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まさか陰キャの僕が退学しようとしていたS級美少女の心の拠り所になるなんて  作者: 穂村大樹


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第58話 「〇の暴力で行くしかないよね?」

 文化祭は滞りなく終わりを迎えた。


 グラウンドにはキャンプファイヤーを囲む大勢の生徒が集まり、文化祭の終わりを惜しんでいる。


 普通なら俺もそのキャンプファイヤーに群がる大勢の生徒の中にいるべきなのだろうが、俺はグラウンドから離れて体育館裏へと向かった。




『文化祭当日、午後六時、体育館裏』




 最初は何を言っているのかわからなかった。


 いや、言葉の意味はもちろん理解できる。


 文化祭当日の午後六時に体育館裏に来いと、七瀬は俺に向かってそう言ってきたのだ。


 俺が理解できなかったのは、なぜ七瀬が俺をわざわざ体育館裏に呼んだのかということ。


 俺と七瀬は幼馴染で家も近いし、わざわざ体育館に呼び出さなくともいつだって俺に話をするタイミングはあるはずだ。


 それなのに俺を体育館裏に呼んだ意味--。


 その真意が何なのかはわからないが、普段の会話の中では話すことができない、何かしら重要な話をしようとしているのは間違いない。


 もしかしたら中学の頃と同じようにまた告白をされるのか?


 でもそんなことをされたって、俺は以前と同じようにその告白を断ることしかできない。


 俺は七瀬が好きだ。

 俺には何もないものを全て持っている七瀬が好きだ。


 天真爛漫な表情も、少々おちゃらけているように見えるものの実はその中に確かな優しさがあって気配りができるところも、俺の立ち位置を気にしないで一緒にいてくれるところも、全部が大好きだ。


 だからこそ、俺は七瀬と付き合えない。


 俺は自分に自信がないし、俺と七瀬の立ち位置は違いすぎて付き合っても迷惑をかけることしかないだろうから。


 だから、また告白されたとしても俺は同じように七瀬の告白を断るだろう。


 そんなことを考えているうちに、俺は体育館裏に到着した。


「……一分遅刻」

「一分くらい許してくれてもいいだろ」

「へぇ、随分余裕かましてるね」

「……まあ殴られることには慣れてるし」


 殴られることに慣れてるって、言ってて自分で悲しくなってきたな。


 とはいえ、七瀬が俺に暴力を振るうようになったのは俺の責任なので、俺が七瀬を攻めることはできない。


「……何でここに呼ばれたか、わかる?」

「……さあな」

「嘘。また告白されるんじゃないかって思ってるでしょ」

「……」


 図星すぎて、俺は黙ることしかできなかった。


「……そうだよ。その通りだよ。また告白しようと思って。私はやっぱり周のことが好き。いつも暴力振るってるけど、私は周のことが大好きなんだ」


 予想以上に素直に、ストレートに自分の気持ちを伝えてきた七瀬に、俺は目を丸くした。


「……普通大好きな人間に暴力なんて振るわないと思うんだが?」

「それについては周が一番理解してるでしょ。理解してるからこそ、私の暴力を本気で止めようとはしないんでしょ」

「……まあそうだな」

「この告白だって、どうせ断るんでしょ?」

「……そのつもりだ」


 それがわかっているならなぜ告白してくる?

 振られるとわかっているなら告白なんてしてくる必要は全くないはずだ。


「中学の時と同じ理由で?」

「……ああ」


 俺がそういうと、七瀬はしばらく間を空けてから話し始めた。


「ねぇ、わかってる? 私の告白を自分に自信がないからって理由で断るってことは、私が周のことを好きって気持ちを全否定してるってこと」


 七瀬の気持ちを全否定しているつもりなんてないが、七瀬からしてみればそう見えるのは当然の話だ。

 七瀬が好きな俺のことを、俺自身が大嫌いだと言っているのだから。


「……」

「私は周が好きだよ。幼馴染で小さい頃から今日までずっと一緒にいるんだから、好きにならないはずがないよねむしろ。でも、自分のことを卑下する周は嫌い。それはしっきーも一緒。でもね、しっきーは最近変わろうとしてるんだよ。誰のためなんてことはもう言う必要ないだろうけど、自分を変えようとしてる。でも周はいつまで経っても変わろうとしない。いつまでたっても自分は私には吊り合わないって諦めて、行動しない。そんな周は嫌いなの。だから、もっと自分に自信を持ってよ。変わろうと努力してよ。そしたらきっと、もっと輝く周になれるはずだし、周ならそれができるはずだから」


 七瀬は幾度となく俺に自信を持つようにと言葉をかけてきた。 

 その度に、心が揺れそうになったし、七瀬に対して申し訳ない気持ちを持った。


 --でも、七瀬の言葉は俺の心には刺さらない。


 一番近くにいて明るすぎる七瀬を見てきた俺だからこそ、自分が七瀬のように明るくなり、自信を持てるだなんて思うことができないのだ。


 第三者が自信を持てと言ってくるならまだしも、七瀬に自信を持てと言われても無理な話なのだ、俺にそう言ってきたところで


「好き勝手言ってくれるな。俺は輝かないよ。七瀬がキャンプファイヤーくらい大きな火なんだとしたら、俺はそこら辺の焚き火程度……いや、火の粉くらいの人間だ」

「……じゃあその火の粉がもっと燃えたぎるようにきてあげる」

「えっ--------」


 刹那、柔らかい唇が触れる。


「なっ、なっ、なっ!?」

「暴力が効かないならもう、性の暴力で行くしかないよね?」

「なっ、そっ、それは方向性が流石にちがいすぎるだろ!?」

「違わないよ」


 性の暴力なんて、言葉選びを間違えすぎている気はする。

 しかし、それでも七瀬に対する僕の心の日が、キャンプファイヤーの火のように轟々と燃え盛ってしまったのは事実だった。

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