十三話 願い
「…このような、感じです」
リアは今の話を聞いて、背を背もたれにつけ両手を机に乗せた。
「そうか」
窓から夕焼けが部屋に差し込んでくる。舞う埃をキラキラと映し、リアは口を開いた。
「孤児院で育ったんだな。そりゃ、辛かったな」
「…でも、楽しかったです」
リアは両手を合わせ机に置き、こちらを見ながら言った。
「話してくれてありがとうな。…せっかく言ってくれたんだ。うちも少しだけ話そうか」
今思えば、俺はリアのことをほとんど知らなかった。義手を持つ戦闘員、としか認識をしてないがその戦闘力はすさまじいものだった。だがそれだけだ。
「うちは、いろいろな所を旅していた。まぁそのほとんどは戦争の跡地とかなんだけど」
そう言いながら彼女は部屋の家具や装飾品を指した。
「これらのほとんどはそこからくすねた品々だよ。あまり統一性がないだろ?そういうわけだ」
リアは立ちあがって、壁に飾っている絵を持った。戦闘民族が争い合っているイラストだった。
「これとかどうだ?なかなかユニークな絵だろ?他にもな…」
壁に絵を戻すと、棚に置いてある帽子に手を伸ばした。ボロボロだが原型をとどめており、濃い赤色のカウボーイハットだ。そっと被ると、こちらに振り向いた。
「似合うだろ?まさにガンマン!…なんつってな」
リアは自分で苦笑してハットを棚に戻した。その他もろもろ、統一性のないあらゆるオブジェクトがここには飾られていたのだ。
「そうやって旅をしているうちに、レデュガーに出会った。あいつは面白いやつでな」
レデュガー。あの筋肉ムキムキでバリカンヘアーの運転手だ。
「会った時にはもう足が無くなっててな。血がだらだらで、急いでうちがリバルバに彼を運んだ。そこで機械専門の奴にレデュガーの足を作ってもらったんだ」
リアが出会った時にはもう彼は足がなかったのか。話から察するに、レデュガーはかなりの瀕死状態だったのだろう。リアの言葉足らずであまり情景は浮かばないが、ひどい状態だったはずだ。
「なんで彼が足を失っていたのか聞いては見たんだが、教えてくれないんだ。まぁ、その後はレデュガーと一緒によく遠征していろんな廃墟や大地を見て回ったものだな」
家の中に置いてあるものを見ながら、思い出を振り返って言っていた。
「ファーラとエルミアは、うちとレデュガーが助けたんだ。あの二人はどちらも家を戦争で追われていたみたいでな。詳しいことはうちの口からは言えんが、相当大変だったらしい」
一周して、リアは椅子に座った。
「あの二人はよくやってるよ。うちが教えたようなもんだが、しっかりと戦ってくれている。ファーラには剣を、エルミアには銃を使わせている。いい連携プレーをしてくれるんだ」
「そうなんですね…」
「この辺りにはアンオーダーがうろうろしている。全部危険なロボットだ。時にはそのロボットにやられて負傷者や死者も出ている。生き残れるのは力を持つものだけなんだ」
「…」
リアは今一度、俺と目を合わせた。
「だから、うちは君に生き残るための力を教える。別に戦わなくてもいい。この街で好きなように生きてもいいし、まだ見ぬ土地へと思いを馳せてもいい。だからどうか」
彼女は俺の手を掴んで言った。
「死なないでくれ。生きて、生き残ろう」
「…はい」
これはきっと、リアからの俺に対するお願いなんだ。生きること、それが最も重要なんだ。ファーラとエルミアにも同様に言っているはずだ。
ここにいる人たちは皆懸命に生きようとしている。あらゆる脅威から身を守り、生きる術を身に着けている。時に未知数のロボットに殺されることもある。でも屈してはいけない。人間は常に、ロボットよりも優れているはずなんだ。
「…よし、そろそろ夜ご飯にしよう。フィル、手伝ってくれるか」
「はい!」
俺は元気よく椅子から立ち上がり、リアと共にキッチンへと向かった。
明日から俺は、この自然と朽ちた都市が融合したリバルバで生きていくことになる。俺にとっての生き方とは、何だろうか。
頑張って書き続けます!たとえ誰の目に止まらなくても!