王子様とナイトの初喧嘩2
オリオン史の講義が始まって、20分を過ぎたというところだろうか。
ハイネは、ウェルター教授の執拗な嫌がらせに、早くもうんざりしていた。
講義は毎回90分。
終わるまで、後一時間以上も二人きりで過ごすのかと思うと、自然とため息がこぼれる。
レオンには、講義を受ける時は、講師と二人の方が集中できるからと言って、席を外させるようにして、嫌がらせを受けていることを隠している。
彼は、正義感が強く、良くも悪くもまっすぐな男なので、ハイネが嫌がらせを受けていることを知れば、恐らくやめさせようとするだろう。
そうなれば必然的に、サエラ王妃と衝突することになる。
ハイネとしては、ただでさえ問題を起こした危険人物として周りから目をつけられているレオンを、これ以上厄介事に近づかせたくはない。
とはいえ、サエラ王妃意外にも、王宮内で関係がうまくいっていない人間は大勢いるし、皆さん、なかなかに分かりやすい嫌がらせを仕掛けてくださるので、隠しておくのにも限界があるわけで。
どうしたものかなと、考え事をしている間も、ウェルター教授の嫌がらせは、絶賛継続中だ。
今日の講義の範囲には、魔法の内容が含まれているのだが、先ほどから、魔法に関する部分の説明だけが、徹底的に省かれている。
ハイネがそのことを指摘すれば、“魔力がないのに、魔法のことなんて知ったって意味がない”というような嫌味が返ってくるのだろう。
「先ほどから、集中されていないようですが、何かおっしゃりたいことでもおありでしょうか」
講義を中断して、ニヤニヤと、意地の悪い笑みを浮かべながら、ウェルター教授が話しかけてきた。
展開が分かり切っているだけに、指摘するのは面倒でしょうがないが、指摘しなかったとしてもどうせ何か言われるのだろう。
本日何度めかのため息をつきつつ、重い口を開いた。
「僕の気のせいでなければ、さっきから講義が所々省略されてるみたいなんだけど?」
言ったとたん、待ってましたとばかりに、ウェルター教授の嫌味攻撃が始まった。
「これはこれは、お気づきでしたか。決して手を抜いているわけではないのですよ?ハイネ様の為を思って気を使ったつもりでしたが…ご不快のようなら、申し訳ありませんでした。」
申し訳ないだなんて、これっぽっちも思っていないであろう品のない笑みを浮かべ、ウェルター教授の嫌味は更に続く。
「魔法に関する所を説明するのは…ハイネ様に失礼ではないかと思いまして。使えもしない魔法の事を説明されてもつまらないでしょう。それに、いくら魔法について学んだところで、使えないのでは意味もありませんし。」
言い返すと余計に話が面倒になるのが分かっているので、黙って聞き役に徹する。この程度の嫌味、今更何とも思わない。
全く、ここまで予想通りの展開だと、何の面白みもない。
たまには、もう少し予想外の方向に事が進んでもいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えたのがいけなかったのだろうか。
ウェルター教授の嫌味は、突然乱暴に鳴り響いたノックの音で中断された。
そして…、こちらの返事を待たず、勢いよく開かれた扉の先には………眉を吊り上げ、怒りの表情をしたレオンの姿。
予想外の展開ではあるが、あまり歓迎できる展開ではなさそうだ。