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まさか陰キャの僕が退学しようとしていたS級美少女の心の拠り所になるなんて  作者: 穂村大樹


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第59話 「カップルじゃないからセーフ」

「……ねぇ、どうしたの? 文化祭終わってもう一週間経つのにずーっとボーッとしてるけど」

「べっ、別にボーッとしてなんかないんですけど!?」


 七瀬にそう指摘されて我に帰った私は、ボーッとなんてしておらずいつも通りであることを強調した。

 焦ってそう返答した私を、七瀬の横に座っている五百部君がジト目で見つめてきている。


 文化祭が終わってから一週間が経過した今日、私たちはいつも通りパルフェに集まっていた。

 今日は四季屋君と中ノ瀬さんがシフトに入っているので、席にいるのは私と七瀬、それに五百部君の三人である。


「いやさ、その反応もこの一週間飽きるほど見たんだよね。頑なに話そうとしないけど、しっきーと何かあったのは明白なんだしそろそろ何があったのか教えてくれてもよくない?」

「そっ、それは--……」


 この一週間、七瀬から文化祭で何があったのかをずっと問われている私だが、私は黙秘を続けている。




 --言えるわけないでしょ!?

 自分の気持ちを確認するために四季屋君にキスをしただなんて!?




 今でも信じられない。自分があんなに積極的な行動を取ったことが。取ってしまったことが。


 いや、だってキスだよ!?


 キスって付き合ってない男女がしていいようなものなの!?

 気持ちを確認するためだけにしていいようなものなの!?


 付き合ってもいない男の子に、しかも自分のことを好きでいてくれている男の子に自分の気持ちを確認するためだけに自分からキスをしただなんて知られたら恥ずかしすぎて死んでしまう。


 というか、これ逆ならセクハラとかモラハラとか、なんかそういうので訴えられてもおかしくないレベルじゃない?


 私相当ヤバいことしてそうだけど大丈夫?


「黙るだけなんだ卑怯だぞ! しっきーがゆいちを探しに行った時、誰が頑張ってカフェ回したと思ってんの!」


 四季屋君が私のもとに来られたのは、七瀬にカフェの運営を頑張ってもらったからだという話は四季屋君から聞いているので知っている。

 私のせいで七瀬に迷惑をかけてしまったのだから、四季屋君との間に起きた出来事を頑なに話さないと言うのも申し訳ないんだけど……。


「そっ、それは……ごめんなさい」

「謝罪なんていらないんだよ。今私が聞きたいのは、文化祭の日に何があったのかって話なんだよ。いつまでも気まずそうにしてる二人の姿なんて見てられないんだからさ」


 ……そうか。七瀬はただ何があったか気になるから私と四季屋君の間に何があったのかを聞いてきているんじゃなくて、私と四季屋君の関係性を気にしてくれているから何があったのか教えてほしいと言ってくれてるんだ。


 私が四季屋君と距離を置くようになったのは四季屋君の気持ちを知ってから。

 そして、四季屋君の気持ちを知ってしまったのは七瀬が後をつけようと言ったからだ。


 きっと七瀬なりに少なからず責任を感じてくれているのだろう。


 私と四季屋君が仲直りできたのは間接的には七瀬が頑張ってくれたからなわけだし、七瀬には何があったのかを知る権利がある。

 逆にいうと、私には七瀬に何があったのかを伝える義務があるのだ。


「……驚かないでね?」

「任せといてよ」




「……文化祭の日、私から屋上で四季屋君にキスしたの」

「「ブハァァァァッ!?」」




 私が何があったのかを端的に伝えると、二人は口に含んでいたコーヒーを吹き出した。


「ちょっ、ちょっと二人とも!? 驚かないでって言ったのにぃ!」

「ゲホッ、ゲホッ。おっ、驚いたわけじゃないよ? ちょっとその、動揺しただけで」


 確かに私の話を聞いて動揺するのはわかるけど、それにしても動揺しすぎじゃない?


 普通そこまで驚かない気がするんだけど。五百部君に関しては特に。


「というか二人とも驚きすぎじゃない? いやまあ内容が内容だし驚くのはわかるんだけど」

「そ、そりゃね!? 流石にキスしたなんて言われたら驚くでしょ!?」

「……まあそうだけど」

「と、というかそれってもしかして午後六時のチャイムが鳴ったタイミングだったりする?」

「……」


 そう訊かれた私は黙ることしかできなかった。


 七瀬の言った通り、私が四季屋君にキスをしたのは午後六時だった。


 文化祭当日の午後六時にカップルがキスをすれば一生結ばれる--。


 そんな話をクラスメイトがしているのを耳にしたが、七瀬だってその噂は知っているだろう。

 

 しかし、決して狙って六時にキスをしたわけじゃなく、本当に偶々私がキスをしたタイミングが午後六時だったのだ。


 七瀬からの質問に答えるとするなら『うん』という返事になるんだけど、そう答えると私が『六時にキスをしたら一生結ばれる』という言い伝えを信じてキスしたと思われてしまうので、すぐに返事をすることができなかった。


「じゃあ一生結ばれるじゃん!!」

「ねっ、狙ったわけじゃないの! 本当にあの時は無我夢中で、そしたら偶々キスをしたタイミングが午後六時だったってだけで……」

「……へぇ」

「あっ! 疑ってるわね!? 本当に狙ったんじゃないんだから! 偶々なんだから! ていうかあの都市伝説は飽くまで『午後六時にキスをしたカップルは一生結ばれる』なんだからセーフよ! 私たちカップルじゃないし!」

「……そうだ。カップルじゃないから結ばれない」

「……へ?」


 基本黙り込んでいる五百部君が、突然話に入ってきた。

 それも私の意見に賛同するような形で。


「カップルじゃない男女が文化祭当日の午後六時にキスしたって絶対に結ばれないんだからな!?」

「そっ、そうね……?」

「それに午後六時を一秒でも過ぎればそんな言い伝えは無効に--グヂュブハァ!?」


 私の意見に賛同してくれたのはありがたいけど、なぜ突然五百部君は立ち上がってまで私の意見に賛同してくれたのだろうか。


 まるで何かを否定するような……。


 そして突然大きな声を出したせいなのか、横にいた七瀬はいつも通り五百部君に暴力を振るってこの場は幕を閉じたのだった。


 結局私と四季屋君の関係は、前進したのか現状維持なのか後退してしまったのかはわからないが、こうして私たちの文化祭は完全に終わりを迎えたのだった。

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