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君(アゼル)との出会い

 紅い月が昇る夜。

 くすんだ金髪と灰色の瞳が特徴的な青年――神崎(かんざき)ツカサは、家に帰ろうとしていた。


「おっかしいなぁ……」


 本来ならば車の一台や二台は走っているはずなのに、やけに静かなのが気になってしまう。

 それだけじゃない空に浮かんでいる紅い月。

 思わず見とれそうなほどに美しく見える。でもどこか妖しく見える気がする。

 ふと月を見上げた瞬間、空から何かが落ちてくる。


「なんだ? 飛行機?」


 飛行機にしては速いし、落下している気がするのは気のせいだろうか?

 注視して見れば、徐々に落下物の姿形が見えてくる。


「女の子ぉ!?」


 ツカサの見間違えでなければ、落ちてきているのは人――それもツカサより若い少女だ。


「ってこっちに落ちてくる!?」


 某天空の城よろしく、落下してくる少女。

 このまま彼女を見過ごせば、どうなるかは想像もしたくない。


「ああもう! セクハラとか言うんじゃねえぞ!」


 走って落ちてくる少女をキャッチしようとするツカサ。

 真下に移動して待っていると、少女の落下速度が減速していく。


「ラ、ラ◯ュタじゃん」


 そんな感想が漏れてしまうが、なんとか抱きとめることに成功した。そして少女の顔を見て、思わず見惚れてしまう。


「きれいだ……」


 短い銀の髪に、整った顔立ち、出る所は出て引っ込むところは引っ込んでいるスタイルのよい身体。

 そして一番特徴は……彼女の服装だ。

 なにせほとんど布切れで身体の大事なところを隠しているという。ほぼ痴女に近い姿なのだ。


「ううん……あなたは?」


「お、起きた? 俺は神埼ツカサ」


「かんざき……つかさ」


 おぼつかない様子ながらも、ツカサの名前を繰りかえす銀髪の少女。

 両腕で抱き止められている少女は、ようやく状況を理解し始めらしく、両目をパチパチとさせた。


「あ、私……助けてくれてありがとう。でも危険だから私から離れて」


「いや、君の方が危険だろ。そんな……その痴女みたいな服装で歩いていたら男に襲われるぞ」


「あなたも男……だよね?」


 コテンと首をかしげる銀髪の少女。何気ない動作だけど、とても可愛い。


「俺はその……そんな度胸ないですぅ! って君の名前聞いていい?」


「あ、そうだね。私はアゼル、アゼルでいいよ」


「アゼル、ええっとよろしく。俺のことはツカサでいいよ」


「うん、よろしくツカサ!」


(可愛いなぁ〜。どこかのお嬢さまかな? それにしては服装は変わってるし、聞かないほうがいいかもしれない)


 アゼルを地面に下ろしつつもツカサは、アゼルの姿をチラチラと見て観察してしまう。

 だがアゼルには気づかれていたらしく、軽く手を振ってくる。


「どうしたの?」


「いや、アゼルは可愛いって思って」


「えっと……ありがとう?」


 ツカサの率直な感想を聞いたアゼルは、きょとんとした反応をする。

 少し動くだけでアゼルの身体を隠している布切れから、色白な肌が見え隠れする。


「どうしてアゼルは落ちてきたんだ?」


「それは逃げてきたから……」


「あー……聞いて大丈夫なやつか? できることなら力になるけど」


「駄目。ツカサが死んじゃう」


 のほほんとした雰囲気から、緊迫した様子に変わるアゼル。


(死んじゃうってそんな大層な。でも嘘を言っているようには見えないし……)


「でもよう。アゼルを一人にするのも気が引けるんだよ」


「でもツカサが死ぬかもしれない」


「じゃあ他の人に助けてもらうとかどうだ? 俺の知り合いに警察官の人がいるんだ」


 黒のロングヘアをした女性の姿を頭に浮かべながら、ツカサはアゼルの手を握る。

 色白でやわらかいアゼルの手は、ツカサの手を払いのけない。

 直後、ツカサの頬を何かが通り抜けた。


「え?」


 チリっと僅かな痛みが走る。

 すぐさま頬を触ってみれば、べったりと血が付いていた。


「ツカサ! 逃げて!」


「いや、逃さねえよ」


 アゼルの声に続くように、誰かの声が聞こえる。

 声のした方向へ視線を向ければ、赤い蝙蝠の入れ墨をした三人の男たちがいた。

 ピアスや髪を染めているところを見るに、不良にしか見えない。


(普通の不良か? なにか違うような……)


 首筋がピリピリするような感覚は、まるで危険信号のように思えてしまう。


「誰だよ。お前ら」


「あ? 男には興味ねぇーよ。てか普通の人間がなんでアレナの中にいるわけ?」


「どうせ迷い込んだだけっしょ。さっさと殺して、あの女の子さらっていこうぜ。リーダーぜってぇうるせもん」


(アレナ? なにかの隠語か?)


 アレナという言葉に引っかかりを覚えるツカサ。その間にも赤い蝙蝠の入れ墨をした男たちは、ツカサとアゼルを囲んできた。

 ギュッとツカサの手を握ってきたアゼル。その感触でツカサは思案するのを止める。


「なんだか分からないけど、とりあえず逃げるぞアゼル!」


「うん!」


「待ちやがれ!」


 アゼルの手を離さないように握りしめ、ツカサは全力で走り出す。それに反応して男たちは追いかけてくる。

 走って。

 駆けて。

 疾走して。

 逃げ続けるツカサとアゼル。

 そんな中、ツカサは違和感を感じる。


(けっこうな時間を走っているはずなのに、どうして誰もいないんだ?)


 実際どれほど走ったかは時計を見ていないから分からない。それでも誰にも合わないというのは異常だ。

 ちらりと後ろを見れば、男たちはヘラヘラとした下品な笑みを浮かべている。

 まるでこの状況が想定通りのようだ。


「この、うっとおしい!」


 そんな表情にカチンと来てしまったツカサは、ポケットに入れてあるスマートフォンを先頭の男にめがけて投擲してしまう。

 投げられたスマートフォンはアゼルの前を通過していき、先頭で走っている男の額に命中した。


「イテッ!? テメェやりやがったなぁ!」


「イチローカッコ悪いぞ!」


「うっせえよジロー! まあ見てろって!」


 イチローと呼ばれた男は痛そうに額を抑えているが、走るスピードは全然落ちていない。

 そのまま走りながらイチローと呼ばれた男は、手のひらを前に構えてくる。


(ん……なんだ? なにかするのか?)


「ツカサ避けて!」


 疑問に思ってしまい。つい走るスピードを緩めてしまうツカサだった。だがアゼルの叫びを聞いて、反射的に身体が動く。

 瞬。

 また何か赤い物が飛んで来た。

 矢か? 銃弾か? 違うあれは血だ。

 イチローと呼ばれた男の手のひらから血が流れ出し、矢のごとくツカサに襲いかかってきたのだ。


「ハズレー! おいおいノーコンか?」


「うるせえぞサブロー。ならお前がやれよ、わかってると思うが……」


「女の方には当てないだろ? わかってるわかってる。ボスに殺されたくないからな」


 今度はサブローと呼ばれた男の手から、傷がないのに手から血が流れ出る。

 そして流れた血は地面に落ちることなく、ブロードソードへと変化した。


(嘘だろ!?)


 ありえない。常識を覆すような現象を前に、思わず目を見開いてしまうツカサ。


「アゼル! 離れてろ!」


「ツカサ!」


 まるでアゼルを守るように、彼女の前に出たツカサ。もちろん勝算なんてない。

 だが狙いはアゼルではないなら、ただ避けることに集中すればいい。


「おいおい、ヒーロー気取りかぁ?」


「じゃあなんだ。俺がヒーローならお前は怪人か?」


「てめぇ……死んだぞコラァ!」


 どうやらサブローと呼ばれた男の怒りに触れたらしく、怒りの表情を露わにしている。

 そのまま近づいてくると、ブロードソードをツカサに向けて振りかぶった。

 斬!

 大ぶりの攻撃だったおかげか、紙一重で回避することができた。


「痛ぇ……!」


 しかし胴体に痛みが襲ってくる。チラリと痛みがした箇所を見れば、服は切断され隙間からは地肌が見えている。

 そして赤い血がツーッと流れていた。

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