○第五話 侍女竹刀
拙者の家…侍女家は『泉』と呼ばれた小さな村の村長をつとめる家で
拙者はその家の一人娘だった。
だが、家族や皆から『姫様』扱いをされるのが嫌で、
男になるために、ある師の元で秘密に武道修業をし、父上の反対をおしきって二十日間戦上に赴いた。
まあ、結局見ているだけで終わってしまったが。
その戦を終えた帰りだった。
突然、泉の村人が拙者と反対方向に逃げ惑い始めたのだ。
『家が燃えている』
『家族がまだ残っている』
村人は拙者に向かって次々と訳のわからないことを言ってきた。
「だが、急いで家に赴くと…本当に家が赤々と燃えていて…」
そこまで言うと、少女は暗い顔になった。
きっと嫌なことを思い出したのだろう。
「辺りを見回しても、名を呼んでみても…家族に会えることは無かった…。」
だが、
ふと横を見てみると…妙な男が村人たちとは別の方向に向かっていた。
怪しんだ拙者が後をつけると、男は拙者を見たあと一目散に逃げ出した。
その時はっきり顔と服装が見えた
おかしな風貌だったが、あれは忍者だと思う。
その後逃げられたが、数日後また同じ男を見てしまった。
今度こそ敵をうつと誓い、必死に追いかけ…ようやく追いついた。
そして、拙者は刀でその男を切り掛かろうとした
「だが、急に全身が痺れるような感触がして……気がついたら拙者はここにいた」
「んで、ここにきた俺を敵だと思い込み、いきなり奇襲してき…」
「思い込みではない! まさしくオヌシが敵じゃ!」
…おいおい断定かよ。
「追いかけて着いた場所にオヌシがいたのじゃぞ! オヌシ以外に誰が…」
「お前さ…冷静に考えてみろよ。本当に俺が犯人なら、とっくにお前を殺していると思うけど?」
「それは…」
「それに、本当に俺の顔は犯人の顔と一緒か? よく見たのか?」
そういうと少女はまじまじと俺を見つめてきた。
うわぁ…変なやつとはいえ女の子にそんなに見つめられると恥ずかしいような…
それに、こいつ意外と美人だぞ。
「……。」
少女は暫く見つめると、少し俯いた。
多分確証がないのだろう。
だが俺も、こいつが時を超えてきたと嘘をついている確証が見つからなかった。
んーここまで具体的に嘘をつくのもおかしいし、
それに…こいつの刀、今思い出したが、昨日の新聞にこの刀の写真があった
『舞島歴史博物館』
という私立博物館が火事で全焼した…という記事だったが、その記事に写真と一緒に書いあったのは、
『この市町村唯一、ある有名な職人がつくったとされる現存する名刀までもが焼失し、修復不可能な状態に…』
その名刀の写真と、余りに似過ぎていて…
もし同じものなら、焼失した名刀を綺麗なままこいつが持っていられるのは、
昔の時代から持ってくるしかない。
あと…あまり化学的ではないが、何と言うか…俗に言う目が嘘ついていないというか、
まあ、時間を超えて主人公に会いに行くとか、謎の未来少女光輪とか、よくある話…
って、いやいやよくある話じゃねーよ!!ありえねーよ!!!
あーもう!! 二次元と現実が混同してるぞ!!! 落ち着け俺!!
「…くっ」
少女の小さな声で、俺は我に帰った。
「で、わかったか?」
「…完全に撤廃したわけではないがな」
はあ…俺の頭の中の問題はさておき…とりあえず、この騒動は解決っと。
「オヌシが敵だと確定するまでオヌシの命はあずけておく。だから、拙者の刀を返せ」
そうだった、こいつの刀を没収してたっけ
俺は腰から外すと、刀を返した。
それを少女は嬉しそうなかおで受け取る。
「おぉねね丸! よくぞ帰ってきた!!」
ねね丸? 刀のことか??
んー…刀にしちゃあ随分可愛いげのある名前だな。
まあ、そんなことはさておき
「んで、これからどーすんの?あんまりここに居られると寮長が怒るかもしれ」
「帰る」
そういうと少女は立ち上がった。
「帰るって…またここでタイムスリップでもするのか?」
「たいむすりっぷ??」
「あー時を超える…過去に戻るってこと」
「時を超える? 過去に戻る?? オヌシは意味がわからぬやつじゃな…そんなこと人間が出来るわけがなかろう!!」
――――え?
「自分の足で帰るに決まっとろう! …ところで、泉はどの方角じゃ?」
……。
オイオイ…まさかこいつ…
「お前…自分がどこにいるかわかってるのか?」
「知らん、だから方角を」
「だから、方角とかじゃなくてな! お前は…はあ…お前はな、今未来にいるんだよ!」
「未来???」
「そうだ! お前、時間を超えて未来にいるんだよ!!」
「…へ??」
少女は可愛い顔のまま、なんともいえない顔をした
やっぱりか…
こいつ最初からずっと、自分がタイムスリップしたことを自覚していないんだ!!
(それか俺が盛大に騙されてるか)
「例え、その泉とかいう村の場所がわかってもな、もう無くなってるんだ…ずっと昔に」
「……?」
「だからな、ここはお前が住んでいた村も、人も、空気も、みんなもう存在しないんだ!!」
「……じゃあ、拙者は…本当に未来に…」
「ああ、お前が戦国娘というのが嘘じゃなかったらな」
「……。」
少女はしばらく放心状態だった。
まあそうだよな、二次元と違っていきなり
『ここは未来の世界だよ☆』
とか言われても、すぐ受け入れられるわけがないよな。
「……。」
「まあ…すぐに受け入れられないよな、ごめん」
「すごい!! 本当にここが未来ってやつなのか!? すごいすごい! やったぜ!!☆」
……。
えーなんだよこいつ、喜んでやがる。
しかも
『やったぜ☆』って
現代言葉に聞こえるんだが…
「拙者の昔からの宿敵が『僕は未来いけるんだぞ』って偽り申していたが、本当に行けるとは思いもよらなかったぞ!」
「…はあ」
「まさか未来に来るとは…ふむ、これは世の中を知るまたとない機会じゃぞ…」
「…………はあ」
「しかも敵はまだ見つかっておらぬ……ふむふむ、よしっ決めたぞ!!」
「あぁ?」
そういって少女は俺に向き直った
……あ――こういう展開ラノベで見たことあるぞ、こういう展開の後必ず出るセリフは
「帰るのはやめじゃ! しばらくオヌシの家に居座らせてもらう!!」
……やっぱり同居フラグですか―!!!!
俺は勢い余ってずさ――っと格好悪くこけてしまった。
「どちらにしろ、帰るなら過去にもどる手段を見つけなければならぬしな、まあ何かの縁じゃ、よろしく頼むぞ」
そしてこのキュートスマイルである。
…ったく、さっきまで敵だ敵だと騒ぎまくったのはどこのどちらさまかな?
だが、こちらもまたとない機会…(おかしなやつだが)美少女と同居なんて…どう考えてもエロゲじゃないかゲフンゲフンッ!!
しかし…下水道破裂したからといって女子寮によゆーで入ったりする二次元とは違い、現実は甘くないのだ。
なんたって怖いのは、ここには恐ろしい悪の寮番人『寮長』がいるからな!はっはっは
…もし女子と同居なんてバレたら冗談抜きで追い出し喰らうぞ。
かといって、こんな夜更けに美少女一人外に追い出すなんて余りにも酷い。
さて…どうしたものかな…
「ふむ…どうした少年、何か迷惑なことでも?」
「いや…別に」
…とりあえず、今晩だけでも泊めておこう
正直言ってそろそろ寝ないと、明日の学校が本当に死ぬ。
これからどうするかは、寝ながら考えよう。
「じゃあ、とりあえず今晩はここにいていい。だが二つ条件がある」
「な…なんじゃ、その条件は」
「まずな、取り合えずここにいる間はな…」
「まままさか! 裸になれとか売春させろとかでは無かろうな!!!」
「んなわけねーだろっ!!!…取り合えず、ここにいる間はもう少し現代人らしくしろ」
「ゲンダイジン? なにそれ、かなりまずそうな名前だな」
味の問題かよ!!
だが言ったあと思い返すと、現代人らしくしろ…なんて言われてもわかるわけがないと気がついた。
「…まあいいや、どっちかというと二つ目のほうが大事だ。二つ目はな…」
そういった俺は
――――ひょいっ
っと、油断していた少女から刀を取り上げた。
「!」
「刀は没収だ、これ以上暴れられたら敵わないからな」
「なっ!!」
「安心しろ、大切にほかんして…」
――――バフッ!!!!!
刀を取り上げた後、俺は油断していた。
しかし気づいた時には、もう少女は俺に飛び掛かっていた。
「その条件は却下させてもらう!帰すのじゃ!」
「なにっ!」
そう言うと少女は俺を押し倒したまま刀をもった俺の右手に手を伸ばした。
しかし俺は袖を掴んで必死に抵抗する。
「帰せ! 帰すのじゃ―――!!」
「絶対にい―や―だ―!!!!」
やるやられるの繰り返し、俺らは完全にもみくちゃになっていた。
しかし、状況は俺が完全に不利だった。
少女は刀に夢中で気づいていないようだが、もみくちゃになっていくにつれ
なんと着物が脱げ、形の良い胸がどんどん俺に接近してくるのだ。
おかげで俺は刀と胸両方を気にしないといけなくなっていた。
「離せっ!」
「嫌だ!」
「帰せっ!!」
「嫌だ――!!」」
抵抗するほどどんどん近寄って来る胸
あ―やばい…俺の理性が―っ!
―――がしゃっ!!!
……え??
予想外の音に俺達はすぐさま玄関を見た。
そこに立っていたのは、悪の番人の寮長でもなく、時渡り少女第二号でもない。
「く………紅咲?」
え? なんでいるの??
遊びにくる約束なんてしてないよ?
なんでなんで??
ってかその顔、今にも叫びそうな顔なのですが、
いま叫ばれたら確実に寮長きますよね。
あ…落としたやつ、紅咲に間違ってかした『ねこぷよ』ですよね?
わざわざ返しに来てくれたんですね、めずらしいこともあるんですね。ありがとうございま…
「きゃああああ――――っ!!!!!」