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今までのこと①



カフェで私が紅茶、ルイスがコーヒーを飲み、一息つく。

季節はすっかり冬なので、紅茶の温かさが体にしみわたり、ほっとする。


付き合っていた頃はこの穏やかな時間がとても心地よかったが、今はとにかく話をしなければ。

思い切って口を開く。

「あのね、よりを戻したいわけではないの。私が前に進むために聞いておきたいことがあって」

「うん」

ルイスがこくんとうなずく。


「えっと、理屈じゃないかもしれないんだけど。私のなにがだめだったのかな。好きな人のどこに惹かれたの?」

ためらいがちに尋ねる。

ルイスは答えに迷うように口を開いたり、閉じたりする。


コーヒーを一口飲むと、決心したように私を見る。

「その話をするにはちょっと長くなるけど、僕が話したかった話を先にしてもいい?」

思わぬ提案だったが、ルイスは無駄なことはしない。

「わかった。話しを聞かせて」


「ありがとう。どこから話そうかな…」

考えるように、少し視線を上にやる。

「今更なんだって思うかもしれないけど、フローラはさ、僕を好きになってくれたきっかけって覚えている?」


たしかに今更ではある。しかし前にカミラと話した時に頭をよぎっていたことだったので、すんなり答える。

「それがはっきり覚えていないんだよね。ルイスは賢くてすごいなって思っていたし、なんとなく惹かれたんじゃないかな」

恋に明確なきっかけや理由があるほうが少ないのではないだろうか。


「そっか。僕にも明確なことはわからないけど、でもフローラが好きって言いだしてくれた時期ははっきり覚えているよ」

ルイスが少し複雑そうな表情で言う。

「2年生で同じクラスになって、夏?ぐらいだったよね」


「そう。2年生の時、君はアランと学級委員だったでしょ」

言われてみればそうだ。こくりとうなずく。アランとも2年生で初めて同じクラスになった。

「君とアランはみんなの人気者で、でも気取らなくて。それまで教室の隅にいた僕にもよく話しかけてくれた」


「それはおせっかいとかではなくて、単純にルイスがどんな本を読んでいるのか気になったから…」

「うん。でもそれが本当にうれしかった。他のみんなは僕のことを頭はいいけど、とっつきにくいやつって思っている節があったから。君やアランが気安く声をかけてくれたおかげで打ち解けられたんだよ」

今まで考えたこともなかったことなので驚く。


「だからね、僕は君とアランのことが本当に好きだったし、もちろんフローラのことは恋愛的にも気になる子だった」

そこでルイスがコーヒーを飲んだので、私も紅茶を一口飲む。

「でも君とアランはどこからどう見てもお似合いだったし、僕自身も君と付き合いたいなんて大それたことは思っていなかったんだ」

「え、そうなの」

それこそそんな風に思われていたとは知らず、ぽかんと口を開ける。


「うん。だけどさ、あのころクラスの女子の大半はアランが好きだったでしょ。フローラに相談していた子もいたし、中にはフローラを敵対視している子もいた」

そうだったかもしれない。実際何人かの顔が頭に思い浮かぶ。


「アランもさ、それがわかっていたから君が特別って、周りに思われちゃいけないって君に強く当たりはじめたんだと思うよ。君が攻撃されたりしないようにね。実際初めの頃は普通だったでしょ」

「アランが?」

なんせ2年前のことなので、すべてが曖昧である。しかしたしかに急に冷たい目で見られるようになって、何かしたかなと不安になった覚えはある。


「でも、それでも君とアランがくっつくことが心配だったんだろうね。アランを好きな一人が意地悪のつもりで言ったんだよ。教室の真ん中で。いつも通りフローラが僕に本の話をしてくれていた時に、そんなにくっついてルイスのことが好きなの?お似合いよって」

「あ…それはなんとなく覚えているかも」


「そう。その時悪ノリした男子が、っていうかそいつらはフローラのことが好きで、もともと僕がフローラと仲良くしているのが気に食わなかったからさ。その発言に乗っかったんだよ。フローラに僕のことをこっぴどく振らせようとしてね」

ルイスが眉を下げて、少し諦めたように笑う。

「そんなひどいこと…」


「でもそうはならなかった。フローラが言ってくれたんだよ。私がルイスを好きで話しかけているの。ルイスを巻き込まないでって」

フローラかっこよかったな、とルイスが思いだしたのか、くすくす笑う。

「言ったような気がしなくもないわ…」

過去の自分の発言が恥ずかしくなり、頭を抱える。


「うん、僕は大切な思い出としてしっかり覚えている。でもね、フローラはきっと恋愛的な意味じゃなくて、友達として言ってくれたんだ。だけど、クラス中がそういう意味でとっちゃって、もう後には引けなくなった」

ルイスが一息つく。


「それからだよ。たぶん勘違いとして処理されて、僕が恥をかかないように、フローラが僕のことを好きだといいだしたのは」

少し悲しそうなルイスの目を見て、何か言おうとするけど、何も言えず口を閉じる。


気付いたら外は雪が降りだしていた。



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