表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱の王子様  作者:
7/20

王子様とナイトの初喧嘩

レオンと過ごす日々は楽しい。


けれど、そんな毎日でも、憂鬱な日というものはあるわけで。


まさに今日がその日だ。




温室で読書をしつつ、ハイネはそっと溜息を吐いた。


今日は、午後から、週に一度のオリオン史の講義がある。


ハイネは別に、オリオン史が嫌いなわけではない。


むしろ、歴史を学ぶのは好きな方だと思う。


問題は、講師の方だ。


ハイネのオリオン史の講義を担当するウェルター教授は、名の知れた歴史学者だ。


数々の研究を行い、成果を上げている優秀な人物である。


しかし、研究には莫大な資金が必要だ。


その資金を融資しているのが、オリオン第四王子の母である、サエラ王妃なのだが、ハイネは、このサエラ王妃とうまくいっていない。


それも、非常に深刻なレベルで。


向こうが一方的にこちらを目の敵にしているので、関係の改善の仕様はなく、どこまでも悪化の一途をたどっている。


その影響で、ウェルター教授のハイネに対する態度も決していいものではなく、毎回、オリオン史の講義では、ねちねちと嫌味攻撃を受けている。


サエラ王妃が命じているのか、ウェルター教授が、王妃のご機嫌取りの為に自主的にそうしているのかは知らないが、嫌味以外にも、毎回手を変えてちょっとした嫌がらせをしかけてくるので、オリオン史の講義は、精神的疲労度が高いのだ。


まあ今日も適当にやりすごそう、でもやっぱり面倒だなーなどと考えつつ、読みかけの本を閉じて視線を上げると、すぐ側の芝生で、剣の稽古をしているレオンの姿が視界に入った。


ハイネが温室で読書をする時、傍らでレオンが剣をふるうのは、すでに馴染みの光景となりつつある。


無駄のない身のこなしで、迷いなく剣を振るうレオンの姿は、いつ見ても清々しい気持ちになる。


一つ一つの動作が精錬されていて、剣術の知識など全くないハイネから見ても、レオンがかなりの使い手であることがはっきりと分かる。


「見てばっかいないで、本読まないんなら、お前もやってみたらどうだ?」


しばらくぼんやりと眺めていると、視線に気づいたレオンが動きを止め、こちらに歩み寄って声を掛けてきた。


稽古してやると、レオンから剣を渡されたので、とりあえず受け取る。


「やりたいのは山々なんだけど、多分、レオンがものすごく苦労するはめになると思うよ?」


「苦労?運動音痴過ぎて、教えるのが大変ってことか?」


続けて、大丈夫だ、お前に運動神経とか全然期待してないと、笑顔でさらっと失礼なことを言い放つレオン。


船を作っての賭けで負けて以来、レオンは約束通り、ハイネと二人の時は敬語で話すことをやめた。


最初は、しぶしぶと言った感じであったが、最近では、今のような遠慮のない言葉もポンポン飛んでくるようになった。


どうやら開き直ったらしい。


「君、最近ホント僕に対する言動に容赦ないよね。」


「嫌なら、喜んで敬語に戻してやるぞ?」


「嫌じゃないから。むしろ嬉しいくらい。」


笑顔で答えると、“お前はマゾか!”とすかさず返された。


「どうだろう?考えたことなかったなぁー、サドではないと思うんだけど、マゾかと言われると…」


「真面目に返事するな!そこは普通に否定しておけ!」


レオンの全力のつっこみに、更に笑みがこぼれる。


こんな、たわいのないやりとりがどうしようもなく楽しい。


冗談ではなく、本心で、彼が容赦のない言動を自分に向けてくることに、喜びこそすれ、不快感など微塵も感じたことはない。


例え、賭けで負けて仕方なくそうしているだけだと分かっていても、何やらレオンとの距離が縮まったような、親しくなれたような、そんな気がして暖かい気持ちになれる。


「で、結局稽古するのか、しないのか?」


ため息混じりのレオンの問いかけに、やっぱり遠慮しておくよと答えを返す。


「さっきレオンが言った通り、運動神経は壊滅的だから、教えるのはもちろん大変だと思うんだけど、僕が言ってる苦労っていうのは、教えてもらった後のことなんだよ。」


そう言うと、レオンが怪訝そうに顔をしかめたので、説明の言葉を続ける。


「前に一度、稽古してみたことがあるんだけど、途中で動けなくなっちゃって…そこから二日間くらいはまともに動けなかったんだよね。」


「…どこか、怪我でもしたのか?」


途端に、レオンが眉を寄せ、心配そうな表情を浮かべる。心配してもらっているところ申し訳ないが、そんな深刻な話ではない。


「いや、筋肉痛で。」


「………は?」


「だから、筋肉痛。」


「………。」


あの時は、さすがに驚いた。ほんの一時間ほどしか稽古していないというのに、全身筋肉痛で体がガタガタになったのだ。


それこそ、腕をまともに持ち上げることが出来ないほどで、着替えから何から、人の手を借りていたものだ。


「だからさ、何をするにも、普段の五倍は手がかかると思うんだよ。ほぼ一日中僕と一緒にいるレオンには、全面的に世話してもらうことになるだろうし、大変だと思うよー。」


「運動不足にも程があるだろう!!!!!」


返ってきた予想通りの反応に、声をあげて笑うと、笑い事じゃないとまた怒声が飛んできて、だから日ごろから運動しろと言っているじゃないかなどと、レオンのお説教タイムが始まった。


レオンとの時間は本当に楽しい。気づけば、憂鬱な気分はどこかへ引っ込んでいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ