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明日の大学どうしよう?

 アゼルの服を購入したツカサたちは、大型複合商業施設の人の荒波でヘトヘトになりながら家に帰ってきた。


「ただいま~っと」


「ただいまー疲れたー!」


 鈴音は家に帰らずツカサの家に入ってすぐ、ソックスを脱いで椅子に背中を預けて、素足をバタバタさせてる。

 おそらく長時間靴下を履いていたせいで、足がムレたのだろう。投げ出された靴下を手に取れば、ヌクヌクだ。


「ちょっとーレディの靴下をそんな触らないでよー」


「レディねぇ……どちらかと言えばアゼルに似合う言葉だろ」


「言ったわねぇー!」


 そのまま背中に飛びついてくる鈴音。もちろん鈴音を落とさないよう、的確にバランスに取る。

 そんな二人をアゼルは羨ましそうな目で見ていた。


「……ツカサ、私も同じことしていい?」


「え? さすがに二人同時にやるのは危ないから鈴音」


「いいわよー。っとほらどーぞ」


 まるで重力の影響が無いように思える身軽さで、ぴょんとツカサから離れる鈴音。

 鈴音が離れたことを確認したアゼルは、ツカサの背中に飛びついてくる。


「っととと……」


「えへへ。ツカサの背中大きいね」


 満面の笑みを浮かべながらも、アゼルはぎゅっと背中に胸を押し付けてくる。一瞬動揺しかけるが、なんとか彼女を落とさないように細心の注意を払う。

 その間に鈴音は、買ってきた服の包装を剥がしたり、商品タグを切っている。


「今の様子を見た感じおこちゃまにしか見えないけど、どの辺がレディかしら?」


「あ? そりゃあむ……って、ハサミは危ねえだろ!」


「ごっめーん。よく聞こえなかったの、もう一度聞かせてくれる?」


 胸と言いかけた瞬間、ハサミを投擲するポージングをとる鈴音。多分本気で投げはしないだろうが、彼女の目だけは本気で殺意を感じた。


「まあ、ぱっと見た感じ鈴音よりアゼルのほうが大人びてるだろ」


「ゔ……! 否定できないわね」


 小柄な鈴音とスタイルの良いアゼル。二人が並んで歩いていれば、髪色も相まってだれもが姉妹と勘違いしてしまうに違いない。

 なお、どっちが姉に見られるかは鈴音のために黙っておく。

 幼馴染のプライドをベキベキに折る趣味なんて、ツカサにはないのだ。


「これで私も一緒に生活できるね!」


「ん? ああ、そうだな」


 アゼルの言葉になにか引っかかりを覚えたツカサだったが、すぐに思考を切り替えて笑う。


(なーんか忘れてる気がするんだよな……)


 なにを忘れているのか必死に思い出そうとしていると、隣で鈴音がいきなり「あっ!」と声を上げた。

 いきなりの大声に驚きかけるが、すぐに鈴音の方へ視線を向けてみれば、鈴音が物を壊した時のように顔を真っ青にしている。


「ねえツカサ、明日平日でしょ。あたしたち明日は大学じゃない」


「あー……そうじゃん!」


 大学――そう明日は平日。一般的な大学生は大学に講義を受けに行かなければならない日だ。

 明日は必修の講義がある日なので、まる一日家にいるなんてできやしない。

 しかしアゼルを大学に連れていけばどうなる? 美人が来たということで大騒ぎになることは目に見えている。


「だからってアゼルを一人にさせるのもなぁ」


「でもあの子を大学に連れていくってのもねぇ……なにかしらの騒ぎにならない?」


「なるだろ。選択講義とか絶対に目立つよな」


 肩をすくめながら鈴音は「よねー」とうなずく。

 目立たない服を着せて帽子やマスクをさせても、きっとどこかでボロが出るだろう。

 アゼルという美しい原石に、小細工なんて多分通じやしない。


「うーん……とりあえず明日考えましょ、なんかいい考え浮かぶでしょツカサが」


「高度な柔軟性を維持しろってか? まあ疲れたし、明日も早いからなさっさと寝るか」


 このまま悩んでいても仕方がないので、明日の準備をするツカサと鈴音であった。


「ってか今日も泊まる気かよ」


「あら、わる~いオオカミさんがアゼルを食べないように見張るのよ」


「あ? 先に鈴音から食べるぞ?」


「な!? なに言ってんのよバカ!」


 顔を真っ赤にした鈴音は、手近にあった服や靴下を投げてくる。

 もちろん痛くはないが、ちょっとうざったい。


「あーもう! 家帰って寝るからおやすみ、二人とも!」


「早く帰れよー」


「おやすみ! 鈴音!」


 鈴音が帰った後、ツカサとアゼルは寝るために部屋へと戻っていく。

 昨日、鈴音が布団を持ってきてくれたおかげで、ツカサは床の上で寝ないですむ。


「明日、楽しみだね!」


「お、おう。そうだな……」


 楽しそうなアゼルとは対象的に、ツカサは明日のことを思うと憂鬱気味である。

 だが、今のアゼルに余計なことを言って水を差すようなことは、ツカサにはできなかった。


「おやすみアゼル」


「おやすみツカサ」


 部屋の電気を消せば、一気に部屋は真っ暗になった。

 ツカサは元々寝付きの悪いので、薄暗い天井を眺めながら羊を数えていると、すぐ近くからアゼルの寝息が聞こえてくる。

 もう寝たのか。

 なんて考えつつもツカサはゆっくりと目を閉じる。すると家の伸縮ゲートの開く音が聞こえてきた。


(誰だ? 宅配便なんて注文してないはずだし……)


 まだまだ眠れそうにないツカサは、聞こえてきた音が気になった。

 なので寝ているアゼルを起こさないよう慎重に起き上がると、静かに部屋を出ていく。


 *********


「あれ? シオリ姉ぇ、どうして家に?」


「んー……ツカサですか。もう遅い時間って、いつもみたいに眠れてないようですね」


 リビングにいたのはワイシャツ姿の北條シオリであった。

 普段仕事に行くときはスーツ姿でいるはずなのに、今はワイシャツ姿なことに違和感を覚えたツカサはすぐに視線をあちこちに向ける。

 すると使用済みのスーツを、椅子にかけて放置しているのだ。おそらくはシオリがそのままにしたのだろう。


「あー! またスーツをハンガーにかけてない。シワが残るだろ」


「え~でも今日はツカサが、ハンガーにかけてくれるしー」


「今日はじゃなくて今日もだろ?」


 現役のキャリア警察官であるシオリは、異性同性を問わずにモテるクール美人だ。しかし彼女の私生活は、ツカサのサポートがなければ割とズボラな生活を送ってしまう。

 今も机に身体を預けているシオリの姿は、誰が見てもキャリア警察官には見えないだろう。


「シオリ姉ぇ、そろそろ結婚とか考えないの」


「おや、マリッジハラスメントですよツカサ。そんなことを言うなら私の趣味に理解が深くて、それから優しくて年下の男性とか知りません?」


「はっはっはっ。寝言にしちゃ具体的だね」


 シオリの趣味――それは一般的に言えば電車オタクだ。しかもただの電車オタクではない。

 実際に電車や列車へ乗りに行ったり、フィクションの模型を一から作ることもするほどの高度な趣味だ。

 そんなシオリの趣味に、ツカサも一緒に付添いすることも時々あった。


「まあ、かわいい弟分がいつかは貰ってくれると信じてますから、この辺で話題を切り上げましょう。それより昼間は大丈夫でしたか?」


「すっごい疲れたけどなんとかなったよ……なあシオリ姉ぇ、俺の前世だった魔王ってどんな奴だったの?」


「昨日も言いましたが、ツカサはツカサです。前世の魔王なんてものに引きずられる理由なんてありません」


 そのままシオリは頭を軽くなでてくる。いつもと変わらないあやすような仕草だ。


(シオリ姉ぇの言葉はもっともだ。多分鈴音に同じこと言ったら、怒られる気がする。でも気になるのも事実なんだよ)


「まだ悩んでいるようですね。お酒を飲めば悩みごとなんて吹き飛びますよ」


「多分、無理じゃないかな。シオリ姉ぇは酒グセが悪いからサポートばっかで、酒を飲むなんて思いつかないや」


「ふふ、言うじゃないですか」


 そのまま流れるように冷蔵庫へ歩いていくシオリ。よく見れば下半身のズボンを履いていない。

 とっさに視線を床にそらせば、シワシワのズボンが床に脱ぎ捨てられていた。


「シ~オ~リ~姉ぇ? スーツにシワがつくだろ!」


「クリーニングに出せばいいじゃないですか」


「毎回クリーニングに出すのも俺な気がするんだけど?」


 するとシオリは微笑んで誤魔化してくる。しかもほっぺたに指を当ててるという、かわいい仕草付きだ。

 誤魔化してくるのはいつものことだが、今日も誤魔化されそうになってしまう。


「あのねぇ何回も言ってるけど……」


「わかりました。今度のクリーニングは私が出しに行きますから」


 反省している様子のシオリだけども、彼女の手は冷蔵庫からビールを取り出しているのだ。

 カシュッと缶ビールの開く音、そのまま一気飲み干してる。

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