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たとえ、かなわないとしても  作者: 宝月 蓮


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手放しで喜べない

 エデルミラとマカリオが婚約して一年が経過した。


 この時のニサップ王国全体の雰囲気は不穏になっていた。ニサップ王国では現在、疫病が広がり始めていたのである。

 この疫病は、海を挟んで南側にある大陸の国々の風土病だ。


 ニサップ王国の南側に隣接するグロートロップ王国は、海を挟んだ南側の大陸の国々と交流がある。そこからグロートロップ王国に南側の大陸の風土病が広がり、ニサップ王国にも入って来たのだ。


 初期症状は咳のみ。そして次第に全身に水痘のような発疹が見られる。大抵の者はこの段階で快方に向かうが、中には重症化して亡くなる者もいる。また、完治した者の中には運悪く痘瘡が残ってしまう場合がある。

 これが現在ニサップ王国で広がっている疫病の特徴だった。

 現在治療法は確立されておらず、特効薬やワクチンなども開発されていない状況だ。

 ニサップ王国の東側に隣接する、医療技術に強いナルフェック王国が現在治療法、特効薬、ワクチンなどを開発中らしい。


 その疫病に、マカリオが感染してしまった。


「マカリオ様が……疫病に……。どうしてマカリオ様なの……?」

 そのことを聞いたエデルミラは驚愕し、不安に支配される。

「ミラ、兄上の症状は軽い方だ。落ち着いて」

 ハビエルはそんなエデルミラを宥めていた。

 そのお陰で少し落ち着きを取り戻したエデルミラ。ハビエルはエデルミラの様子を見て少し安心した。

「それならば、(わたくし)はマカリオ様の看病をするわ」

「ミラ、それは駄目だ!」

 ハビエルは今にもエデルミラがマカリオの元へ向かいそうだったので、慌てて彼女を止めた。

「この病はまだ治療法が確立されていないし、薬もまだ開発段階だ。兄上と接触してミラまで疫病に感染したら大変だ」


 実際、ハビエルやカラバンチェル侯爵家の他の家族も疫病に感染しないよう、マカリオは現在カラバンチェル侯爵城敷地内にある離れの屋敷に隔離されている。


「でも、重症化して亡くなる場合もあると言われているし……」

「ミラ、兄上はまだ若いし体力がある。病に負けるはずがないさ。医師達も兄上の回復の為に精一杯やってくれている。それに、神もまだまだこれからの兄上を連れて行ったりしないはずだ」

 ハビエルはなるべくエデルミラの不安を取り除けるよう、優しい表情だった。

「ミラ、今は兄上や医師達を信じて待つんだ。俺も一緒にいるから」

 ハビエルはそっとエデルミラの手を握った。

「……そうね」

 エデルミラの手は震えていたが、次第に震えは止まっていた。


 エデルミラはカラバンチェル侯爵城の窓から、マカリオがいる離れの屋敷に目を向ける。

 どうかマカリオが回復しますようにと願っているように見えた。

(兄上、どうか病に打ち勝ってください。ミラの幸せの為にも……)

 ハビエルはエメラルドの目を真っ直ぐ離れの屋敷の方に向けていた。


 しかしマカリオの容体は急変し、僅か十八歳でこの世を去ってしまった。

 

「マカリオ様……! どうして……!? どうしてなのですか……!?」

 葬儀にて、黒いドレスと黒いベールを身にまとったエデルミラは、棺の中にいる最愛の婚約者マカリオに縋り膝から崩れ落ちていた。

 そのサファイアの目からは、透明な涙がポロポロと溢れ出している。

「ミラ……」

 ハビエルはそっとエデルミラの背中を撫でる。

(兄上……どうしてですか? どうしてミラを置いて逝ってしまうのですか? ミラを幸せに出来るのは兄上だけなのに……!)

 尊敬する兄を失った悲しみと、ただエデルミラの幸せを願う気持ちでハビエルの心はぐちゃぐちゃである。

 しかし、今は目の前で泣き崩れているエデルミラを支えてあげたいと思うハビエルだった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 マカリオの葬儀から数日後。

 ハビエルは父であるカラバンチェル侯爵家当主に呼び出された。

 マカリオが亡くなってすぐの時は、父も悲しみに暮れていた。しかし、今は少し落ち着きを取り戻している様子である。

「ハビエル……マカリオが亡き今、お前がカラバンチェル侯爵家次期当主だ」

「……はい」

 ハビエルは重々しく頷いた。


 ハビエルはカラバンチェル侯爵家次男として、長男のマカリオにもしもの時があった場合の為に教育されていた。


「それと、お前の結婚相手の件だ。周囲には喪が明けてから正式に発表するが、お前の婚約者はエデルミラ嬢だ」

 まるで当たり前であるかのような言葉だった。

 父の言葉にハビエルはエメラルドの目を大きく見開く。

「ミラと……兄上の婚約者だったエデルミラ嬢と……!?」

「ああ。ラ・モタ伯爵家と我がカラバンチェル侯爵家の事業の為にな。エデルミラ嬢はお前も幼い頃から知っているから、気を許せる仲であろう」

「それはそうですが……」

「ラ・モタ伯爵家にも話は通してある。伯爵閣下も了承済みだ」

「そう……ですか……」

 ハビエルはそう答えるのが精一杯だった。


 幼い頃からハビエルはエデルミラのことを想い続けていた。

 しかし、ハビエルが何よりも大切にしていることはエデルミラの幸せである。

 マカリオの隣にいることが、エデルミラの幸せだった。ハビエルはエデルミラの幸せを邪魔しないよう、身を引いて見守ることにしていた。


 しかしマカリオ亡き今、ハビエルはエデルミラと人生を共にする機会がやって来た。

 幼い頃のハビエルなら喜んだだろう。

 しかし今のハビエルは、そのことを手放しで喜べなかった。

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