七話 目標
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俺はすっかり後部座席で寝てしまっていた。そして窓から差し掛かる光が、俺の目を覚ましてくれた。
重い瞼を開けると、さっきまで夜だったはずが、もうすでに朝だった。俺が起きたのをミラー越しで確認したリアが微笑んだ。
「おはよう、フィル。レデュガーより早く起きたな」
車はまだ動いたままだった。そう、リアはずっと運転していたのだ。慌てて姿勢を正し、膝に両手をついた。
「お、おはようございます!」
「たははッ!寝ぐせつきまくってるぞ。写真撮ってやる」
手に持った板式の通信機器で、ミラー越しにリアは俺の顔をパシャリと撮った。寝坊助の顔が保存されるのは恥ずかしいが、俺はただただ顔を赤くするだけだった。
いびきをかいて寝てるのは助手席にいるレデュガー。よだれを垂らして気持ちよさそうに眠っている。
「まぁもうそろそろ朝飯にしてもいい頃合いだな。そこら辺にとめて、ゆっくり食おうか」
リアは良さそうな平地を見つけて、道路から車を下した。外を見れば、夜はわからなかった景色が見える。草原が広がっており、ぽつぽつと家はあるがどれも半壊気味のものだらけ。夜飯を食べたときは地面に草などなかったはずだが、ここには緑が広がっていたのだ。
全く違う景色に息を飲んでいると、車は草原の上で止まった。
「よし、朝飯だ。夜の時と同じ要領だ。できるな、フィル」
「は、はい」
俺は自動で開く後部座席から降り、積んでいた椅子を持っていく。リアはと言うと、助手席で未だ眠るレデュガーに対し素早いチョップを頭に食らわす。
「痛ってぇ!?おま、義手の方でやったな!?」
「さっさと起きろ。ほら、朝飯の準備だ」
リアは運転席から降り、草原を踏みしめる。周りを一回見て危険が無いことを再確認し、焚火セットをよっこらせっと車から取り出す。
レデュガーは叩かれた頭を左手で摩りながら、自身のリュックを取り出し助手席から降りる。
あくびを一回し、周りを見渡しレデュガーは驚いた。
「うぉ、もうこんなところまで来たのか。だいぶ運転したんだな」
「そうだ。もうガソリンがない、あとで補給しといてくれ」
そう言いながら焚火セットをリアは展開する。俺はと言うと二つの椅子の展開を終えてまた一面に広がる草原を見渡す。
「…綺麗」
自然と口からそういう言葉が漏れた。このような景色をみたことはなかった。孤児院で過ごしていた時はずっと屋内で何かして遊んでいたり、ご飯を食べたりとしていた。あまり美味しいご飯ではなかったが。
レデュガーは車から自身のリュックとは別に大きな箱も持ってきており、焚火から少し離れた位置に置いた。
「ん?それはなんですか」
レデュガーの持ってきた箱を指さすと、レデュガーは開けながら答えてくれた。
「ただのクーラーボックスだよ。フィル、俺のリュックからフライパンを取ってくれ。目玉焼きだ」
たまごを持ちながらニッと笑うレデュガー。朝ごはんにはもってこいの料理である。リアは焚火が着いたのを確認すると、二つの内の一つの椅子に座った。
「たぁッ!疲れた。もう運転できなぁい」
「ご苦労なこった。ここからは俺だな」
レデュガーはペットボトルをリアに渡した。そして俺にも渡してくれて、俺たちは蓋を開けて水を飲む。
大自然の草原だ。風が気持ちいい。
レデュガーはフライパンを焚火に置いて熱し始める。リアは運転でかなり疲弊しているが、彼女も風を気持ちよさそうに仰いでいる。
レデュガーに座らないかと合図をしたが、俺が座れと返されたので申し訳なく椅子に座り、リアの方に声をかけた。
「リアさん。その、昨日言っていた俺を助けた理由と言うのは、その…両親が助けてくれた、からなんですよね?」
「そうだ。まぁ…うちなりの恩返し、てやつかな」
「助けてもらった俺が言うのもあれなんですけど、他の人たちも助けられなかったんでしょうか?あの中には、俺と同じような孤児院で育った子供も混じってました」
「そうしてやりたかった。でも、そこまでうちたちに余裕はなかったんだ」
「…そう、ですよね」
ジュ―と音がなる。たまごが焼けている音だ。そしてレデュガーはリュックから昨日と同じパンを投げてくれた。俺はあわてて手錠でつながった両手で受け取る。
リアも受け取ると、それを開けながら俺に言った。
「なぁ、フィル。お前はあのまま連行されたらどうなるか…知ってるか?」
「え?ただ刑務所に行くだけですよね?」
「…それは違うんだ」
リアは開けたパンをかじって、口で噛み喉に流した。
「連行された人々は、留置所にて一時的に捕まる。その後、彼らの脳には特殊なインプラントが挿入されるんだ」
左膝に右足を乗せ、焼けるたまごをみながらリアは続ける。
「そのインプラントには、人の思考を制御する機能があるんだ。そして本人はそれをわかっていない。いわば洗脳と一緒だ。これをうちたちはロイド化と呼んでいる」
「洗脳…?」
「思考を制御して、反社会的考えを抹消させるんだ。あの街に住む人々のほとんどは、既にロイド化されたものだ。皆、気づいていないがな」
「で、でも、そんなのって出来るんですか?」
「出来るくらいまでテクノロジーが進んだってことだよ」
レデュガーは焼けたたまごが乗ったフライパンを持ちながらそう言った。リアは椅子を焚火に寄せ、フォークを持ちフライパンに乗っている目玉焼きに手を伸ばした。
「食いな、フィル」
リアはそう言って目玉焼きを食べる。俺も同じように椅子を寄せ、レデュガーからフォークをもらい、フライパンの上にある目玉焼きに手を伸ばした。小さくカットし、口に運ぶ。
うん、美味しい。
「お偉いさん方は、戦争の反省を踏まえて人々の思考を統率すれば、戦争はなくなると考えたんだ。まぁ、そんなのただの操り人形だがな」
レデュガーは立ちながら目玉焼きを食っている。
確かに、数年前の戦争でこの国は多くの人々が犠牲になった。核戦争まで発展し、多くの人は住む家を追われ、どこかに身を置くのも大変な状況だ。それは今になっても続いている。
ただその結果、まさか人々の思考を制御するという手段が存在していたことに俺は驚きを隠せなかった。
リアは呑み込むと、自身の頭を指で指しながら言った。
「一度インプラントを埋め込まれれば、摘出しない限り操り人形のままだ。だか彼らにはその自覚がない。そうして危険のなくなったアウトサイダーや犯罪者はそのまま街に開放され、社会の歯車同然になってしまう」
「そんな奴らの洗脳を解くことこそ、俺たちの目標ってわけさ」
レデュガーは目玉焼きを食べながらそう言った
設定を考えるのって本当に大変ですよね