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眼前に広がる白銀の城

 シオリの所持している黒のワゴン車に、ツカサたち三人は全員後部座席に乗り込んだ。


「……普通一人ぐらい助手席に座りませんか?」


「いや、アゼルを一人にできないし」


「私はツカサの隣にいたいしー」


「えっと……私が座りましょうか?」


 まさか三人とも後部座席に座るとは思わなかったのだろうシオリは、ジト目でツカサと鈴音の方を見てくる。

 そんな中、アゼルが手を上げて助手席に立候補した。


「大丈夫です。アゼルちゃんはツカサの隣に座っていなさい」


「え……でも……」


「こういう時は年長者の意見を聞いておくといいですよ」


「つまりシオリ姉ぇは年増……あいだぁ!?」


「鈴音が助手席に座りたいそうなので、さっと座ってくださいね」


 余計なことを言った鈴音の頭に、拳骨を落とすシオリ。

 一応弁護をだけはしておくと、十九歳のツカサと鈴音より四歳年上なだけで、シオリが実際に年増というわけではない。


「わかりましたよ〜。シオリ姉ぇの頭でっかち!」


「鈴音。帰ったらお仕置きが必要そうですね」


「あらお姉様。いったいどんなお仕置きなのかしら」


「ツカサには絶対聞かせられない、あられもない声を上げてしまう激しいやつを」


「ごめんなさい!」


 即座に鈴音は頭を下げる。

 シオリの言うお仕置きとは一体どんなものなのか、全く想像がつかないツカサ。だがこれだけは思ってしまう。


(あられもないお仕置きってえっちなやつか……!?)


 口に出せば必ず鈴音とシオリにイジられるのが目に見えているので言わないが、ちょっとドキドキするツカサであった。


「ツカサ。あられもないお仕置きってどういうこと?」


「ぶ!?」


 そう思っていたらよく分かってなさそうなアゼルが聞いてくる。予想外の質問に思わず吹き出してしまう。

 そんなツカサの反応を見逃す鈴音とシオリではない。二人はニマニマと笑みを浮かべながら、ツカサを見ている。


「あらツカサ。アゼルの質問に答えないの?」


「そうですよ。どう答えるのか私少し気になります」


(下手なことを言ってしまえば、今後のネタにされてしまう……!)


 頭脳をフル回転させ、なんとか切り抜けられる答えを考えるツカサ。

 なんとか僅かな時間の中で、切り抜けられる答えが浮かんできた。


「それは……足の裏をくすぐるんだ」


「足の裏を?」


「おう、どんな反応をしてもくすぐり続ける。その時やられた相手はあられもないことになるのさ」


「チッ」


「ひよりましたね」


 鈴音とシオリからしたら満足ではない回答だったらしく。ちょっと不機嫌そうだ。

 だがどえっちな回答なんてしていればイジられるので、この際二人の反応は無視するのが正しいだろう。


「ほらシオリ姉ぇ。安全な場所に案内してくれるってのに、全然進んでないけど?」


「おっと、そうでした。……その前にシートベルトはしましたね?」


 一応確認してくるシオリ。それを聞いてツカサは、すぐにアゼルがシートベルトをしているか確認する。

 ちゃんとシートベルトをしている。

 一安心だ。


「では行きますよ」


 ゴクリと喉を鳴らすツカサと鈴音。何も知らないアゼルだけは首をかしげている。

 なにせシオリの運転は少々荒っぽいのだから。

 アクセルペダルを踏む音と共に、絶叫マシンの如く黒のワゴン車は一気に加速した。


「きゃ!?」


「ふふふ、中々かわいい声ですね」


「シオリ姉ぇは警察なんだから交通ルールは……」


「大丈夫です。制限速度ギリギリなので」


 スピードメーターを見れば、確かに制限速度をオーバーはしていない。

 だが限界まで速度を維持するためにアクセルを緩めることはしないし、なんならドリフトだってしている。

 バックミラー越しに見える鈴音は慣れた様子で、取っ手に掴まっている。


「ツカサ……」


 しかしシオリの運転が初めてのアゼルは、ギュッと抱きしめるように身体を掴まってきている。


(柔らっか!)


 むぎゅっと胴体に感じるやわらかい感触。多分この感触はアゼルの胸だろうか。


「シオリ姉ぇ、もっとスピード上げていいわよ~。ツカサがだらしのない顔してるー」


「おや、ツカサも男の子でしたね。ではお言葉に甘えて……」


 直後、シオリがアクセルを踏むことで、黒のワゴン車はさらに加速する。

 あきらかに法定速度を超えたスピードに、アゼルの身体の感触なんて吹っ飛んでいく。


「シオリ姉ぇ!?」


「さあそろそろ目的地に着きますよ」


 いつのまにかワゴン車の外は暗がりが広がっている。ライトによって五メートル程度先は見えるが、それ以上の先は全く見えない暗闇。

 いつまでこの暗闇は続くのか? そう思っていたら視界に光が広がった。


「眩しっ! ってえええぇぇぇ!?」


 反射的に目を閉じるツカサ。すぐに光に慣れたおかげで、目を開いて見れば巨大な白銀の城が見える。

 そこらの高層ビルなんて目じゃない、某夢の国レベルの広さはありそうだ。


(いつのまにこんな場所が……! てかここはどこだ?)


「ふふん。驚いてる驚いてる、そんな顔が見たかったのよあたしは」


「鈴音。ここはあなたの所有地ではありませんよ」


「分かってるわよ。でも新鮮なツカサの反応を見ちゃうと、自慢したくならない?」


「まあ確かに……」


 鈴音たちの反応を見るに、二人はこの白銀の城について知っているようだ……。

 一体どんな人がこの城の主なのだろう。そう思っている間にも、鈴音とシオリはワゴン車から降りていた。


「ほら、ツカサ! 早く降りないと時間は有限なんだけど?」


「っと悪い。アゼルは降りられるか?」


「うん」


 アゼルの手を取り降車するツカサ。

 ワゴン車の中から見ても大きい城だったが、実際に見れば更に大きく見えるような気がする。


「ではこの城の主に面会しましょうか」


「え!? シオリ姉ぇ。そんな気軽に面会とかできるの?」


「もちろんできます。とりあえずツカサ、アゼル。これから会う人は、まぁ……気軽な人に見えますが、粗相のないように」


 冗談めかさないシオリの言葉に、ゴクリと喉を鳴らすツカサ。

 無意識に緊張していたのだろうか、鈴音が背中を軽く叩いてくる。


「なに緊張してるのよ、あいつへ会いに行くたび緊張なんてしてたら寿命が足りなくなるわよ」


(あいつって気軽な言い方だな。おい)


 鈴音の言い方に引っかかりを覚えたツカサは、ジッと鈴音の様子を観察する。

 短く切られた銀のショートヘアの隙間から、宝石のように綺麗な瞳が見え隠れしている。


「あら、あたしの魅力に気付いたの?」


「なに言ってんだ。そんなもん昔っから知ってるよ」


 いつもと変わらないじゃれ合い。それなのに鈴音の頬は、熟れたりんごのように真っ赤だ。

 熱でも出たのだろうか? そう思って鈴音のおでこを触ってみるが、しかし記憶が確かなら平熱のようである。


「おや、いつのまにか弟分が女ったらしに」


「ツカサは女ったらし?」


「ええ、だって初対面のアゼルを見ない振りしなかったんですもの」


 後ろでシオリが好き勝手言っているが、今は鈴音のほうが大事だ。

 脈拍を測ってみれば、ドクンドクンと脈が動いている。


「ん゙~!? バカ! さっさと行くわよ!」


 そう言って鈴音は城の中へ、さっさと一人で進んでいく。


(怒っているにしては、普段と比べて罵倒のバリエーションが少なくないか?)


 違和感を覚えていたツカサであったが、シオリとアゼルも城へと歩いているのを見て歩き出す。


「みんな待ってくれよ~!」


「シオリ。ツカサはいつもあんな感じなの?」


「そうですねアゼル。ですが今回は鈴音が過剰に反応した、が正しいでしょう」


「なるほど」


 なんとか前にいたアゼルたちへ追いついたツカサであったが、二人のしていた会話の内容は聞こえなかった。


「はぁ……はぁ……追いついた。なんの話をしてたんだ?」


「ふふふ、内緒ですツカサ」


 微笑みながら口元に指を当てるシオリ。そんな何気ない仕草が、なぜかとても魅力的に見えてしまう。

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