヘッドバンを繰り返している。


今にも乱舞しそうな勢いで嘆きまくると、突然操縦室を飛び出していった。


向かう先は城の中のロビー。


揺れているのにも関わらず廊下を全力疾走をして駆け抜けると、ロビーのドアをバンッと開けるや否や、


「ヤバイデスー!オチマスー!」


と叫んだ。


自分たちが乗っている城が操縦不能状態にある中、ロビーにいる2人の男たちは平然としていた。


「落ちるも何も、上昇しているじゃないか」


涼しい顔をしてそう言ったのは、長く揺れる金髪に蒼い光を燈した瞳を持つ、エルフの子孫ディアーノ。


彼は椅子に腰掛けると、自分で入れたコーヒーの中に角砂糖を3つほど入れるとカップを少し揺らして砂糖を溶かした後、優雅にそれを口に含んだ。


「そうです!上昇してるんですた!」


あまりのショックに言葉もおかしくなり、テンションもだんだん上昇してきた。


彼の作った城はどんどん高度を上げていく。


このままでは、大気圏に突入してしまうのではないかと思うほどの速さだった。


問題は、この城の上昇を止めるということ。


そして、それを止めるにあたってもう一つ問題が生じる。


城の動力源でもある真下のプロペラの回転を止めるか、プロペラ自体を破壊するかのどちらかになる。


操縦不能となった城に施される手段は、これが限度だろう。


万が一プロペラを破壊した場合、城は急停止してこの高さから重力に任せて落ちるという仕組み。


その場合、危険が免れないだろう。


中に乗っている彼らはもちろん、貴重品や食物などパーになってしまう。


つまり、これからの旅に支障が出る。


「あぁっ!」


アルカは頭上に豆電球を光らせた。


「エイン!エインの魔法があれば、何とかなりませんか?」


エイン、と呼ばれた彼は、温かいホットミルクを落としそうになりながら答えた。


「え、僕?」


「そうです!ギルド唯一の魔法使いのあなたなら、何とかできませんかっ?」


サングラスの奥の瞳を爛々と輝かせている錬金術師を困ったように見つめると、エインは申し訳なさそうに首を横に振った。


「残念だけど、魔法使いは錬金術師が施した特別な錬金魔法に関与することはできないんだ」


アルカの豆電球が切れた。


そのまま床に膝をつくと、今度は顔を覆って後ろに仰け反り、後頭部を床についた。


ものすごい格好だ。


そしてなんという柔らかさ。


「もうおしまいです!みなさん、遺言の準備はできてますか!?」


大げさなことを言い、今度は仰向けに寝転がると手を胸の前でクロスした。


「あぁ…僕の発明のせいでこんなことになってしまうなんて思ってもいませんでした…さようならみなさん…」


アルカの最後(?)の言葉を聞きながら、ディアーノはコーヒーを飲み干し、エインは心配そうな表情を浮かべた。


「…ぁ、お前何そんなとこで昼寝してんだよ。今は夕方だ起きろクズ」


罵声と共に、ロビーに入ってきた全身黒ずくめの男はアルカを蹴飛ばした。


「なっ、何するんですか!今僕は祈りをささげてたとこなのに!ロキルのせいでどこまで言ったか忘れちゃったじゃないですくわぁっ!」


再び喚きだすアルカを跨いで、ロキルはディアーノの元へ行った。


「どうすんだよ」


「どうするも何も」


ディアーノがそう言った瞬間、城全体ががくんと大きく揺れた。


重心が右に傾く。


テーブルやら椅子やらコーヒーカップなどが右側に滑っていく。


「わ、どうなってるの!?」


「まったく」


「ちょちょ、ストップですー!」


「……。」


今度は左に傾ぐ。


「今度は左!?」


「私のお気に入りのカップが…」


「ミーファちゃぁあん!」


「いい加減うるせぇぞアルカ」


「ロキルはなんでいつも僕だけいじめるんですか!?」


「うるせ、クズアルカ」


「今度はクズがついたぁ…よく聞いてくださいよっ。僕はですね、世界一‥のわぁあっ!」


まだまだ揺れる城。


そして、一度大きな衝撃のあとに城はついに下降していった。


中にいても、風を切る音が聞こえる。


そのとき、エインがあっと声を張り上げた。


「ルファエル!ルファエルは!?」


その言葉に、全員言葉を失くした。


「まずいな‥」


ディアーノは傾ぐ天井を見つめた。


ルファエルがいない。


異常事態が発生した場合、ここに集まるという掟がある。


しかし、ルファエルは現れない。


アルカは痺れを切らしたのか、よろけながら立ち上がると部屋の隅に設置されている放送機器のところへ走った。


壊れそうな勢いでマイクを手に取る。


「ルファエル!聞こえますか!!?」


城内にアルカの逼迫した声が響く。


「すぐにホールに来てください!異常事態です!」


そう叫んだ瞬間、城内は気持ち悪い浮遊感に包まれた。


城が、落ちている。







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