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聖女召喚の儀

聖女召喚の儀、巻き込まれたはどちらか 冬の陣

作者: 原田 和
掲載日:2025/12/11


出てくる人達


金剛あやめ(モサ子)

西園寺ルリ(美少女)

塚本ススム(努力の勇者)

近道タクミ(徳積み勇者)


で、お送りします。






聖女召喚。

…異世界人が召喚の儀の資料を破棄して、早数百年。しかし数は無くとも、残っていた聖女の記録。それを元に新たに研究され、一度だけ召喚を成功させてしまったが、まさかの人違い。が、善良だった彼等はその記録は残さなかった。

生まれた世界は違えども、言葉を交わし、友人となれたからである。

友の世界に障りが出る恐れがあるものは、残せない。それが、その国の王の言葉であった。



そして時は流れ、更に百年が経ち……。












 「成功だ!!」


 「あぁ……!これで我らは救われる!」


 「異世界の聖女様、勇者様!よくぞ来てくださいました!!」


涙を流しながら胸の前で手を組み、歓喜に震える目の前の美少女。恰好からして、王女であろう。

周りの魔導士達は、一方はやはり無理しやがったのか倒れ、一方は小刻みに震えながらも喜びを共にしようとしているので、もう倒れなさいよと背中を押してやりたい。

西園寺ルリは、もう四度目の召喚で全てを冷静に眺めていた。此処どこですかアナタ誰ですか、なんてやり取りは不毛に思える程に。


 「あ、あの……、」


 「塚本くん、よね?確か。やめましょう」


 「え、さ、西園寺さん?!」


そんな不毛なやり取りを始めそうになっていた塚本を止め、ルリは王女を見た。

豪華なドレスに煌びやかな装飾。嫌味無く似合っており、華奢な体に真っ白な肌。大事に守られてきた証だ。そんな彼女を守るように、屈強な騎士が二人、ぴったりと側に張り付いている。此方が怪しい動きを見せたら、即斬られてしまうのだろう。

威嚇するように睨まれ続けているが、喚んだのはそっちだろうと言いたい。


 「初めまして、異世界の聖女様、勇者様。私達の願いを聞き届けて頂けた事、感謝致します」


 「聞き届けた…?何の事?私達、何も把握してないんだけど」


 「王女様に何という口を…!無礼な!!」


 「無礼だったら謝るけど。こっちはいきなり引きずり込まれて、来たばっかなのよ。あなた達の事情なんて知らないのよ」


平然と、屈強な騎士らに物申すルリを、塚本はオロオロと見守る。彼はまだ何が起こったのか、イマイチ分かってはいないが、騎士が手を出すなら身を挺してでも止めなくては、と構えた。


 「おやめなさい。聖女様の言い分は尤もだわ。…配慮が至らず申し訳ございません」


王女は騎士らを窘め、ルリと塚本に笑みを向けた。


 「ところで、後ろに居る者らは、勇者様と聖女様の従魔……でしょうか?」


 「じゅうま?」


 「従魔って…僕らテイマーじゃないし、第一魔物がいな、うわああぁぁぁ??!!」


聞き慣れない単語に首を傾げたルリだが、塚本はすぐに理解した。雑多に読み漁り手に入れていた知識は、意外な所で役に立つ。しかし、振り返った塚本は度肝抜かれた。

トナカイが二本足で立っていたからだ。


 「分かってるわよ、居るんでしょ。もう驚かな、いやあぁぁぁぁ??!?!」


セット召喚されるとは分かっているので、余裕の見返り姿を見せたルリも度肝抜かれた。

トナカイが二本足で立っていたからだ。


 ――どういう事なの??!


ルリと塚本の心は一つになった。二体のトナカイは静かに佇んでいる。

見た目はデフォルメされ、三頭身で可愛さを前面に出した、子供が喜んで寄ってくるものである。が、何もしない直立不動の着ぐるみは、少々不気味さ感じるものなのだと二人は初めて知った。

時折首を動かし見渡す姿に、周りの者らは肩を揺らし、距離を取る。一言も喋らない。しかし、もう一体は顔が丸出しであったので、正体はすぐ知れた。とりあえず二人は丸出しの方へ集まる。


 「……何でそんな格好してるか、訊いていいかしら金剛」


 「も、もうすぐクリスマスだし、その準備中だったんだよね、きっと」


やはり、金剛あやめであった。彼女は下は着ぐるみだが、頭は外している状態であった。しかし何故か、トナカイの角カチューシャを付けていたので、ギリ人間だとは判断されなかったのだろう。


 「これは鹿の角だ」


 「なんでよ!!トナカイって言ってくれた方が納得できるわよ!!」


 「こ、金剛さん、隣のトナカイの人は知り合い……?」


 「近道。町内クリスマス会やるんだけど、人不足だから助っ人で入ってた」


 「近道くん??!!どうしてっっ…!君ほどの存在感ならサンタクロースでいいじゃない!!」


 「…子供全員泣く」


ぼそりとした近道の呟きに、彼の優しさを知る塚本は本気で泣いた。

その横では、あやめが頭を探している。どうやら、トナカイの頭は置いてきてしまったらしい。


 「このままでは子供の夢を壊してしまう……!」


 「とりあえずいいから。子供居ないから。二人共、人間と認識されてないわよ?従魔とか言われてるわよ?」


 「それでいいから様子見ようぜ。俺ら向こうが何者か知らんし」


塚本をポンポン慰めながら、トナカイ姿の近道は異世界人達を見遣った。


 「あんまいい感じしねぇんだよな」


王女は穏やかに微笑んでいるが、周囲に居る者は不躾な視線を寄越す。確かに、向こうからしたら不審者に映るであろうが、それだけではないような空気である。

近道の真剣な声音に、塚本は鼻を啜りながら頷く。過去三度とも、碌な召喚先ではなかったあやめとルリも、一応警戒はしている。騎士の一人が、焦れたように声を荒げた。


 「おいっ、答えないか!その獣はお前らの仲間か?!」


 「はいそうです!まさか一緒に来てるとは思ってもいなかったので、驚いてしまいました!!」


 「まぁ、では、従魔ですのね?野蛮な獣人を従えるなんて、流石勇者様ですわ」


 「とっ、友達なので野蛮とかじゃないです!それより僕らは何の為に喚ばれたんでしょうか?!」


近道がアレなので、塚本が代表として話を進める。さりげなくルリの前に立っている辺りは、彼なりの勇気だろう。努力の勇者は優しさでできていた。塚本くんいいヤツな、と獣枠の二人は頷き合う。

ルリは特に反応せず、憂い顔の王女をじぃ、と見ていた。

見た目は美少女だが、……同じ匂いがするのだ。以前の自分と。王女のこれからの動きによっては、黒歴史再顕現。ルリは唇を噛んで耐えた。


 「この世界の為、御力を貸して欲しいのです。二年前、魔王が復活しこの世界は闇に包まれました。多くの犠牲を払い、私達も耐えてきましたが……魔王の勢力は衰えるどころか日に日に大きくなるばかり。もう、頼れるのは異世界の勇者様、聖女様だけ…!お願いします、どうか、どうか私達を救ってください……!」


王女は、はらはらと涙を流し、そっと塚本の手を握る。

儚げな美少女の急接近は、多くの青少年にとっては胸が高鳴るものである。塚本も多分に漏れず、赤くなって照れていた。


 「そ、その、僕にできる事なら、力になりたいです、けど。一人で決めていい事でもないので、相談を、」


 「あなたは勇者様ですのよ?勇者様が決めたのであれば、他の者は従います」


 「でも、本当に魔王相手に戦うのなら、みんなの意思も聞かないと。いきなりこんな事になって、怖いと思うし、帰りたい筈だし……」


 「帰れませんよ?」


王女の断定に、塚本は思わず凝視する。

見てください、と王女が指す先には、横たわる魔導士達。獣枠二人が覗き込んでいる。


 「あの通り、異世界から喚ぶには多大な魔力を必要とします。彼等は命懸けで、召喚を行いました。そして……彼等以外もう、できる者はおりません。召喚は一方通行なのです」


 「え、でも……」


塚本と近道は、秋頃に行って帰っている。その事実が、塚本に疑念を抱かせた。王女を見る目が若干変わる。


 「帰還の、魔法陣とかは…」


 「ある訳ないだろうそんなもの!貴様、王女様が嘘をついているとでも言いたいのか?!グダグダと煩わせるな!この御方の為に命を張れるのだぞ、光栄に思え!!」


騎士達は気が短い質らしい。そして、何処までも居丈高だ。

獣枠二人は、魔導士達を荒業で蘇生させていた。息を吹き返した者から一人ずつ、端へ引きずっていき事情を聞いている。胸倉掴んで。解放された魔導士は、青い顔でガタガタ震えてお山座り。

全員の蘇生を終え、トナカイ達は彼等にぼそりと何かを呟く。魔導士達は一斉に走り出した。先程まで倒れていたとは思えない、いいフォームであった。


 「……」


 「――の尊き御方、本来は貴様らなど言葉すら交わせん!!それを慈悲ぶか」


 「……」


そんな光景が、王女と騎士達の後ろで展開されていたので、ルリと塚本は何も頭に入ってこなかった。

騎士が先程から何か物申しているが、恐らく腹立つ内容であろう。それよりもトナカイ達の自由度が気になって仕方ない。

トナカイ達はゆっくり近付き、両脇から王女の肩を掴んだ。振り返った王女の顔から、余裕が消える。


 「『異世界人をどこまで騙せるかゲーム』……らしいな?」


 「魔王なんて何処にも居ないし、闇に包まれてもいないらしいな?」


 「――はっ、離しなさい無礼者!!ケダモノ風情が高貴な私に触れるんじゃないわよっっ!!」


しかし、離されるどころか、食い込む勢いで両肩に圧が掛かる。トナカイ達の目が紅く光っているように見えるのは、気のせいだろうか。


 「だが……帰れないというのは、事実らしいな?」


 「散々騙し倒して、絶望する様を見たいって言ったらしいな?」


やはり、アカンやつだった。ルリはやっぱりねーと、王女に冷たい目を向ける。

以前の自分は確かに性格最悪であったが、流石にここまででは無かった、筈。


 「酷い……、人としてただ酷い…。分かり合いたくない…」


 「ぐうぅっっ!!」


 「西園寺さん!どうしたの?!」


 「だ、大丈夫よ。色々思い出して、塚本くんの言葉が深く刺さっただけだから……」


ルリは猛省しながら、成り行きを見る。とりあえず、自分と塚本の周りに結界を張っておいた。

騎士達が激高しながら引き離した。王女は痛い痛いと喚き、此方に鋭い眼光を向けてくる。


 「ちょっと!!こいつら貴方たちの従魔でしょ?!止めなさいよ!!あぁもう痛い痛い痛い!!こいつら全員処刑して!!あのケダモノ共、私の視界に入れないで!!」


騎士達が一斉に飛び掛かる。が、トナカイ達の動きの方が早かった。一瞬で間合いを詰め、ボディーに重い一撃。鎧はひしゃげ、砕かれ、錐揉みながら吹き飛び、王女を掠め、轟音と共に見えなくなる。

王女を守れとあちこちから現れた騎士らも、同様である。全て一撃で薙ぎ倒され、面白壁オブジェと化していく。

あんなハイスピードで走られたら、サンタもプレゼントを配るどころか、ソリごと吹き飛ぶだろう。ルリと塚本は真顔でそんな事を考えていた。

……轟音と土埃を落ち着く頃には、トナカイだけが立っていた。一人、王女はガタガタ震えてお山座り。

トナカイ達はゆっくり近付いていく。


 「こっ……こないっで!こないでぇぇぇえぇぇえー……!!!」


泣いた。子供並みのギャン泣きだ。だが、彼女がやった事は全く持って可愛くはない。残酷極まりないものだ。あやめは鋭い目のまま、拳を振り上げたが、近道に止められる。


 「やめとけ、殴る価値ねぇよ。そんな女」


 「……無いけど、こいつは許せん」


 「分かる。だから俺がやるから引いとけ」


近道は怯える王女に向かってデコピンを、


 「おがっっ?!」


……着ぐるみを着ていたのを忘れ、王女のデコに蹄型を作ってしまった。しかもめり込んでいる。

王女は白目を剥いたまま倒れた。


 「あ、」


 「あー……力加減間違えたー…」


懐かしい呟きだなと、ルリは思う。そして、近道のステータスをこっそり確認。『徳積み勇者』の下に『力の加護』、とあった。彼のステータスがえげつない事になっている。

だからあんなに動けたのかと納得。いつ加護を渡したのだろうかと、一応塚本も見た。

『努力の勇者』の下に『癒しの加護』とある。…これは渡したのではなく、近くに居たから自動的にこうなったのだろう、と判断しておく。それより、これからどうするかである。


 「そうだよっ!どうしよう帰れないって??!」


 「それならあいつらがなんとか頑張るらしいから、待っとこうぜ」


 「三十時間でなんとかしろって言っといた」


 「じゃあなんとかなるわね」





ともあれ、四人は無事元の世界に帰れたのである。









町内クリスマス会場。

思いの外賑わっており、プレゼントを抱えた子供が笑顔で走っている。親達も楽しそうだ。

大きなツリーの下で、二匹のトナカイが子供らと戯れている。傍らのサンタ役のおじさんはギャン泣きされていた。

それを遠くから眺め、ルリは一人、他の屋台を見て回る。あの中に入る勇気は無かった。


 「あ、西園寺さん」


 「塚本くん。来てたのね」


 「うん、近道くんの人気ぶりはすごいね!やっぱり子供は分かるんだよ、優しいって。西園寺さんは、金剛さんに会いに?」


 「偶々。でも、あれじゃあ無理ねー」


 「あ、」


ぽん、と肩を叩かれ振り向くと、トナカイが立っていた。手に持った小さなプレゼントを、ぐいぐい押し付け、去っていく。


 「え?」


 「え?ぼ、僕もいいのかな??」


ルリはトナカイの背中を眺める。何も言わないが、なんとも彼女らしい。

ありがと、と小さく呟き、大事に抱えた。









 「あ、来てたんだ?」


 「よぉ」


 「あ、近道くん、金剛さ、……え?あ、え??」


 「あいつ誰よ??!!!」






童話は早々に諦めてましたよ。



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