おうちデート②
「学校の卒業アルバムでも一緒に見る?」
家ですることが思い浮かばず提案してみる。
「俺一回も開いていないかも」
「えっ?!一回も?」
驚いてアランの顔を見る。卒業してから私も一回しか見ていないが、もらってから広げたことがない人がいるとは。
それならなおのこと見なければ。
本棚から分厚いアルバムを取り出す。
「アランいっぱい写ってたよ」
学年で一番魔法が強かったうえに、見目麗しいからか、写真を選ぶ人がファンだったのか。至る所にアランの姿があった覚えがある。
冗談だと思ったのか、アランが笑う。
「なんだそれ。こういうのはだいたいみんな平等だろ」
「じゃあ見てみてよ」
赤い表紙をめくり、数ページめくる。
そこには10枚ぐらい行事の写真が載っているが、大小の問題はあれど、そのすべてにアランが写っている。
アルバムを横から覗き込んだアランが目を見開く。
「うわ、まじか。でもフローラも結構写ってるな」
「まぁ…」
アランほどではないが、自分の姿をいくつか確認する。
ページをさらにめくっていく。
「懐かしいね。アランとは2.3年が同じクラスだったね」
「そうだな」
アランも少し目を細め、懐かしんでいるようだ。
「このアランかっこいいね。実践魔法の授業か」
杖を前に構えているアランの姿を見つけた。
「あぁ、これはよく覚えている」
優しいアランの声が聞こえ、隣を見るとこちらをじっと見ているアランとばっちり目が合った。
なんだかその熱い視線に照れ臭くなって目を逸らす。
「えっと、ほかは」
バサバサとページをめくると、ハラリと何かが出てきた。
「何これ」
出てきたものをアランが拾う。
「なんだろ、なんか挟んだっけ」
受け取ろうとしたら、アランがそれを見つめる。
「それ…」
そう言われて、よく見ると当たり前だが見覚えがあった。
「あ…」
それは卒業式の日にルイスと二人で撮った写真だった。
現像した後そこに挟んで、すっかり忘れていた。
「これは…」
言い訳する必要もないはずだが、焦って口を開こうとする。
そうしたら至近距離にアランの顔があった。
驚く間も無く、唇を奪われる。
チュッと音を立て、角度を変えて、何度かキスされる。
「ルイスのこと、まだ忘れられない?」
ぼそっとアランがつぶやく。
「いや、そんなんじゃ…うわっ」
説明しようとすると、体をふわりと抱き上げられて驚く。
机の後ろにあったベッドの上にそっと横たえられる。
「え、なに?」
「この部屋でもルイスと抱き合ったのか?」
私の上にアランが覆いかぶさる。整った顔がつらそうに歪んでいる。
私が答える間も無く、再びアランのキスが降ってきた。
そっと頬を包み込まれ、何度も何度も口づけられる。
体全体がほてってくる。心臓がドキンドキンと痛いぐらい波打つ。音が聞こえるのではないだろうか。
「ア、ラン」
キスの合間に呼びかけたが、反対に口を開いたことで舌を吸われ、さらにキスが深くなる。
熱い吐息がもれる。じっとしていられなくて、求めるようにアランの頬を自分も手で包んでしまう。
それを合図にアランの右手が私の体に伸びる。
服の上から横腹や胸をそっと撫でられ、思わず身じろぎする。
「んっ…」
気持ちのいいキスに頭がぼんやりしてきた。
アランが私の着ているニットをめくり、少し温度の低い手が直に肌に触れる。
え、待って、もしかしてこのまましちゃう?!
「ア、ラン、待って」
急激に覚醒した意識のもと、呼びかける。
もう下着のホックが外されている。
「なに」
ほとんど口がくっついたままの状態で聞かれる。
「あの」
パクパクと口を動かす。大事なことを伝えなければ。
「もう待てない」
「ぴゃっ」
めくられたニットの下のおなかに、直接キスをされ、声が出る。
「待って、ほんとに!あの」
ごくりと唾を飲み込む。
ええい、恥ずかしいけどちゃんと言わなければ。
必死の呼びかけでアランの動きが止まる。
「私初めてなの!!」
顔を真っ赤にして伝える。
「その、だから、嫌とかじゃなくて、心構えが!」
息も絶え絶えで伝える。
アランの顔をそっと見上げると、ゆっくり瞬きをして、私の上にぽすんと覆いかぶさった。
「ア、アラン?」
呼びかけると、小さくため息が聞こえる。
た、ため息?!びっくりしていると
「ごめん。暴走した」
と声が聞こえてきた。
ガバッとアランが起き上がると、そっと私を起き上がらせ、服を直す。
「ほんとにごめん。初めてじゃなかったらいいってことじゃないけど、こんな流れでするもんじゃないよな」
アランが気まずそうに謝る。
「ううん。あの、私もごめん」
なにがごめんか自分でもわからないが謝る。
「フローラが謝る必要ないだろ」
アランが少し笑って、ほっとする。
「雨もやんだだろうし、頭冷やすために今日は帰るわ」
アランが頭をかき乱し、立ち上がる。
「あ、うん。気をつけて」
「ああ、ありがとな」
玄関までアランを見送る。
「またね、次は学校かな」
明後日から学校が始まる。
「ああ、またな」
アランが最後に一度、私を抱きしめてから外に出る。
その姿を見届けてから、へなへなと床に座り込む。
自分の頬に手を触れる。
まだ熱を持ったその頬は確実に赤い。
「もうだめ…」
ベッドの上で私を見下ろしたアランの熱のこもった熱い視線を思い出し、ひとり床で悶えた。




