おうちデート①
年が明けて、学校の冬休み期間にアランと食事に出かけた。
「美味しかったね。家の近くなのに行ったことなくてさ」
「ならよかった。また来よう」
アランと微笑み合い、店を出る。
「あ、雨」
窓際の席じゃなかったので気づかなかった。
外に出るとしとしとと雨が降っている。
「傘持ってねぇや。どっかの店で雨宿りするか」
私も傘を持っていない。しかしこのあたりはお店が少ないのだ。
どこかお店に行くには箒をそこそこ飛ばさなければならない。
「あ、私の家来る?ここからほんとに近いよ」
こないだ大掃除をしたばかりなので、部屋も綺麗だ。
アランを見上げると、アランが眉を寄せる。
「あんま簡単に男を家にあげんなよ。っていうか、俺以外に絶対言わないで」
名案だと思ったのだが、久しぶりにアランに睨まれた。
本当に深く考えていなかったので、家=そういうことの可能性に至って顔が真っ赤になる。
とんでもないビッチだと思われたかも…
「ご、ごめん。でもアラン以外にお家に誘うような親しい男の人もいないし、絶対言わないよ」
一応ビッチと思われたくないので、そこはしっかり否定する。
「はぁ。行く、せっかくのお誘いだし。フローラの家行ってみたいし」
アランは軽くため息をつくと、宣言した。
「あ、うん。じゃあついてきて」
反対に私の方が意識し出してしまった。
少し緊張しながら箒にまたがる。
「2分くらいで着くから」
「わかった」
アランも箒を出し、出発した。
二人で家の中に入る。
「お邪魔します。ほんとにすぐだな」
アランが濡れた髪をかきあげながら言う。
な、なんか色気がすごい。これが水も滴るってやつ?
直視すると再び意識してしまって、慌てて視線を外す。
「タオルとドライヤー取ってくる。部屋で待ってて」
アランに声をかけ、とりあえず洗面台に入り息を整える。
「家に呼ぶのは大胆すぎたかも…」
鏡を見ると少し顔の赤い自分がいて、恥ずかしい。
鏡の自分から目を背け、タオルとドライヤーを引っ掴み、部屋に向かう。
部屋に入ると、本棚の上に飾ってある写真を眺めるアランがいた。
「髪はお母さん似なんだな、ふわふわの金髪。アイスブルーの目はお父さんか」
「そうそう、弟は反対で目はお母さんの翡翠色。アランと同じだね」
飾っている家族写真を一緒に覗き込み、その後アランの目を見つめる。
じっと見過ぎたのか、アランが目をそらす。
「ドライヤー貸して」
「あ、そうだね。風邪ひく」
ドライヤーを渡すと、当たり前のように私の髪に風を当て始めた。
「え?アランが先に使ってよ。私ひまかかるし」
「いやだ。立ったままだとやりにくいな、座って」
アランに肩を上から押され、座らされる。
「待って待って。せめてタオルで拭いて」
私の後ろにしゃがんだアランの頭にタオルをのせる。
そして濡れたままの髪をタオルでわしゃわしゃする。
「別にほっといても短いし乾くけど」
タオルの下から、膝立している私を上目遣いで見てくる。
うっ、かわいいかも。ときめいてしまい、誤魔化すために拭くことに集中する。
「ありがと。もうほんとに大丈夫」
そう言ってアランがドライヤーのスイッチを入れ、私の体を自分と反対に向かせる。
「私、自分でやるよ」
「いいから。やらせて」
ぐしゃぐしゃする気だろうか。ちょっと不安ながらも任せる。
すると予想に反して、優しく丁寧な手つきでアランが髪に触れる。
そっと撫でるように乾かしてくれる。
じっとしていると心地よいような、こそばゆいような感覚があって小さく身じろぎする。
どっ、どれくらいかかるんだろ。
ドライヤーの音だけが部屋に響く。
じわじわと頭皮から首元の髪に手が下がり、たまに首や耳に微かに当たる。
その度にぴくりと反応してしまう。
「ん、こんなもんかな」
しばらくして、アランがつぶやきドライヤーが止まる。
「あ、ありがとう」
最後の方は謎の緊張でぐったりしていた。
アランが耳元に顔を近づける。
「耳赤くなって、かわいい」
ばっと耳を押さえ、振り返るとアランがにやりと笑った。
「飲み物取ってくる!」
勢いよく立ち上がり、キッチンに逃げる。
今日心臓持つかな…
この後もっと大変なことになるとは、この時の私は想像もせず、息を吐いた。




