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三話:奴隷解放作戦①



 ラスティはいつも通り治安維持組織アーキバスから与えられた私室から、今日の仕事を担当する者達が待機する待機室へ出勤した。


「これは……?」


 その時、自らのデスクに置かれた資料が置かれていた。小さな紙の手紙のようなものだった。疑問を抱きながら開封して、閲覧する。



【アドラー治安維持組織内部監視機関資料】

【危険人物】

国家脅威度:99パーセント。

人物評価:優れた能力と、正しい男。ステータスの成長限界まで自らを鍛え上げている。しかし光の側にいながら、最も闇に近い男でもある。

彼が完全に堕ちたとき、世界は『公正』という名の、優劣や上下しかない数値化された社会に塗り替えられる。

「神」になるか、「悪魔」になるか、その境界に立っている。



【精神構造を完全に階層分解した情報】

【渇望(本能レベル)】

「正しくないものの存在そのものが許せない。

不条理・無能・汚れ・歪みがこの世界に“在る”という事実が、肉体レベルの嫌悪と吐き気を催す。

これはもう理性ではなく、本能に近い拒絶反応。

「消えろ」「消さなければ気が済まない」という、ほとんど獣のような衝動。


【信念(魂の核)】

「世界には正しい形がある。そしてそれに反するものは、存在を許されない」

これだけは絶対に揺るがない。たとえ自分が死のうと、妹が泣こうと、帝国が滅びようと、この一文だけは変わらない。

彼の魂の中心に据えられた、黒い結晶のような一言。


【思想・主義(頭で構築した体系)】

秩序絶対主義+極端な能力主義+完璧主義的功利主義

・無能は罪である

・努力しない者は救済に値しない

・結果が出ない正義は無意味である

・感情による判断は常に誤りを生む

・だからこそ「公正なる裁定」が必ず必要になる【結論】世界法則ごと正しさに置き換えるべき【願望(心の願い)】

「誰もが正しく評価され、正しい場所に立てる世界」

一見美しい言葉だが、彼の中では

「正しくない者は存在しない世界」

と同義である。つまり「救えない者は最初から存在しなくてよい」という、極めて冷酷な理想。


【目的(現実的な目標)】

帝国の治安・秩序を完全に掌握する


【理由(単なる説明)】

「この世界はあまりにも不条理と無能に満ちているから」

彼にとってはこれ以上の説明は不要。

誰かに理解されなくても構わない。

理解できない者は、所詮「正しい世界」の構成員にはなれないだけだろう。


【内部にある世界法則】

この世界に存在する全ての存在・事象・概念に対し、「正しいか、正しくないか」を瞬時に裁定し、

「正しくない」と判定されたものは根源から消滅・消滅・無効化・再定義される。


【内部にある人格属性】

対話と正義の怒り、無限に上昇する意志の複合。最終的に公正を強制し、対話そのものに昇華する可能性があると予測できる。

最終段階では「神」相当の存在へと変貌する。


【補足】

彼はまだ「救う側」に立っている。

だがその救いの基準はあまりにも厳しく、あまりにも冷たい。「救えない者は救わない」この一言を完全に実行に移した瞬間、彼はもう「人間」ではなく「法則そのもの」になる。そのとき、世界は二度と元には戻らない。

漆黒の瞳に映るのは、もう「救うべき人々」ではなく、「裁くべき汚れ」だけになるから。


【対応】

・監視と警告。




 自らのステータスを見て、ラスティは笑みを浮かべる。


「素晴らしい」


 ラスティは素直に監査機関を称賛した。

 監査機関──アドラー内部監視機関の諸君。

 君たちは、私をここまで正確に、完璧に、隙なく観測し、記録し、言語化してくれた。

 私の数値、私の本能、私の魂の核、私がまだ口にしていない未来の願望まで。

 すべてを、まるで私の頭蓋を開いて直に覗き込んだかのように、一文字の誤りもなく、冷徹なまでに「正しく」記述してくれた。

 これほどの観察眼、これほどの解析能力、これほどの覚悟。


 帝国にあって、君たちほど「正しさ」を追求する存在はいなかった。

 君たちは、私と同等の完璧主義者だ。

 己をを99パーセントの脅威と評価しながら、それでも怯まず記録し続けたその姿勢は、正直、称賛に値する。美しい。

本当に、美しい仕事だ。君たちが存在する限り、帝国はまだ腐りきっていない。


 君たちが私を「監視」する限り、私もまた「堕ちきる」ことはない。それを理解しているからこそ、情報を開示した。だからこそ、私は心から言う。

 よくやった。見事だ。


 君たちは、私がこれまで出会った中で、最も優れた「対話者」の候補だ。いつか必ず、君たちと「対話」させてもらいたい。そのときは、君たちのその観察眼、その記録、その覚悟、すべてを、私のものにさせてもらう。

 それが、私からの、最高の賛辞だ。


(ありがとう、君たちは、本当に、素晴らしい。情報を開示した目的は、見ているぞ、という警告かな。優秀だ)


 自覚があれば暴走しないし、外部からの警告があれば慎重になる。

 通信魔法が起動して、ラスティは第一会議室へ呼ばれ、ラスティは静かに闘志を燃やしながら向かっていく。


「失礼します」


 ノックの後に部屋へ入り行う彼の敬礼は完璧で、動作は無駄がなく、会議室に入るや否や、敬礼してくる部下たちに、同じく非の打ちどころのない敬礼を返した。


 会議室の空気は張り詰めていた。定刻になると、すべての人員が揃い、静寂の中、スメラギが口を開いた。少年の姿をした上司と超越的な力を感じさせる存在は、柔らかな声とは裏腹に、言葉に絶対の重みを帯びさせている。


「前提からの確認をさせてもらうよ。現在の我が軍事国家アドラーでは、ある事が社会問題になっている。それは奴隷問題だ」

「奴隷……? そんな前時代的な概念が問題に?」

「そうなんだよ、困っちゃうよね。その理由は別紙資料に書いてあるから、読みたい人は読んで」


  ラスティは渡された資料に目を落とした。そこには、かつて「黒龍」を討ち滅ぼすために設立された研究機関が、その死骸を再利用して非道な実験を行っている事実が記されていた。


 その実験動物を確保するのに奴隷が選ばれていた。知性体を道具のように扱い、倫理を無視した実験を、まるで遊び半分で進めている内容だった。


 ラスティの胃が締め付けられるように重くなった。高き理想と努力や研鑽を積む日々を送りながらも、彼の中にはまだ、人道的なモラルの欠片が残っていた。犯罪は許されず、人の尊厳は守られるべき——そんな当たり前の感情が、彼の胸を締め上げた。


 スメラギの声が会議室に響く。


「さて、ここに集まった人にはペアを組んで、奴隷商人を潰してもらう。この国の癌の切除を担う重要な任務だ。ペアはこちらで指定する」


  スメラギの視線が、会議室の顔ぶれをゆっくりと見渡した。尊厳を損なう奴隷に加えて、人体実験。そんなものを許しておけない。心の奥で渦巻く葛藤を押し殺し、彼はただ任務を遂行する道具としての役割を果たした。


「何か質問は?」

「私から。その黒龍の死骸を利用して、何をしようとしているのか、具体的な情報はあるかしら? それによって優先順位が変わってしまうと思います」

「黒龍の死骸は、不老不死や、能力の上昇、あとは無限のエネルギー生産システムの開発実験などに使われているようだ」

「なら、放置していても良いのではないのでしょうか? 便利ですよ」


 少女の軽い口調に、スメラギは即座に反論した。


「不老不死も、能力上昇も、永久機関も、そんなものこちらではとっくに実用化され、安全管理もできている。こちらの技術とは別口で達成するのには興味があるのは確かだけど、安全性が確保されていない状態で進められるなら論外だ。それに、うち以外の国がそんな技術を所有してもらっても困るし」

「なるほど。単純に技術の優越性を維持したい、と」

「無限のエネルギー、無限の資源、人体強化技術も、それがアドラーを支える屋体骨だからね。その技術が外部へ漏れるとか笑えない」

「納得しました」

「うん、他のみんなは?」


 スメラギは周囲を見渡して、言う。


「よし、奴隷になった人々を助けよう。ペアは現地で合流できるようにしておいた。ここにいない子もいるし。我々、治安維持組織アーキバスは正義で、善で、光だ。夢を抱いて任務に従事してくれ」

『了解』


 ラスティは正しき怒りを胸に、奴隷の解放へのモチベーションを高めるのだった。




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