表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

オーヴァーロードではない人――イノセンス

 地獄かと言わんばかりの、おぞましい光景が広がっている。

 ついさっきまで騒がしかった店内は、悲鳴とうめき声の重奏(アンサンブル)で満ちている。猟奇的な声の発声源は、倒れている客や店員たちだ。

 おそらくは巻き込まれてアレナに閉じ込められたのだろう。


「これは……」


「ボーッとしない! アゼルを守るわよ!」


「鈴音。でも……!」


「あたしたちの中にこの人たちを助ける力はない。それで満足?」


 冷淡に告げる鈴音だが、彼女の手は固くこぶしを握っている。

 そんな鈴音の手を見たツカサは、何も言わずにアゼルの手をとる。


「わかった。逃げるで合っているよな?」


「建物の外に出てもこのアレナからは逃げられないけど、……この人たちを巻き込まないだけまだ良いわ」


「ああ、そうだ。とりあえず外へ!」


「うん!」


 アゼルの返事を合図にツカサたち三人は、外に向かって一斉に走り出す。


「クソ。酷い有様だ」


 ちょうど大型複合商業施設の中央にいたツカサたちは走って、走って、走り続けた。

 その間に地獄を見た。大型複合商業施設に来ていた客と店員は、誰もが床に倒れ苦しんでいたからだ。


「なあ、こんな大惨事を引き起こしておいて、騒ぎにならないのかよ」


「それは無理な話ね。アレナが展開された空間は、外の世界と因果関係が切断されるの」


「じゃあこの人たちは……」


「一般的にオーヴァーロードではない人――イノセンスは意識を失うわ。さすがにアレナの中で死ねば……きっと問題になるわね」


 淡々と述べる幼馴染の姿に、ツカサは怖さを感じてしまう。いつもの鈴音とは別人に見えたのだ。

 それでも足を止めず、走り続ける。もし止まれば鈴音とアゼルに迷惑かけてしまう。


(にしてもまだ外に出られないのか……?)


 もう五分以上走っているのに、まだ出口が見えやしない。いくら大型複合商業施設とはいえ、もう出口は見えていいはずだ。


「やばいわね。閉じ込められたかも」


「はぁ!?」


 鈴音は足を止めると、手のひらを構え倒れている人に向かってエネルギー弾を放つ。

 直後、倒れている人々が跳ねるように起き上がった。


「あぶねぇな、殺す気か?」


「あら、人じゃないもの。殺したなんて言わないわよ」


 赤い蝙蝠の入れ墨をした男たち――レッド・ブラッドのメンバーが、一人、二人……五人もいる。

 だがそれよりも、さっきまで倒れていた人々――イノセンスは煙のように消えているのだ。


(おいおい、どういうことだ? まさかさっきまで見えていた人たちは……)


「ニセモノとはいえ中々悪趣味よねー」


 ニセモノ。

 さっきまでの人たちは、ニセモノだったのか。

 本当に人が苦しんでいたのではないことに、少し安心してしまう。


「ばか! 安心してる場合じゃないわよ」


「ツカサ! 危ない!」


 次の瞬間、鈴音とアゼルに腕を引っ張られ現実に引き戻された。

 そして数秒前までツカサがいた場所に、血の槍が突き刺さっている。

 もし二人に腕を引っ張られなければ、串刺しになっていた。その事実にゾッとしてしまう。


「ボーっとしてたら死ぬわよ!」


「っと……悪い」


「まずはそこの男から殺して、あとはお楽しみタイムだ!」


 ヒャッハーと叫びながらレッド・ブラッドのメンバーたちは、己の身体を傷をつけ、流れた血で武装する。

 レイピア、ロングソード、アックス、ハルバード、スピアと多種多様の武器を構えるレッド・ブラッドのメンバー。そのまま彼らは、ツカサたちを包囲するように位置取りを取る。


(囲まれた!)


 アゼルと鈴音を連れて逃げようとしても、残りの四方向から攻撃がきてしまう。

 どうする……。どうすればいい……。と思考するツカサ。切迫した状況での緊張感と頭をフル回転させているのが原因か、額から汗がツーと落ちていく。


「死ねやぁ!」


 レイピアを構えた男が、ツカサに向かって走る。

 一瞬、ツカサと鈴音は視線を交差させ、すぐさま動きだした。

 ツカサが前で、鈴音が後ろでアゼルの側。そんなボジョニングだ。

 即座にツカサは手に黒い大剣――ヴァニティ・ペルグランデを生み出し、男のレイピアによる一撃を受け流す。


「鈴音! アゼルを頼む!」


「まっかせなさい!」


「あんな奴らやっちゃえツカサ!」


 アゼルの声援と同時に、レッド・ブラッドのメンバーはツカサへ三人、鈴音とアゼルに二人と二手に分かれた。

 鈴音とアゼルも気になるが、今は目の前にいる男たち三人だ。

 レイピア、ハルバード、スピアとどれも一癖ありそうな武器ばかり、レッド・ブラッドのメンバーたちがどの程度武器に習熟しているのかは分からないが、油断なんてできないだろう。


「いくぞ、お前ら……フッ!」


 レイピア持ちが叫ぶと、ハルバード持ちとスピア持ちも同時に動き出した。

 レイピアによる突き、ハルバードの叩きつけ、スピアの薙ぎ払い。三種三様の攻撃がツカサに襲いかかる。

 一呼吸したツカサは、ヴァニティ・ペルグランデを構える。

 そして再びレイピアを受け流し、ヴァニティ・ペルグランデの腹でハルバードの叩きつけを受け止め、スピアの薙ぎ払いをジャンプで回避する。


「お返しだっ!」


 空中で体勢を立て直したツカサは、ヴァニティ・ペルグランデでレイピア持ちに斬りかかろうとする。


「させねーよ」


「そんなデカブツで三人を相手にできるわけないだろ!」


 背後から聞こえてくる声に、嫌な予感がしたツカサは、すぐさま攻撃を中止して横にジャンプする。

 嫌な予感は合っていた。先程までツカサが立っていた場所を、ハルバード持ちとスピア持ちが突きたてていた。


「この……!」


 攻撃目標をハルバード持ちへと切り替えたツカサは、地面を蹴って斬りかかろうとする。

 だがレイピア持ちとスピア持ちが、無防備なツカサの背中に攻撃をしかけてくる。


「背中がガラ空きだぜ!」


「くらえやぁ!」


「ぐぅ……!」


 背中を斬られた。

 慣れない痛みに、苦悶の声が漏れてしまう。


「ちょっと! 三人がかりなんてカッコ悪いわよ!」


「向こうを心配できる状況かぁ?」


 鈴音の方を見れば、どうも状況は良くないようだ。

 アゼルの前に出た鈴音は、レッド・ブラッド二人の攻撃を捌いているが、彼女の表情は険しい。


「鈴音! そっちは大丈夫そうじゃないな……」


「あんたこそ、数が多いから泣き言をあげるんじゃないわよ!」


 鈴音の励ましに、身体へ力が湧いてくる。


「死ねぇぇぇ!」


 正面からレイピア持ちが突っ込んでくるが、素早く立ち上がってヴァニティ・ペルグランデで受け止める。


(反撃をしようとすれば、残りの二人から攻撃が来る……。どうすればいい!)


 まるでヴァニティ・ペルグランデに問いかけるように、心の中で叫ぶツカサ。

 次の瞬間、力の抜けるような感覚がツカサを襲う。


「な、なんだ……?」


「なんだはこっちのセリフだ! ()()()()()()!?」


 驚いているのは一人じゃない、この場にいるレッド・ブラッドのメンバー五人全員だ。

 五人全員の視線は、どれもツカサの背後を見ている。


「ツカサ、後ろのそれ……なに?」


「それって……はぁ!?」


 驚いている様子のアゼルが、ツカサの背後を指をさす。

 なんなんだ。と思いながらツカサは振り向けば、背後に巨大な灰色の騎士が立っていた。

 十五メートルはゆうに超えている巨大な灰色の騎士。敵か味方かも分からない。


「なんだこれ……!」


 反射的にツカサがヴァニティ・ペルグランデを振れば、巨大な灰色の騎士も手に持った大剣を振るう。

 ――斬!

 巨大な灰色の騎士は横薙ぎに大剣を振り払う。だけどツカサに鈴音、アゼルを傷つける様子は感じない。


「クソ! なんだコイツは!?」


 レイピア持ちとハルバード持ち、スピア持ちが巨大な灰色の騎士に攻撃をしかける。

 だがノーダメージなのか、全く反応がない。むしろ不気味なぐらいにだ。


(なんとなくだけど……こいつ(灰色の騎士)がどんな存在なのか分かってきた!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ