戻るために
古来は龍族と人間は不可分であった。
だが、どこからともなく放たれた弾丸は、当時の龍族の族長を精確に射抜いた。
龍族はそのような弾丸を作ることができなかったため、人間が撃ったものとされた。
龍族が何と言おうと、人間は誰一人としてそんなことはできない。
弾丸は空から降ってきたからだ。
しかしそのために、長い間の戦争が行われてしまった。
今は、それぞれの住処を荒らさないということで、一応の決着を見ているが、これからどうなるのかわからない。
俺は、そんな世界で、数年前まで運送をしていた。
その途中、両親とはぐれてしまったという沙由里を拾って、うち捨てられた村で野宿をした。
その時、俺と紗由里と一緒にいる龍族の子供であるタンニーンを育てることになった。
それからいろいろとあって、今では、タンニーンの祖父にあたる天雲とそのパートナーで沙由里の父親と再会できた。
紗由里の母親は、今どこにいるのだろうか。
それは、この場にいる誰一人として知ることができない問題だ。
「とりあえず、お父さんと一緒になれてよかったじゃないか」
俺は紗由里に、頭をなでてやりながら言うと、うなづいていた。
「でも、どこにいるか、見当がつかないね」
「タンニーンはどう思う?」
朝ごはんを食べてきたらしく、満足げに空を飛んでいるタンニーンに聞いてみた。
「うーん…どこかにはきっといるだろうね。でも、どこか分からないや」
「上から見てもダメか」
「分かんないね。この周りには山はあるし森はあるし、川も沼も霧が深く立ち込めているところもあるしで、はっきりと見通すことができないんだ」
「そりゃ分らんな、仕方ないか」
「…どこにいるんだろう」
泣きそうになっている紗由里に、俺は優しく声をかける。
「大丈夫さ、きっと見つかるから」
そこへ、紗由里の父親の畿誡梱得とその上司の座等安里と天雲が帰ってきた。
「おや、仲良しなんですね」
梱得が俺に、にこやかな笑みを顔に浮かべながら、話しかけてくる。
「まあ、7年も一緒に暮していれば、自然と仲良くなりますよ」
「それもそうですね」
アハハと自然に笑っている横で、座等が無表情で、俺たちを見ていた。
「そういえば、上司と部下の関係と言っていましたけど、お仕事って何ですか」
「私たちの仕事ですか」
いよいよ来たかといった表情に、梱得が変わる。
「一言でいえば、空間移動ですかね」
「空間移動って、どんな感じなんですか?」
「簡単に言えば、ここから遠く離れた地点への瞬間移動ですね。時空跳躍という名前で行っていました」
「では、同じ方法で帰れるのかも…」
俺が言ったが、梱得はさみしげに首を左右に振った。
「材料がありません。必要なものが、この世界にはなかったのです。それで、私たちはこうして偶然出会った天雲とともに旅をしながら、材料を集めているところなんです」
「なら、その材料集め、手伝いますよ」
俺が梱得に提案すると、急に顔色が良くなった。
「いいんですか」
「ええ、どんなものなのかを教えてくだされば」
「では、絵を描きますので、覚えておいてください」
地面に絵を描き、どのようなものがほしいのかを、一つ一つ、俺が納得するまで教えてくれた。
すべての説明が終わるころには、日もすっかり上がりきっており、そろそろお昼が食べたくなるころだった。
「覚えた?」
紗由里が俺に聞いた。
「もちろんさ」
それからタンニーンにも聞いてみた。
「どうだった」
「これまで見たことがないものばかりだね。どうやって探そうか」
「龍族は、互いに離れたところであっても、共感できる。いわゆるテレパシーだ」
天雲が、その場にいた全員に語りかけ始めた。
「手分けして、見つけ次第連絡するというのはどうであろうか」
「そうしましょうか」
天雲の提案に沿って、計画が練られて、1か月後に、いったんここに戻ってくることにし、それまでに何かしら見つけることができたら、互いのパートナーを通じて連絡を取るということとなった。
「では、最長1か月後に」
先にそういって、二人を乗せたまま天雲が飛び立った。
その風圧に負けないように、しっかりとタンニーンの足元で踏ん張る。
姿が見えなくなってから、俺は紗由里に聞いた。
「そういや、お父さんと一緒にいなくてもよかったのか」
紗由里は、簡単に答えた。
「今は、ね」
それからタンニーンの背中に乗り、天雲が向かった方向と逆にとんだ。
ちゃんと目的のものが見つかることを願って。