一話 裏切りの手
このようなストーリーがあったら美しいかな、と思って書き始めたお話です。
暖かい目で見守っていただくと嬉しいです
冷たい雨が降っていた。気温も低く、体温も下がっていた。水たまりの水面には、この大都会のギラギラした夜の光が映っていた。その鏡を俺は踏みしめるように歩かされていた。最新テクノロジーが集結する場所、ユートリス。
「さっさと歩けッ!」
警備兵にドガッと背中を固いライフルのストックで叩かれ、歩みを強制させられていた。これは俺だけでなく、ここにいる数百の人々が強制させられていた。皆、首には特殊な合金のメカメカしい首輪がさせられ、腕にも最新テクノロジーの手錠がつけられていた。服はボロボロ、裸足だ。
「なんでこんな…」
「い、いやぁ…」
「どうしてこんなッ…ぐふッ」
泣いている人、抵抗しようとする人、殴られる人。
俺含めその列は刑務所へ連行されていたのだ。俺たちを覆う傘などはなく、皆寒い雨の中、体を震わせながら連行されていく。顔の頬に雨の雫が伝うのを感じる。
「アウトサイダーはこれで全員か?」
「知らねえよ。そっちで確認しろ」
アウトサイダーは俺たちを指す言葉だ。今ここで連行されている全員がアウトサイダーだ。主に政府や社会に対し反社会的思考や行動をする人たちの総称だ。
警備兵二人の片方は電子パッドを持ちながら俺らを見ている。ため息の多さから、この仕事にうんざりしている様子がうかがえる。彼らも雨に打ちひしがれてはいるが、メカメカしいヘルメットと撥水性のいい装備で何とも感じていないのだろう。
「さっさと連れてくぞ。早く帰って酒が飲みたいんだ」
警備兵たちの会話に俺は歯をくいしばる。拳を握り、血が滲み出そうなほどだ。
冷たい地面を裸足で歩く。雨で滲む視界に見えるのは大きなトラックだ。前面黒で装甲には銃弾を通さぬような頑丈な素材が使われているのだろう。そのような車がここには何台も駐車されている。
そのトラックに次々とアウトサイダーと呼ばれる俺たちは乗せられていく。乗せていく傍ら、一人の警備兵が一回一回顔とリストを見て何かを確認しているようだ。
そして遂に俺がトラックの専用入口の前へと来ると、突然俺の右腕の上腕二頭筋辺りをリストを確認していた警備兵が乱暴に掴んだ。
「痛っ…」
俺は小さく、なるべく聞こえない声で唸った。なぜ掴んだかはわからないが、どうせ殴ったりするためだろうと俺は歯をくいしばった。
「どうした、E-32」
E-32、俺の腕を掴んでいる警備兵の名だろうか。いや、番号という方が正しいか。別の警備兵がそんなE-32の不審な行動に疑問を抱いたように訪ねていると、E-32は答えた。
「こいつの顔がリストに載っている顔と違くてな。一旦こいつはスキップする」
「そんなことがあるのか?もう一回調べろ」
不審な行動、そして不審な発言にもう一人の警備兵は銃を揺らしながらそう言った。俺はぶるぶる体を震わせ、いったい何が行われるのか、それを予想しては恐れるしかない。
「やっぱり違うな」
「…たく、一回見せてみろ」
銃をフックに引っ掛けると、警備兵はリストを手に取り、俺の顔と見比べ始める。リストの顔と俺の顔を2,3度見直しては、ため息をついた。
「本当だな、こんなこといままでなかったが。…そいつは一旦列から除けておけ。俺が本部に確認を取ってみる」
「了解だ」
パッドをE-32という警備兵に返すと、俺を握る手が一層強くなり俺を強引に列から引っ張り出されてしまった。
その数秒後、列はまた動き出しどんどん中へと人々が乗せられていく。先ほど確認を取るといった警備兵は右手を右耳辺りに手を当てぶつぶつと言っているようだ。
俺は歯をくいしばるのを止め、そのままE-32に引っ張られていく。かなり列から離れたようにも思えるが、未だに俺を引っ張っている。
ここまで俺を引っ張る必要があるだろうか。一旦列を抜けるためならちょっと引っ張れば良かったはず。なのに俺はどんどん先ほどまでいた場所を離れ、遂には建物と建物の間へと、誰にも見えないであろう隙間へと引っ張られていた。
上を見ればかなりの高層ビル群の間で、雨もあまり落ちてこない。地面は汚く、虫も居た。
そして俺を引っ張っていたE-32は遂に歩みを止めた。
「…ここまで来れば大丈夫だろ」
雨音が響く中、俺は震える。何がしたいのか、俺をここで不都合が故に殺すのか。
「安心しろ」
俺の腕を離し、その手でE-32は自身の首元の機械に二本指で干渉し、小さくピッと音が鳴った。
「助けに来たんだ」
声が変わった。いや、戻ったのだ。先ほどまでの大人の男性の声じゃなく、女性の大人びた声だ。この人は変声機を使っていたのか。
「さ、逃げるぞ。フィル」
ヘルメットを外すと、そこには後ろを刈り上げ、前髪も短く降ろしている銀髪の美しい女性がこちらに手を刺し伸ばしていた。
情景が浮かぶような書き方できたかな