四話 夜の道路
俺は小さくなっていく街を後部座席の割れた窓から見ていた。荷台には座っている先ほどの女性。見た感じ怪我はなさそうだ。
雨は未だ止まず、後部座席のシートの上側は既にびしょ濡れだ。
「で…出ちゃった…あの街から」
俺は濡れる髪など気に留めず、輝く街をただただ眺めていた。
外に出れば、道路は街灯が定期的に並び、いくつかの建物やお店が暗く陳列していた。既に真夜中ということもあり、店などは開いていない。ただただ心もとなく灯る街灯が夜を照らす。
そして俺はシートにしっかり座り、前の方を見る。雨に打たれるフロントガラスの先はハイビームの車のライトが何とか照らしている。
後部座席の足元には割れたガラスが散乱しており、俺は踏まないように気を付けながらレデュガーという人の顔を伺う。
「あ、あの…えっと、今何処に向かってるんですか?」
レデュガーはデジタルバックミラーを弄り、普通のミラーに切り替えると俺の目と視線を合わせた。急に見られた俺は、聞いていながらも体をびくりと震わせる。
「なんだ、奴から聞いてないのか」
「す、すみません。奴…とは?」
「あ?奴って今荷台に座っているのに決まっているだろ」
「あの、名前も聞いてないんですけど。急に連れて行かれて、乗せられている感じなんです」
俺の返事を聞いてレデュガーは大きくため息をついて頭を横に振った。
「リアの野郎、何にも説明してねえじゃねえか。まぁあの状況じゃ出来ないかもしれんが」
そう一人で呟いて、夜の道路を駆け抜けていく。リアというのが彼女の名だろうか。
運転手は再度ミラーを見て、俺とまた目線を合わせた。
「フィル、だったよな?俺はレデュガーだ。今はいろいろとあって頭はパンク寸前だろうが…」
そう言いながら助手席の方へと手を伸ばし、一枚の厚い布を俺の方へと差し出してきた。
「寒いだろ。これ羽織って寝とけ」
大きめの布だった。俺は寒い体を震わしながら、荒くそれを手錠した両手で掴んで体を覆う。濡れたままだったが、それでもボロボロの服を覆えればなんでもよかった。
寒さが一気に和らぐ。暖かい。
レデュガーはこれを渡してから、運転に集中していた。俺は何も言わず、ただただ暖かさに身を任せていた。
数十分後。
雨もかなり弱まり、ぽつぽつと小雨程度になっていた。そして荷台に乗っていた女性は強くトラックの壁を二度、ダンダンと叩く。
「一旦止まってくれ、レデュガー」
割れた窓からそう彼女は言うと、レデュガーは道路の脇に車を寄せた。俺は止まったのを確認すると、目的地に着いたのかと思い外を見る。ただ外に見えるのはぽつぽつと低い建物が建っている平地だ。ここが目的地か、と思っていると後部座席のドアが開いた。
外に建っていたのはあの女性。まだヘルメットをかぶっていた。
「おいリア。いつまで変声機使ってるんだ」
「な、ついてたか。消すの忘れてた」
ピッと音がすると、こちらに向いたリアという人。
「少しじっとしてろよ」
女性の声に戻った警備兵の恰好のリアは、外から俺の首輪に手を伸ばす。そして首輪を指で入念に触り、どこかを探っているようだ。
「…ここか」
カチャ。
首輪が開錠すると半分に折れると、突如大きな警告音がピーピーと鳴り始めた。
リアはそれを手に取って濡れる地面に放ってすぐさまホルスターから銃を取り出すと、その首輪に標準を合わせた。
一発、二発、三発。
首輪はボロボロになり、ビビッと音を一瞬音を散らしては鉄くずへとなり果てた。
「よし、これでOK」
俺は自身の首につけられた首輪だったもの、を後部座席の中から見てみる。後部座席のドアは勝手に閉まってしまう。リアは銃をホルスターに仕舞うと、そのまま助手席の方へと向かう。
ドアを開け、助手席に荒く座ってドアを閉めるとトラックは再度動き出した。リアはヘルメットを外し、足元において近くに置いてあったタオルを手に持って体を拭き始めて呟いた。
「はぁ死ぬかと思った」
「あぁ。警備兵の奴ら、またテクノロジーが上がってたな」
「お前の運転でだよ」
リアとレデュガーはどうやらかなり仲が良いらしい。見た感じ、相棒とでも言うべきか。彼女は顔を拭き終わると、後部座席の俺に振り返った。
「自己紹介が遅れたね。うちはコルリア。リアで良い」
銀髪を揺らし、こちらを見た。整った顔の女性だ。
「おい水飛ばすんじゃねぇ!ちゃんと髪も拭け!」
「うるさいよレデュガー。この暴走野郎」
リアは前を向き直し、タオルで濡れた髪も拭く。俺はその二人の様子に困惑を感じながらも、少しの安心感もあった。
だがあの街から脱獄したという事実に変わりはない。俺は解かれていない手錠を見て、それをまた認識した。
タオルで髪を拭きながら再度リアはこちらを振り向いた。
「あぁ、手錠ね。ごめん、それはうちじゃ解けなくてね。うちらの街に戻れば取れるから、しばらくはそのままで」
「あ、いえ。全然…その、大丈夫です。えっと…」
俺は前の二人を見て、頭をスッと下げた。
「ありがとうございますッ!その、助けてくれて…」
寒くないのに俺は震えていた。あのまま連行されたら、刑務所行きだったはずだ。どうあれ、二人は助けてくれたのだ。感謝はしなければいけないだろう。
定期的に車の中を並ぶ街灯が照らしてる。
「ふん。どういたしまして、フィル」
リアは小さく微笑んで、タオルを首にかけた。レデュガーは何も言わず、夜の道路をただただ運転していく。
俺はいったい何処にむかっているのだろうか。
名前はわかりやすいを大切にしたいですね。