春眠暁をなとかやら
トアリスト大陸・・・レオ=ナナイ国
広大なトアリスト大陸の覇権を握っている大国。機械文明の進歩を見ないこの国で発展している文明、それはこの国を大陸一の国へと叩き上げた物である。
「契約・召喚」・「魔法」
精霊やモンスターと呼ばれる者達と契約を結び使役する。また契約者、召喚士と呼ばれる者は魔法を使うことが許される。機械文明が日の目を見ないこの国で発展してきた重要な文化である。
トアリスト大陸には基本的には9つの季節があり、それぞれ代表する精霊達の名前が付いている。
火の月サラマンダー、水の月ウンディーネ、風の月ジン、土の月ノーム、木の月ドリアード、月の月ルナ、金の月アウラ、光の月ウィル・オ・ウィスプ、闇の月シェイド
それぞれの月で大陸の気候や人々の生活に大きく影響を与える。魔法にも影響を与えることは言わずもがなだが。
そして、この大陸には魔法学園というものが存在する。そしてこのレオにも存在している。
「バルデ魔法学園」
13歳で入学、3年間魔法や契約、召喚について学ぶのだ。そして……
このバルデ魔法学園の門を三年間通う生徒がまた一人。
火の月7日 レオ国
13歳を迎えた男女の9割以上は魔法学園へと入学する。そしてバルデ学園もまた例に漏れず今日入学式を迎える。
「お譲様…起きてください……お譲様」
年頃の少女の部屋というのがぴったりくるであろう部屋で、一人の少女は楽しむ様に眠っていた。夢の半ばで少女を呼ぶ声にはまだ気付かない様子で快眠を楽しんでいるようだ。
「仕方ないですね。ウル、お願いします」
ウルと呼ばれた存在が少女の顔元に近づくと、前足で軽くひと押し。それが引き金となり現実へと一気に引き戻した。
「……んっ」
「ナナセお譲様、今日は入学式ですよ」
その言葉を受け渋々身体を起こす。視界には起床の立役者、小さき蒼狼「ウル」が尻尾を左右に振り振り。
「おはよう、ウル……」
まだ寝入りそうな言葉と寝ぼけ眼の少女「ツキシロ・ナナセ」は13歳を迎え、今日、バルデ魔法学園に入学することになっている。
身体を軽く伸ばし、名残惜しくベッドに別れを告げる。正面に据えられた大鏡……背中まで伸びた雪のような髪、すらっとした蒼眼がこちらを覗いている。
「お譲様。では失礼します」
ナナセの身の回りの世話をしてくれているのは「ツキシロ・ユキナ」
ショートカットで燃えるような朱色の髪と黒い瞳が特徴的だ。色々あって今は私のメイドをしてくれている。ただ姉にお譲様と呼ばれることにはナナセもずいぶん抵抗はあったが。
「はい、準備終わりましたよ」
意識が漸く覚醒しかけた頃には、ナナセは寝巻姿から、学園の学生服に着替えが終わっている。13歳にしては高い伸長に締まった身体が「大人びた学生」を演出しているようだ。ウルも何か嬉しそうだ。
「ありがとう、姉さん。それじゃあ行ってくるよ」
「はい、お弁当。朝ご飯も入れてあるから」
肯定の意味を込め、右手を少し挙げ返事を返す。家でゆっくりと朝ごはんを食べることも好きなのだが、外の風景を楽しみながら朝の食事を楽しむことはもっと好きだ。
部屋から出ると直ぐにエントランスへと繋がっている。訪問者を歓迎、そして家を見守るように一組の肖像画が飾られている。
14代当主「ツキシロ・サクラ」 「ツキシロ・ジェード」
ナナセとユキナの両親の肖像画。二人とも紅い髪が特徴的だ。ただ二人はもういない。母のサクラは10年前に他界。父のジェードはものごごろ付く前から家にはいなかった。ただ姉から聞いた話ではとてもできた人だったそうだ。そして、母が亡くなってからすぐにウルを飼い始めた。あのころから成長している感じはないが可愛くなついてくれていて、今では大事な家族だ。
「行ってきます。父上、母上」
バンっと勢いよく開かれたドアから光が差し込む。外には光が溢れ、自然が満ちている。少女の門出を祝福しているようにも見えた。
「ウル、来てもいいけど、呼ぶまで出て来ちゃダメ。分かった?」
言葉を理解しているかのように、ポンっと音を立てウルは姿を消した。ウルは呼べば現れ、駄目と言えば姿を消すのだ。最初は不思議がっていたが、今では何も思わないし、何かと便利だ。
「今日の朝ごはん~おいしいな♪」
新緑の木々の木漏れ日が暖かく心地よい風が通り抜ける。片手には卵サンド。ユキナが作ってくれた朝ごはんだ。
誰かに聞かれたら恥ずかしいのではないかと思うのだが、ナナセはそんなことはお構いなしといったようだ。ユキナに感謝しつつ全て食べ終わるころには、ナナセの気持ちも冷静さを取り戻す。
「さて、行こうか。バルデ学園に……15代当主ツキシロ・ナナセとして」
巨大な門は大きく開かれ、ナナセを招いている……そんな風にも見えるのだった。