あたしの幼馴染になにしてんのよ!
流れ出る赤い血を見てツカサは、胸を襲う痛みが本物なのだと理解した。
(どうする? このままだと殺されるかもしれない。でもアゼルを置いて逃げるのもいやだ……くそ、覚悟決めるか)
「アゼル、俺はいいから逃げるんだ!」
「ツカサ!?」
ツカサの指示に驚くアゼル。だが彼女は一歩も動いてくれない。
「ああ? 英雄気取りですかぁ? なら死ねよ!」
そのままサブローと呼ばれた男は、怒りを露わにしつつ血のような色をしたブロードソードを振り上げる。
(あ、これは死んだな……)
スローモーションで振り下ろされるブロードソードを見ながら、ツカサは他人事のように思う。
直後、走馬灯のように昔を思い出す。
いつも一緒だった銀髪の幼馴染のこと、姉貴分を自称する黒髪の女性のこと、なによりアゼルの悲しそうな顔が浮かび上がる。
「まだ、死ねるかぁ! 俺はまだ童貞なんだよぉ!」
情けない声で叫びながらも、無我夢中で前方に向かって飛び込むツカサ。
しかしその行動は正解であった。ツカサは今、サブローと呼ばれた男がブロードソードを振るう間合いよりも内側に入ったのだ。
「くそ! 近づくな!」
「この距離ならその武器は振れないな!」
「調子のってんじゃねーぞゴラァ!」
直後、ツカサの腹に強烈な膝蹴りが叩き込まれる。
「ぐゔ!?」
「ツカサ! 逃げて!」
痛みに耐えきることができず、地面を転がるツカサ。
アゼルは急いでツカサの元に走ろうとするが、それより早くサブローと呼ばれた男が、ブロードソードを構える。
直後、銀色の風がサブローと呼ばれた男を吹っ飛ばした。
「へ?」
「え?」
「なんだテメェは!?」
唖然とするツカサとアゼル。対して吹っ飛ばされたサブローと呼ばれた男以外の男たちは、犯人にガンを飛ばす。
「なんだですってぇ……? あたしの幼馴染を殺そうした奴に、名乗る名前なんてないわよ!」
「鈴音?」
飛羽鈴音――ツカサの幼馴染にして、銀のショートヘアと赤いストールが特徴的な女だ。
「どうしてここに……」
「決まってるじゃない。ツカサのスマートフォンが発信器代わりになったお陰で、気づけたのよ」
「それ初耳なんだけど!? ってあいつらなんか変だ、危ないぞ!」
ツカサの忠告を聞いた鈴音は、見惚れそうな笑みをニカっと浮かべVサインをする。
「まっかせなさい! だってあたしは……」
「死にやがれクソアマァ!」
「誰がクソアマよ!」
イチローと呼ばれた男が近づいて、背後から鈴音を殴ろうとする。だが、鈴音は後ろを見ることなく回し蹴りで迎撃する。
鈴音の見事な回し蹴りが、イチローと呼ばれた男の後頭部に命中。
地面に倒れ伏すイチローと呼ばれた男。
「イチロー! 大丈夫か!」
「たっく……いきなり殴りかかってくるなんて、ちょっと物騒じゃない?」
「てめえが言うな! この暴力女!」
「ああん? その口閉じなさいよ!」
サブローと呼ばれた男の言葉に対し、明らかに切れた様子の鈴音はドロップキックを叩き込む。その際に鈴音の着ているミニスカートの中身が、ふわりと中身が見えた。
「あー鈴音。パンツ見えたぞ」
「とりゃぁ! あら本当ツカサ? はしたないわね、ホホホ……」
「笑っても誤魔化せないぞ。黒のレース、しかもスケステのやつ」
倒れているサブローに対して追い打ちをしかけている鈴音であったが、ツカサの言葉に動きを強張らせる。
そのままミニスカートを抑えながらツカサの方に近づいて来た。
「ちょっと本当に見たの!?」
「仕方ないだろ! ミニスカで激しい動きをしたんだからさぁ!」
そのまま言い合いに発展してしまうツカサと鈴音。そん中のけ者にされたアゼルは、どうしたらいいのか分からないようでオロオロとしている。
「あの……喧嘩はだめだと思うの」
「喧嘩じゃないわ。ただのじゃ・れ・あ・い。ってこの娘は?」
「こいつはアゼル。あいつらに追われているみたいなんだ」
そう言って赤い蝙蝠の入れ墨をした男たちを指差す。
「ふーん、大体事情は分かったわ。まあツカサも男だものね、女の子が困っていたら無茶しちゃう」
「無茶なんてしてねぇし」
「じゃあ俺はまだ童貞なんだよぉ! ってのはあたしの聞き間違い?」
(さっきの聞かれてのかよ!?)
一世一代の叫びを聞かれたことによる恥ずかしさで、頬が赤くなるような気持ちになるツカサ。
「あら、恥ずかしかった?」
長年の幼馴染には隠し通せなかったようで、鈴音はツンツンと頬を突っついてくる。
そんな鈴音の何気ない仕草が、さらに恥ずかしさを沸き上がらせる。
「てめぇら! いちゃついてんじゃねぇぞ!」
「あらごめんなさい。カワイイ幼馴染もいない男どもの妬みなんて見苦しいわねー」
「おい、鈴音」
さすがに言いすぎだ。と続けようとするツカサであったが、赤い蝙蝠の入れ墨をした男たちは怒ってそうな様子に、思わず口を閉じてしまう。
「男は殺す! そんで女の方は犯してやる」
「あら、簡単に言ってくれるわね」
そう言って赤い蝙蝠の入れ墨をした男たちは、三人ともわざと手を傷付ける。
(何をしてるんだ……?)
男たちの異様な行為を目の当たりにしたツカサは、何が起きてもいいように心構えをする。
次の瞬間、男たちの手から流れた血が、真紅のロングソードへと変化していく。
「ひゃっははは」
「これならなんでも斬れちゃうよ~」
「もう謝っても遅いからなぁ~」
真紅のロングソードを振り回す男たちだが、だがその手つきは達人のような動きではなく明らかに素人の動きだ。
「なに? 刃物出したからって、降参するとでも思ってんの?」
「ン! だとゴラァ!」
「行くぞぉ!」
鈴音の挑発を皮切りに、赤い蝙蝠の入れ墨をした男たちが鈴音に向かって斬りかかる。
「鈴音!」
「大丈夫大丈夫。ツカサ、あんたはアゼルって子を守りなさい」
そう言って鈴音は両手からエネルギー弾を生成すると、赤い蝙蝠の入れ墨をした男たちに向けて容赦なく放つ。
「ぐわああああぁぁぁ!」
「イチロー! ってうばぁぁぁ!」
エネルギー弾は男たちのうち二人に命中。そのままコンクリート製の壁に叩きつける。
「このっ! ぶっ殺す!」
残った男が叫びながらロングソードを振り上げると、そのまま鈴音に向かって振り下ろす。いわゆる縦一文字斬りというやつだ。
「あら、男ならぶっ殺すなんて使わず、ぶっ殺したを使うべきだと思うけど? ね!」
余裕そうな鈴音は、男の一撃を難なく回避する。そのままカウンター気味に、ガラ空きな男の腹にヤクザキック。
「っグホォ!?」
鈴音の無慈悲なヤクザキックを受けた男は、ゴロゴロと地面を転がっていく。
追撃と言わんばかりに鈴音は、3つのエネルギー弾を生成すると男たちに放った。
「舐めんじゃねぇ! 立て! ジロー! サブロー!」
「オウ!」
「ぶっ殺してやる!」
赤い蝙蝠の入れ墨をした男たちは立ち上がると、3つのエネルギー弾を回避していく。
が、エネルギー弾はホーミング性があったようで、背後から男たちの背中に命中した。
「ぐわあああァァァ!」
「鈴音後だ!」
「え? きゃあ!?」
しかし男たちの手から離れたロングソードは、まるで意思を持っているかのように宙を舞い。鈴音の背中に突き刺さる。
聞き慣れない鈴音の悲鳴。
胸を貫通したロングソード。
プッツンと理性の糸の切れる音が聞こえた。
「なにしてやがるテメェラァァァ!」
「ツカサ! 駄目!」
アゼルの静止が聞こえる。でも燃え上がるようなこの激情は抑えられない。
「こい! ヴァニティ・ペルグランデ!」
無意識に名前を呼び上げる。
刹那、虚空から黒い大剣――ヴァニティ・ペルグランデが形成された。
「今度は、俺が相手だ!」
護るように鈴音の前に立ち。なぜか慣れた手つきでヴァニティ・ペルグランデを構えるツカサ。