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最弱の王子様  作者:
6/20

王子様との日常3

「…さっきの話の流れで、なんで賭けをすることになるんですか?」


ろくでもない予感しかしないが、とりあえず話を聞くだけ聞いてみた。


「僕とレオンで勝負して、レオンが勝ったら君を騎士にした理由を教えるよ。勝負方法は…そうだなぁ、この葉っぱで船を作ろう!それを小川に流して、先に噴水までたどり着いた方の勝ち。」



「負けたらどうなるんですか?」


賭けというからには、負けた場合はレオンの疑問に答えてもらえない、というだけの話ではないだろう。


それではレオンに一方的に都合が良すぎる。


きっと、こちらも何かしらの要求をされるに違いない。


「レオンが負けたら、今後、僕に敬語禁止。前から思ってたんだよね、ずっと一緒にいるのに堅苦しいなーって。」


ハイネが無邪気に、とんでもないことを言い出した。


「王族相手にそんなことが出来るわけがないでしょう。」


「公の場じゃなければ、何の問題もないよ。僕自身が良いって言ってるんだから。」


どうやらハイネは、簡単に引き下がる気はないようだ。


「無理なものは無理です。だいたい、堅苦しいのが嫌だとおっしゃいますが、ノエルだって敬語じゃないですか。」


「ノエルのは、癖っていうか、なんていうか。個性…みたいな?誰にでも敬語だし。それこそ、友達と話すのだって。でも、レオンはそうじゃないでしょう?」


確かにレオンは、友人に対し敬語を使ったりはしない。しかし、ハイネとレオンは友人ではない。あくまで、主従関係にある。


そう言った瞬間、ハイネがとても痛そうな顔をした。


何というか、とても寂しそうな。


間違ったことを言ったつもりはないが、普段飄々(ひょうひょう)としているハイネにそんな顔をさせてしまったことに焦り、罪悪感が押し寄せた。


「そう…だよね。僕とレオンは友達じゃないもんね…。」


まずい。


この流れは絶対に良くない。


「えっと、いえっ、あのっ…」


何かフォローを入れなければと口を開いたものの、こういう時に限って何の言葉も出てこない。


「本当は、賭けとかは口実で、レオンと一緒に遊びたかっただけなんだけど…。それで、ちょっとでも仲良くなれたらいいなって…」


ハイネは、少し声を震わせながらそう呟くと、うつむいてしまった。


表情が見えなくなった分、よけいに焦りが込み上げる。


もしや…泣かせてしまったのだろうか?


まずい。


本当に、まずい。


なんだこの展開は!?


気づけばすっかりレオンが悪者になってしまっている。


「別に、ハイネ様と仲良くなりたくないとか、そういうことを言ってるんじゃないんですよ?」


この、いたたまれない状況を打破するべく、必死に言葉を探し、なんとかハイネにそれだけを伝えた。


「…じゃあ、勝負してくれる?」


あいかわらず、うつむいたままの状態でハイネが問いかける。


「いえ、それは…」


「そうだよね…。やっぱり、僕と一緒にいるのはあくまで仕事で、それ以上の付き合いなんてしたくないよね…」


「……………。」


声を震わせ、そんなことを言われてしまえば、もう拒否する言葉など言えるわけがない。


「…分かりました。勝負をお受けします。」


ため息交じりにそう返事した瞬間、ハイネが勢いよく顔をあげた。


「わーい!やったー!そうと決まればすぐやろう♪今やろう♪」


「……………。」


それはそれはいい笑顔で、綺麗な虹色の瞳をキラキラと輝かせて目の前ではしゃぐ王子様。


とても、つい先ほどまで盛大に落ち込み、泣いていた人物とは思えない。


というか、これはもう、ぜったい泣いてなんていなかった!!!


どうやら、ハイネの策にまんまとはまってしまったようだが、気付いたところで時既に遅し。


ひきつった顔で固まっていると、ずっと黙って状況を見守っていたノエルと視線が合った。


「ご愁傷様です。」


苦笑しつつのノエルの一言で、やはり自分はハイネに嵌められたのだと確信した。


「あれ?レオン怒った?」


きっと、不機嫌が顔に出ていたのだろう。


ハイネは、立ち上がり、レオンの隣まで来てしゃがみこむと、椅子に座ったレオンを見上げるようにして問いかけてきた。


「…怒ってません。ただ、自分のまぬけさに腹が立っているだけですので、ハイネ様はお気になさらず。嘘泣きも見抜けないなんて、俺もまだまだですね。」


怒っていないというのはもちろん口だけで、腹が立っていたので、応える言葉には皮肉がまじる。


「怒ってるじゃないかー。ごめんって。」


いつも通りの、ふにゃふにゃとした柔らかい笑みを浮かべながらのハイネの謝罪。


…絶対悪いと思ってないだろう。


「でもさ、レオンと仲良くなりたいっていうのは、本当なんだよ?君が僕の騎士になってくれて、僕は本当に嬉しいんだ。」


そう言って、船を作る用の葉をレオンに差し出すハイネの顔は本当に幸せそうで。


相変わらず腹は立っていたが、まぁ、勝負ぐらいしてもいいか…


差し出された葉を受け取りながら、不思議と、そんな気持ちになった。






今日、王子様について新たに分かったこと。


王子様は、嘘泣きがお上手だ。


そしてもう一つ。


葉船作りも上手かった。


そんなわけで、船での競争はレオンの惨敗。


賭けはハイネの勝ちとなり、レオンは王子様の思惑通り、敬語禁止令を受け入れることとなったのだった。


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