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7.綺麗な商品・汚いやり方

  7.綺麗な商品・汚いやり方


「あの後は大変でしたわ。お互いに責任を押し付け合って大喧嘩。

 それはもう、仲間割れしたディンゴのごとく

 噛みつきあってバウバウ吠えて。

 およそ建設的な話し合いにはならず、

 そのまま逃げるように皆さんお帰りになられましたわ」

 リベリアがやれやれという面持ちで、お茶を飲みながら話す。


 ソフィーの家から帰ると、私が長期宿泊している宿にリベリアが戻っていた。

 彼女は私の仲間だ。皇国の神官であり、治療師としての資格もあるため

 製造所に産業医として潜入していたのだ。


「”オパール(地面に落ちた虹)”を扱う製造所とは思えない醜さでしたわ」

 この製造所で採掘されているのはオパールの原石だ。

 それも”プレイ・オブ・カラー”とよばれる遊色効果が美しい

 ”プレシャスオパール”と呼ばれる美しい品種を採掘している。

 オパールは”すべての宝石の色を持つ石”と呼ばれ

 古来より賛美されてきた希少な宝石だ。


「まあ、ほんとの虹かどうか調べてもらいましょう」

 私は彼女に、今日の戦利品を見せる。

 例の、オパールの指輪2個。

 やっと手に入れた、ここの純正品だ。


 今まで皇国が品を検品させてくれというと

 出してくるのは他国で購入した可能性が高いオパール群ばかりだった。

 次に売った相手を教えてくれと言っても、顧客の情報は流せないと拒否。

 これはまあ当然といえばそうだが、

 大量に売れているはずの商品を持ち帰って検分することが

 どうしてもできないでいたのだ。


 もうひとつ手は打ってあったが、

 予想外の展開で、現物を手に入れることが出来たのだ。

 ソフィーの怒りや悲しみを思うと、本当に腹立だしいけどね。


 私はカイルにそのうち1個を手渡す。

 彼はうなずいて無言で受け取り、道具の置いてある自室へ戻っていく。

 彼は基本的に無口で無表情だ。

 さっきの騒動で始めて彼を見た人は、

 なんて饒舌なヤツだと驚いたと思ったろう。

 しかしあの騒動の最中、私とリベリアは時折目を合わせて

「この人、こんなに喋れたんだ!」

 と衝撃を受けていたのだ。


 彼が調べている間、私たちはあの製造所の

 情報や疑問点、わかったことについて報告し合う。


 ************


 あの製造所で労働するのは主に三種類の人。

 採掘士と石工と加工職人だ。


 採掘所は東、西の2か所にあり、働く人も2チームに分かれている。

 採掘士はひたすらに掘り出す。

 といっても岩石を切り出すのみだ。

 大きめに切り出された岩を、東、西の運搬役が馬車で北の検分所へ運ぶ。


「普通は採掘の段階で見つかるのではなくて?」

 リベリアが首をかしげる。その通りなのだが、ここは違うのだ。

「岩石を割って、中身の確認するのは絶対に貴族の仕事なんだって」

 北の製造所には石工とローガンたち貴族が待機しており、

 石を丁寧に調べてオパールがあるかどうか調べる。

 もしオパールが見つかったら、それを運搬人が今度は南の製造所へ運ぶ。

 ここには石工と加工職人がいて、製品に仕上げる。


「……それにしてもヒドイ職場だったね」

 まず、ものすごい売り上げだというわりに給料がとても低い。

 それなのに休日は少なく、毎日長時間労働だ。

 もちろん残業代など出なかった。

 このへんはカイルが国王様の指令で介入したことにより

 かなり是正され始めたんだけどね。


 真の問題は、もっと根本的なものだ。

 ローガンたちはこんなに売れる前から、

 とにかくお酒が好きで、宴会ばかり開いていたそうだ。

 朝まで飲んでから出勤することすらあったと。


 今でも毎朝、精神論ばかりの無駄な演説をかましたり

 労働者に言いがかりのようなダメ出しを付けてくることが多かった。


 管理職として勤務しているはずの他の貴族も横暴で

 パワハラやセクハラは日常茶飯事だ。

 私も来た時に最初に言われたことは

「女かよ。もっと金になる仕事があるんじゃないの?」

 だった。こんなこという奴、前時代に滅んだのかと思った。


 だから調査にも全然協力してくれないし、それどころか

 皇国への書類に落書きをして返してきた。

 もちろん、そのまま提出してやったけど。

 実はあの時点ですでに、支援の話はなくなっていたんだよね。


 彼らはとにかく楽をしようと、全ての仕事を一般労働者に押し付けていた。

 そしてヒマなら働けばよいのに、そのヒマを持て余して

 次にすることと言えば労働者イジメ。

 盗みを働いたと濡れ衣をかけて泣くまで糾弾したり、

 わざと重い岩石を何時間もかけて運ばせた後、

「あ? そんなの使わないよ?」

 と言い放って、悄然とする姿を見て笑ったり。

 他に働く場所がなく、みんなが辞められないのをいいことに

 ローガンをはじめ貴族はやりたい放題やっていたのだ。


 リベリアも思い出して憤慨する。

「足を怪我した人が出た時でさえ、

 町までの馬車に乗せてはいただけなかったわね」

「ガラガラの馬車なのに、あいつら断ったもんね。

 のんびり歩いて帰れよー、なんて言って」


 結局その怪我人を運んだのは、私が呼び寄せたカラプスだ。

 カラプスは魔獣の一種で、どことなくサイやカバに似ている。

 性格は極めて温厚で”話せば解かる”タイプなのだ。

 最初にカラプスの姿を見たときは、必死で拒んでいた怪我人さんも、

 町の手前で降りる頃には、カラプスにほおずりしながらお礼を言っていた。

 もし町まで歩いたら何時間かかったかわからないし、

 骨折も悪化していただろうから。


「一番タチが悪かったのは、嘘の情報を流して

 仲間同士を仲違(なかたが)いさせたことだね」

 私がそういうと、リベリアもうなずく。


 東、西それぞれのチームに対し、

「あっちのチームはちゃんとオパールを見つけているぞ。

 お前らかなりバカにされてるんだからな」

「自分たちだけ充分だから、

 こっちのチームはクビにしろって言われたよ」

 などと繰り返すことで彼らが競い合い、

 憎しみ合うように仕向けていたのだ。


 こうすることで、彼らの不満や怒りの矛先が

 自分たちに向くのを避けようとしたのだろう。

 彼らが直接顔を合わせることが無いように

 出社時間を調整していたようだけど、

 私が来たことで、その作戦も狂いが生じたのだ。

「東と西を往復してたからね。誤解を解くのは簡単だったよ」

 まあそのせいもあって、解雇通告を受けてしまったんだろうけど。


「でもそれで、不思議なこともわかりましたわね」

 リベリアが含み笑いで言う。そうなのだ。


 どちらの採掘人も、オパールが含まれていそうな岩石を掘り出した覚えがなく、

 どちらの石工も見たことが無いと言うのだ。

 お互い、相手のチームはすごいなと思っていたんだと。

 ますます疑惑が深まったのだ。



 タイミングよくドアがノックされ、カイルが入ってくる。

 その手には指輪。相変わらず無表情で告げる。

「予想通り、ここのオパールは人工のものでした」

 私は肩をすくめ、リベリアは

「まあ! ブリアンナ様にピッタリの品でしたのね」

 などという。


 カイルはそれをスルーし説明する。

「オパールは砂岩と粘土岩が接する境界近くで生成することが多いです。

 この地のオパールはローガン氏いわく火山性とのことですが

 確かにこのオパールは、堆積性のオパールに比べると

 比較的厚みもあり、透明度が高いです。母岩もありませんし」

「母岩?」

「堆積性のオパールは、母岩と呼ばれる、

 ベースとなる岩石に付いていることが多いのです」


 こちらをちらりとも見ず、指輪を目の前に掲げながら説明を続ける。

「しかしこの品には柱状構造、さらにリザードスキンが見られます。

 これは人工的に作られたオパールによく見られる現象です」

 人工とわかれば、量産できるのも納得だ。

 大量に作って通常よりも安い値段にすれば、飛ぶように売れるだろう。


 しかし、いかに”奇跡の力”と言われたメイナでも、

 無から有を作り出すことは出来ない。

 メイナに出来るのは物体を動かす極の操作、陽と陰の転用、

 そして火や土などの五行の変化だ。

「いきなりオパールを合成できるような古代装置なのかなあ」


 私がそういうと、カイルは少し考えて答えた。

「オパールはシリカと水で出来ています。シリカとは石英の成分です。

 あの採掘場は石英が大量に取れるため、それを元に生成していると考えられます」

 なるほどね。石英の無色透明なのは水晶だけど、

 それをもっと価値の高いオパールにするのは、

 ”土の気””水の気”をそれぞれ変化させることで可能となるだろう。


 リベリアがつぶやく。

「問題は、古代装置がどこにあるのか、ですわね」

 私はうなずきながら、それ以上に気になっていることがあった。

「それに、どうやって手に入れたんだろう。

 彼らが手にしたのは、かなりここ数年のことだよね」


 古代装置は禁忌の存在だ。

 絶対に市場に出回ることはない。


 私はふと嫌な予感に囚われ、身震いするのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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