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こんなおかしな話がある物かと笑い話にでもしてくれる方がまだマシと思える程の非現実的。
目を疑う話をする前に状況整理をしよう。
捜査の基本、大井さんの教えだ。
事の経緯は俺が担当する事件から始まる。
俺は担当していたクレーター事件の捜査途中・・・。
と言っても他の捜査を担当する中村の頼みで訪れた場所の近くがたまたまあのクレーターの近くだった事もあり、その日はそのまま例の現場へと向かった。
前日に手に入れた鉱物を取り出し眺めていたら、前触れも無く目の前に現れた全身黒いローブで身を包んだ奴が現れたと思えば、上空から何かを落とされた?
いや、押し潰された様に地面叩きつけられた。
潰される感触と痛みを最後に俺はまるで夢でも見ていたかの様に起き上がる時には、生い茂る背丈程のすすきの様な草の中大の字で眠っていた。
目の前に広がるのは豊かな自然と綺麗に並ぶ作物。
酔っ払っていたのか?いや日頃の疲れで朦朧とする意識の中眠ってしまったのか?
田舎には違いないがいつもの風景とは違う、舗装された道もない。
周りを見渡せば、風変わりな建築物。田舎には違いないのだろうがここは自分が生まれ親しみ生きた国とは異なる事だけはその雰囲気だけで分かる。
「拉致?いや、ならこんな場所に放置するか?」
幾重に重なる違和感と突如として受け入れ難いその光景に状況は掴めない。
俺は近くの建物へと静かに近づいて行くと、1人の人影を目視した。
「あの、すみません」
ゆっくりと尋ねるとそこに立つ一人の女性。
まるで外国の童話で見るかのような農民の姿、この時点で察した事はここは日本では無い。という事。
「あ・・・ハロー?」
外国語なんか中学の英語レベルと和製英語位だ。
しかし今は非常事態、最悪パッションに任せれば伝わると勢いのままに会話を試みようとしていた。
「こんにちは・・・えっと、何か御用ですか?」
通じた、言葉が。 衝撃的ではあるがここは日本なのか?外国の方がたまたま働いている環境なのだろう。
とにかく言葉が通じればラッキーだ。
「すみません、突然お声掛けして。こういう者で」
スーツの内から警察手帳を開き見せると女性は不思議そうにこちらの顔を見ては手帳をマジマジと眺める。
「すみません、私字が苦手で」と申し訳無さそうに女性は言う。
まあ仕方ない、苗字も名前も一見して読まれる方が珍しい名前なのだから。
「東雲 爻と言います。失礼ですがお名前をお伺いしても?」
「はい、コニカと申します」
「コニカさんですか。すみません、ここはどこですか?」
「道に迷われたんですか?ここは特に名もない集落ですが・・・村の人は"イコハ村"と読んでます」
イコハ聞いた事のない地名。やはりここは日本では無さそうだな。たまたま日本語の話せる人と出会ったといった所か。 彼女は続け様にこう返す。
「あの、東雲さんはどちらから?」
「N県にある警察署から来ました。・・・と言っても分からないですよね?」
「すみません、存じ上げ無くて」
「気になさらず。ところで近くに都心があれば教えて頂きたいんですが」
「街ですか?」
「はい」
田舎ともなると連絡が出来ないのか起きた時に携帯を確認すると圏外だった。
ついでに言えば充電もろくにしない癖のせいで、そろそろ使い物にもならなくなる。
都会の方へと行けばいくらでもなる。 とこの時は思っていた。
コニカさんは遠くに見えるポツリとした景色の中に見える建物を指差すそここそが、彼女の言う街らしい。
丁寧な教えに従い、俺は村を出て早速街へ向かう為急いでその足を走らせた。
街の名は"コッペリア"。 歩いていけば遠いが翌日の早朝から行けば大丈夫だと助言されたが、走っていけば夕方に着くかと考えた。
けもの道が如く舗装されていない土道を只管走る。
時々目に映る草木や植物や動物はどれも見た事が無い物ばかりで初めて見る外国の風景や生き物もあって走っている間は暇はしない。
走っている間に、色んな事が脳裏に浮かぶ。
自身が行方不明となっているだろうという事、事件の事やパスポート。 そしてあの黒いローブの人物。
まさか行方不明の捜査をしていると思えば、自分が巻き込まれる形となるとは。
考え事をすれば早い物で空は既に夕暮れ、そして既に遠くから目に映っていた街はすぐそこにある。
到着するやいなや、夕方とは思えない程の賑わいと人々の数。
街へ入るまでも無い程に目に映る光景は正に異質その物だった。
大剣を背に差し鎧を身に纏う人や、動物の耳を頭に付け動かす人。手から不思議な紋様を浮かべ火を操る人や恐竜の様な大きなトカゲを操り従える人。
まるで漫画や童話の様なその世界観に俺は目を疑う他無かった。
ここは日本でも無ければ、外国でも無い。ではここは一体なんなんだ?
冷静にも慣れない。真っ白になった頭で街を漂い目に映る光景一つ一つがまるで現実の様に、当たり前のように行われていた。
見慣れない物に目移りするも何も頭に入らない。周りから不思議そうに見られる俺の姿こそ、外界からは異質に見えるだろう。
スーツ姿は俺しかいないのだから。
何も考えられず歩いていると一人の男が俺の肩に手をかけ言う。
「あんた大丈夫か?ずっと口開けたまんまで・・・見慣れない格好だが、外国の人か?」
背丈も高くガタイの良いその男は心配そうにそう言った。
背に大きな斧。頭に過ぎった言葉が無意識に言葉となり口に出る。
「銃刀法違反・・・」
「なんだそれ?大丈夫かあんた?」
男は不思議そうに俺から離れて行く。なんともどうした物か、俺は近くにあった噴水の傍に腰かけ日の落ち始める空を眺めていると何処からか歓声や賑わいとは違う、どよめきの声が聞こえる。
「あれ大丈夫なのか?」
「なんかヤバそうじゃないか?」
「あれって確か護衛部隊の人だろ?」
次々に聞こえる声の方へと自然と足は動いていくと、人々が集まり何かの野次馬をしている。
何となく人々の合間を通り抜けていくとそこには一人の男が目の前で剣を構える少女に向かい怒鳴っている場面だった。
「テメェ!ガキの癖に偉そうにほざきやがって!!俺は一流の魔法使いだぞゴラァ!!」
「人が大勢集まる場所でそんな威力の高い魔法使わない」
場の雰囲気から察するに一触即発と言った所か。
男の様子は明らかに異常だが、剣を持っているにしろ大の大人が少女を脅すのを黙って見ていられる訳もなく。
「おい、テメェいきなりなんだ!!!」
2人の周りを囲む様に避ける人々を掻い潜り、俺は2人の間に割って入る。 すると男は動揺を見せると同時に少女も戸惑い、俺に向け言う。
「あ・・・危ない!!」
「君もそんな刃物人に向けたら、相手が興奮しちゃうだろ?離れなさい」
一瞬その場は静まり返るが男は逆上し目の前で両手を掲げると見たことのない大きな火の玉を作り出し、宙に浮かせ見せる。
「どうだゴラ!!!お前らにこんなの作り出せんのか!?落として試してみるか!?」
周りに居た人々は悲鳴を上げ慌てふためき散り散りに逃げていく中、少女はそれでも逃げず剣を構えたままその場で立ち止まる。
俺は腰に差している銃を抜き男に向け構えた。
「警告だ。その火を消せ」
「消す!?消されんのはてめぇだぞ?」
「動けば撃つぞ」
「そんなガラクタで脅してるつもりか?」
俺は銃を構えながら考えた。あいつの作り出したあの火の玉はなんだ?当たったらヤバそうなのは見れば分かるが、この場合の発砲ってどうなんだ?
外国・・・というかこの世界での銃刀法ってどうなってんだ?ていうかなんなんだここは!?
葛藤する頭は今の状況と今自身に起きている現実を精査する余白すら与えられず、手に取った銃を収め気付けば男の元へと走って行くのだった。
「ば・・・バカか!?こいつを落とすぞ!!」
男は俺の突然の接近に驚きながらもその両手を振り下ろす動作を見せた瞬間。
俺は銃を収めてまで行った事、それは勢いのまま走り男の顔に握り拳を叩きつける。
殴られた男は吹き飛び、掲げていた炎の塊は消え失せ、そのまま地面を転がり気を失った。
「・・・これなら問題無いだろ」
逃げていた民衆の何人かはその現場に戻っては早々に男を取り押さえ、剣を構えていた少女は俺の元へと駆け寄り言う。
「あなたも取り押さえるから」
「え」
太めの縄で腕を縛られ俺はお縄となった。




