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偶然の再会


お休みのある日。私は本屋に来ていた。就職してから3ヶ月ほどしてから一人暮らしを始めた。そのため家で一人でいる時間が多い。


するとここ最近気づいたらアランのことばかり考えてしまう自分がいて、慌てて没頭できるものを求めて本屋に来たのだ。


アランのアプローチが始まって2ヶ月ほど。アプローチは今も毎日続いているし、オペラ以降もデートをして、さすがにからかうにしては時間とお金をかけているので、本当にアランは私に好意を寄せてくれているように思う。


「けど好きとは言われないんだよね…」

ぽそりとつぶやく。

好きや、付き合ってとは言われないので、なんとなく友人の延長と言うべきなのか、曖昧な関係が続いている。


そしてなにより、それに対して私がどう思っているのかが重要なのだ。

カミラにもアランのことを好きになったのかと問われるが、はっきりと答えられない。


もちろん人間的に、同僚として、と言われれば迷いなくうなずく。

そもそもルイスと付き合っていた時からそこの評価は変わらない。


アランは人として周りへの気遣いが素晴らしいし、頼りになる。

生徒や先生同士からの信頼も厚い。

私も幾度となくフォローしてもらっていた。

今より言い方や態度は冷たかったが。


それに最近はいろいろな表情を見せてくれるようになり、前より好ましく感じているのは間違いない。


しかし恋愛的に好きかと言われるとためらう気持ちがある。

それはアランがどうこうというより、自分の中の理性というべきか、傷つかないためのブレーキが問題だ。


ルイスと別れてからの心変わりがはやくないか?とか、なんとなく好意を寄せられている身近な男性が一人だけだからでは?とか。

なにより、また人を好きになって、捨てられるのが怖い…


「はぁ」

軽くため息をつく。

こんな状態ではアランにも失礼なので、いい加減気持ちをはっきりさせねばとは思っている。


私の何がいけなかったのか、ルイスの好きな人というのは一体どんな人でどんなところに惹かれたのか。そのあたりをはっきりさせずに終わらせてしまったから、引っかかっているのだろうか。


本を見に来たのに結局考え事をしてしまっている。

切り替えよう。そう思って本棚に視線を戻した時、ちょうど店内に人が入ってきた。


「フローラ…」

そこには目をまんまるに開いた、ぼさぼさ頭のルイスが立っていた。


「ルイス、久しぶりだね」

別れて以来なので気まずい。ぎこちない笑みを浮かべる。


まさか偶然会うとは。家はそう遠くないので会っても不思議ではないが、付き合っていた頃は会おうとしなければ会えなかったのに、今更こんな偶然。


しかしちょうど気にかかっていたことを確認するチャンスかもしれない。

私が完全に前に進むためには必要なことのような気がする。


意を決して声をかける。

「ルイス、少し時間ない?聞きたいことがあるの」

私の言葉に驚いた表情を浮かべたが、こくんとうなずく。


「僕も話しておきたいことがあったんだ。あの日の僕は一方的だったから…」

困ったように少しうつむき加減で言う。

あぁ、この気弱な感じも弟のようでかわいいと思っていた。


しかし話しておきたいこととはなんだろう。

あの日というのは間違いなく、別れを告げられた日のことだが。


思い返すあの日のルイスを。

「別れたい」

仕事がお互い忙しくて2週間ぶりに会った日だった。

顔を合わすなり苦しげに伝えられた。


「え、なんで」

動揺する私に

「好きな子ができた。…ごめん」

とうつむきながら言った。


突然のことに私は放心してしまって、ああ、とかうん、とか言って別れた気がする。

そうだ、あの日話せなかった話をしよう。

今ならきっと落ち着いて、ルイスの話も聞けるから。



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