二話 外へ
「おっと…流石にさっきの警備兵たちに気づかれそうだな」
すると女性は顔にまたヘルメットを着け、首の変声機に手を伸ばした。
「フィル。逃げるぞ」
女性の声から男性の声に切り替わり、もう先ほどまでの女性の面影など今は見えはしない。
そして逃げる、と言う言葉に俺は畏怖してしまう。俺は一歩震えるように退き、口を開いた。
「あ、あんた誰なんだッ!どうして急にお、お、俺をッ!あの場から連れ出したんだ!なんで俺の名前を知ってるんだよッ!どこに連れていく気なんだよッ!」
まとまらない言葉とパニック状態で思考が無茶苦茶になっている俺を見て、警備兵となった女性は頭を落とした。
「確かに今混乱するのはわかる。だが、フィル…君があのトラックに乗せられたらもう助ける手段がなかったんだ」
「助けるって…助けるってなんだよッ!たかが刑務所に行くだけだろッ!」
俺はつながった両手を激しく震わす。
「あの場から逃げ出した俺はもう、逃亡犯だッ!撃ち殺されても文句は言えないんだぞ!」
「…」
「な、なぁ…俺をあの場所に戻してくれ…」
「…」
ヘルメットの奥でどういう表情をしているかはわからないが、俺は訴えるのをやめなかった。しかしそんな俺のことなど無視し、彼女は強引にまた腕を掴んでくる。
「な、ちょ…おいッ!」
「今は時間がない。さっさと行くぞ」
変えた声からでもわかる、先ほどまでよりトーンが低い。どうやら余裕がなくなってきたのは本当の様だった。俺は抵抗もできないまま、薄暗いビルの間を引っ張られて進んでいく。
このままいずれ捕まって、射殺されるのだろうか。もうこの人生に別れを告げなければいけないのか。
そう物思いにふけっていると、突如彼女は止まった。この隙間の出口手前で、彼女は上を見た。
「…ドローンがいる。相変わらずだなこの街は」
ドローン。飛行型監視ロボット。あれを含めればもうこの街に死角という死角はごく僅かだろう。流石最新テクノロジーが集う街だ
「…よし。フィル、ここから一気に目的地まで走るが、大丈夫だな?」
「は、はぁッ!?どこにッ?これ以上離れたらもう死んじゃうってッ!」
「ごちゃごちゃうるさいぞ」
すると彼女は俺を掴む手とは反対の手を耳元に置き、小さく呟いて前を向いた。
「アラスタータワーとステーションセンタービルの間から一気にそっちに行く。いいぞ」
誰かと通信をしているようだ。俺は腕を掴まれたままそっと出口の先を見やる。ドローン、道路、車、雨、そして無数のビル。ここらへんは俺のようなアウトサイダーが連行される場所なためか、人はあまりいなかった。
その直後、急に空を飛んでいたドローンが力もなく落下した。ガコンッ、と鈍い音を立てて複数地面に落ちたのを彼女は確認すると、こちらに振り返った。
「一気に走るぞ!」
「えっ?」
ぐいっと掴まれた腕を引っ張り俺はビルとビルの隙間から出て一気に彼女は走り始める。何も状況がわからない俺はただただ彼女についていくことに精一杯だ。
彼女の方は何も迷いなくビルとビルの間を抜け、曲がり角で曲がって最短距離でその目的地という所に向かっているのがわかる。
そして驚くべきことは、まわりのドローンやカメラが全て動いていないということだ。彼女が何かしたのだろうか?
俺は落ちているドローンを横目に、ただただ身を任せて冷たい地面を走る。
「もうそろそろ…あ」
建物の間を何度も抜け、その先に見えたのは一台の車だった。黒いピックアップトラックが、既にエンジンを吹かせて待機しているようだ。
そして、ドローンの故障やカメラの停止があったためか、徐々に遠くからサイレンが鳴り響き始める。俺は震えて周りを見渡す。警備兵が異変に気付いたのだろう。
「来たか。ほら、さっさとあれに乗れ!」
引っ張られ俺は自動で空いたピックアップトラックの後部座席に無理やり乗せられる。運転座席にいたのは、側面をバリカンで剃って中心前側部分の髪を綺麗に整えた筋肉質な男性だった。
その男は俺を運転座席から振り返って確認すると、運転座席の窓からさっきの女性がドンドンと窓を叩いた。
その運転手は窓を開けると、雨音が入り、大きくなるサイレンが聞こえてくる。
「おい、レデュガー!うちは荷台に乗って迎撃体勢を取る!いいな!」
「あいよ」
男性の声のままのため変に聞こえるが、運転手はそのまま窓を閉め女性の方は軽やかな動きで荷台に乗った。
「そんじゃ飛ばすぞッ!」
運転手はギアチェンジを手に取り、一気にDへと動かす。そして強くアクセルを踏み、タイヤは水溜りを強く飛ばし一気にその場から発進した。
「な、な…何が起こってるんだぁ!?」
そしてピックアップトラックはサイレンの鳴り響く夜の街を切り出した。
こういう作品を考えていたのです(^^♪