83話 猫カフェ!!
理恵が総務に必要書類を提出し、克己の家へ引っ越すことになった。
「つ、ついに……克己さんと一緒の生活を……」
翌日、理恵は克己が住む家の、扉の前に立っていた。昨夜は緊張のあまり、少ししか眠れなかった。
理恵は緊張しながらTVインターホンを押して誰かが出るのを待っていると、女性の声がする。
『あ、森田ちゃん……』
インターホンに出たのは里理であった。
「お、おはようございます……」
『今、そっちに誰か行かせるから待ってて……』
里理はそう言ってインターホンを切る。暫く待っていると、扉が開かれた。
「いらっしゃいませ……じゃなかった……ようこそ、奥様……お、お待ちしておりました……」
レミーはそう言って理恵を招き入れる。
「あ、あははは……な、慣れないよね……やっぱり……」
「そ、そんな事はありませんよ。ですが、不思議な気分はあります。うふふ……。これからよろしくお願いしますね」
レミーはそう言って、スーツケースを持って中へと入って行く。
玄関先には全員ではないが、克己の奴隷達が待っており、膝をついて挨拶をした。
「あ、あははは……な、何じゃこりゃ……」
「こいつら練習していたんだよ、理恵……が家に来たとき、どうやって招き入れるかを……」
奥から克己がやって来た。
「か、克己さん!!」
「やぁ……理恵……」
克己は苦笑いをして荷物を持つように命令し、空いている部屋に荷物を運ばせた。
「今日から暫くの間、ここが奥様のお部屋になります……」
リーズはそう言って空室へと案内する。
「あ、ありがとう……け、けど、克己さんと同じ部屋でも……」
理恵は言うが、すでにリーズの姿はそこにはなかった。
「奥様? 次は場所を案内いたしますよ? こっちです」
理恵は声がする方を見ると、すでにリーズは階段を下りており、理恵は慌ててリーズを追いかけていく。
リーズは次々に日本側の部屋やキッチン、お風呂場などを説明する。
「では、次は私達が住んでいる家についてご説明いたしますね」
リーズは嬉しそうに言うと、理恵は頷きリーズの後を付いて行く。
「ここは克己様がお休みになっている部屋です。ここから私達が住んでいる部屋へと移動します」
「だ、だから部屋が別々なのか……な?」
リーズは答えずにクローゼットを潜って行く。理恵も慌てて潜って行くと、見た事のある部屋へと到着する。
「ここが克己様のお部屋になります」
「移動する場所が克己さんの部屋になるんだ……」
理恵はそう言って周りを見渡しながらリーズの後を追いかける。
次々と部屋等を案内して、最後に異世界側の理恵が住む部屋を案内される。
「最後にここがこちら側での奥様がお使いになるお部屋になります。これからよろしくお願い致しますね!」
リーズが気合いを入れるかのように言うと、理恵は戸惑いながら返事した。
「だ、だけど、何で克己さんと同じ部屋……じゃないんですか?」
「へ?」
「だ、だって……ふ、夫婦……になったんですよ……?」
「さぁ? 引っ越したら同じ部屋になるのではないでしょうか? 私達は空いている部屋を使ってもらえと言われたものですから……もしかして、奥様専用部屋って言う事ではありませんか?」
もっともらしい答えを言われたので、理恵は納得し、お礼を言ってリーズと別れた。
「これが私専用のお部屋か……広い……お姫様にでもなった気分だ……」
理恵はそう呟いて部屋の中を見渡し、窓を開ける。外から気持ちのいい風が吹き込んでくるが、見たくない物を見てしまった。
「あ、あれって……ま、まさか……」
廊下の方から慌てて走る音が聞こえる。
『ノエル!! 急いで! 自衛隊の街が襲われる前に始末しに行くよ!!』
廊下からそのような声が聞こえる。理恵も慌てて扉を開き、基地へ向かおうとするが、アルスが引き留める。
「奥様、ここは私達にお任せください! 奥様は克己様に先日話をした続きをして下さい! 皆の取り返しがつかなくなる前に!!」
アルスはそう言って武器を持って出かけて行った。
「は、話って……これ以上言ったとしても……」
理恵は呟き俯いた。
街の人にとってドラゴンの襲来は当たり前になっており、その度に克己の……パルコの街の英雄達が助けてくれるとあって安心しているので目立った混乱は起きていなかった。
理恵は水でも飲もうと思いキッチンへと向かうと、ライラが食事を作っていた。
「あ! 奥様! 改めましてご挨拶をさせて頂きます! 私はメイドのライラと申します……。至らない事が多いかもしれませんが、精一杯頑張りますのでこれからよろしくお願い致します!」
「え、えぇ、よ、宜しく……お願いします……」
「……奥様、お酒の飲み過ぎには注意して下さいね」
「え? そ、そうですね……き、気を付けます……」
「本日はどういたしましたか? このような場所に……」
「え? あ、あぁ……水を……」
「分かりました! 冷えたお水で宜しいでしょうか?」
ライラは微笑み冷蔵庫の扉を開き、水をコップに次いで理恵に渡す。
「あ、ありがとう……」
理恵は直ぐに飲み干し、再びお礼を言ってキッチンから出て直ぐに、前から欠伸をする女性が近寄ってくる。
「あ……、大変失礼いたしました。奥様……」
女性は膝をつき、頭を下げる。
「え、えっと……あ、貴女は……」
「はい、私はこの家の警護を任されております、ライと申します……この家の安全は私がお守り致しますのでご安心下さい……。あ……あまり羽目を外さないようにしてくださいね」
「え? あ、は、はぁ……よ、宜しくお願い致します……気を付けます……」
「それでは失礼いたします……」
ライは一礼してキッチンへと向かっていく。
『ライラ、牛乳ある? まさか奥様と出くわすとは思わなかったよ……』
ライラはキッチンへと入ってライに飲み物を頼んで、笑いながら何かの話を始めていた。理恵は首を傾げて日本の入り口への入り口がある部屋へと向かった。
「あら? 奥様……」
「シェリーさん……本日から一緒に暮らす事になりました、もり……な、成田理恵です……宜しくお願い致します」
理恵はシェリーに頭を下げて顔を見ると、シェリーは興味がなさそうな顔をしていた。
「よろしくお願いします。奥様……あまり羽目を外さないように……」
シェリーはそう言って理恵の横を通り過ぎ、何処かへと行ってしまった。
理恵は固まりゆっくりと振り返るが、シェリーの姿はなかった。
「な、何……。ど、どういう事……皆……」
理恵はそう呟くが、誰も答えてはくれなかった。
克己の部屋にあるクローゼットを潜り、日本へ帰ると、克己が自分の部屋で何かをしていた。
「か、克己さん? 何をしているんですか……?」
「ん? あぁ……理恵か……。新居のデーターが届いたからそれを確認しているんだよ。理恵も一緒に確認するかい?」
克己はそう言って椅子を隣に置く。モニターを理恵に見えるようにして微笑みかけると、理恵は先程のモヤモヤ感を忘れるかのように椅子に座ってモニターを見ていた。
「これが私達の……家ですか?」
「そうだよ、3LDKだよ。部屋はどうしようか? ここにクローゼットを付けるみたいだね。あ、天井裏があるようだ……」
「本当だ……。あ、あの……こ、ここを寝室に……しません?」
「ん? そうだね……ここを理恵の部屋で、ここは俺の部屋……どう?」
「ぷ、プライベートルームですか……」
「そう捉えて貰っても構わないよ」
「そ、そうですか……」
「部屋の大きさは六畳だよ、ここの家と、異世界に比べると小さいけど構わないよね?」
「全然かまいません! 一緒に住むことができるのに我が儘など言えません!」
理恵は嬉しそうに言うが、克己は何も返事することはなかった。
「この部屋に異世界への入り口を作る予定だよ」
克己はマウスを動かして理恵に言うと、先程寝室と言った部屋を克己は指しており、寝室は何処にするのかと質問をしようとするが、克己に遮られる。
「次はこっちだよ、森田家の図面だ。こっちは大きいよ! 一人一部屋にしてあるし、理恵の部屋も用意してあるらしい。どう? 広いでしょ?」
「え、えぇ……だ、だけど……わ、私達の……」
「これをアルスにお願いしてお義父さんとお義母さんに渡したんだ。そしたら直ぐに電話が来てね、部屋割りを決めたんだってさ。皆、嬉しそうにしているんだって。工事は着手させているから、来月には完成させる予定だよ。普通は数か月かかっちゃうけど、無理にお願いしてやってもらう事にしたんだ」
「そ、そうなんですか……あ、あの……」
理恵は再び言いかけると、今度は里理に邪魔をされる。
「カッチャン、セキュリティーの事だけど……。あぁ、森田……理恵さん、君の旦那様をお借りさせて頂けるかな? 仕事の話……でね……」
「ん、プログラムは出来上がったの? シミュレーションしてみた?」
克己は立ち上がり、里理と一緒に異世界側へと行ってしまう。理恵は声を掛けようとしたが、里理が仕事と言っていたため、何も言えずに見送る事しかできなかった。理恵は再びモニターをみて、森田家の新居となる図面を見て実家へと電話する。
「あ、お母さん? 私……」
『理恵、どうしたの? 急に……』
「うん、今日から克己さんと一緒に暮らすことになったから連絡しとこうかなって思って……」
『あら、良かったじゃない?』
「それでさぁ……今、新居の図面を見ているんだけど……」
『そうなのよ! アルスちゃんが図面を持ってきてくれてね! みんなで部屋を決めたの! あんたの部屋もあるあら安心なさい』
母親は嬉しそうに言うと、理恵は複雑な気分になる。
「お、お父さんの仕事……決まった?」
『それがまだ決まってないのよ……克己君にも相談はしているんだけどね……』
初耳だった。克己は森田家と頻繁に連絡を取っているのを、理恵はこの時初めて知る。
『克己君はあの事件があってから、誰かひとり住ませませんかって言うんだけど……そこまで甘えるわけにはいかないから……』
既に甘え過ぎであるが、克己は常に心配してくれているのが嬉しかった。
『それに克己君がくれたお金があるから生活には困らないし……、言いにくいんだけど……お父さん、就活していないのよ……』
「……え?」
『克己君のお金があるから働かなくてもよくなったと思ってしまっているの……理恵からも何か言ってあげてよ……』
理恵はショックで声が出なかった。
『理恵? 聞こえてる?』
「う、うん……き、聞こえてる……聞こえてるよ……こ、この事って……克己さんは……」
「知っているよ」
後ろから声がして振り向くと、克己が困った顔して立っていた。
「知ってしまったんだね……失敗失敗……」
大きく息を吐いて克己は言う。理恵は話途中の電話を切り、何て言えば良いのか言葉を探す。
「ごめん、何処かで話をしないといけないと思っていたけど……俺も知ったのは数日前だったから……」
克己は困った声で理恵に言う。
「そ、そうだったんですか……。ご、ごめんなさい……克己さん……私の家族が迷惑を……」
「いや、今は俺の家族でもあるから構わないよ……嫌な思いをさせちゃったね……」
克己は頭を掻きながらそう言って引き出しの中から何かを取り出して再び異世界へ行こうとする。
「あ……」
理恵は何かを言おうとして手を伸ばす。克己は振り向き、少し困った顔をしながら微笑み理恵に言う。
「気にしないで。それより、この辺を見てくると良いよ。えっと……ガルボが下でテレビを見ているかと思うからコミュニケーション深めるために出掛けてきなよ。気晴らしにもなるし」
克己はそう言って異世界へと行ってしまった。
「は、話をする機会が……」
理恵はそう呟き、夜になったら話はできるだろうと思い、克己が言ったようにこの辺を探索に出掛ける事にした。
下に降りると、ガルボとケーラが一緒にテレビを見ていた。理恵は声を掛けようか迷っていると、ケーラの携帯が鳴り、ケーラは電話に出ると理恵の存在に気が付いてガルボの肩を叩き、ガルボは理恵に顔を向けて驚いた顔をする。
「お、奥様! 気が付かず申し訳ありません!!」
ガルボは慌ててテレビを消して立ち上がり頭を下げる。
「い、いえ……べ、別に構いませんよ……」
「あ、ありがとうございます……。そ、それで私達に何か御用でしょうか? の、飲み物……でも持ってきましょうか?」
ガルボはどうしたら良いのか分からず、必死でご機嫌を取ろうとしていた。
「ごめん、ガルボ……私は里理さんに呼ばれたから……あとはガルボに任せる! 街を案内してあげて欲しいそうだよ」
ケーラはガルボに説明して慌てて二階へ行こうとして立ち止まる。
「あ、奥様……、ガルボがいるから大丈夫だと思いますけど……あまり羽目を外さないように気を付けて下さいね!」
ケーラはそう言い残して異世界へと戻って行く。理恵はキョトンとしてケーラが通った道を見ていた。
「な、何が言いたかったの……?」
「お、奥様? お出かけ……致しますか?」
ガルボが言うと理恵は我に返り、返事して出かける事にした。
二人は無言で道を歩いていると、目の前から猫が現れてガルボは目を輝かせた。
「ね、猫ちゃんです!! 奥様! 猫ちゃんですよ! 可愛いですね……あ! どこか行ってしまいました……残念です……」
「猫は自由だからね……」
「可愛いですね~。あっちには動物っていう動物はいませんから……」
「そうなんだ……。じゃあ……あそこのお店に行ってみる?」
理恵が指を指した場所は、猫カフェだった。
「あそこって何があるお店なのですか? 奥様……」
「あれは猫カフェっていうお店よ。私も入ったことはないけど、聞いた話では数匹の猫が店内にいて、お茶を楽しみながら猫を鑑賞できたりするって言ってた」
「そ、そんなお店があるんですか……」
「入ってみようか? 私も気になるし……」
「よ、宜しいのですか!!」
「うん! 行ってみよう!」
二人はそう言って店内に入ると、猫が出迎えてくれる。ガルボは目を輝かせて猫に近づくと、猫はガルボの足に擦り寄り、ガルボは感動する。
「は、はぅ~可愛い~……克己様……買って良いと言ってくれないかな……」
ガルボは猫の頭を撫でながら呟く。
「そんなに猫が好きなんだね……」
「可愛いです~。こんなお店が傍にあるなんて~。早く知っておけば良かった~」
ガルボは猫の頭を撫でながら言う。理恵は店員と話をすると、ワンドリンク制のお店らしく、二人で2,000円払う羽目になった。
「た、高……」
理恵は財布の中を見ながら小さく呟き椅子に座った。
ガルボも一通り戯れてから椅子に座ってジュースを頼んだ。
「可愛いですね~奥様~」
「そうね……可愛いね……」
「どうしたんですか? 奥様? 元気がありませんが……お酒でも飲みに行かれますか?」
「な、何でお酒が出てくるのよ!」
理恵は慌てながらガルボに言う。
「だって、奥様は克己様が倒れている間もお酒を飲まれておりましたよね? それに……」
「ちょ、ちょっと待って!! ど、どういう事!!」
「え? どういう事……と言われましても……? だってあの時、奥様の服は乱れて胸は露わになっており、お酒を飲まれていたではありませんか……。克己様という御方がおられながらも他の男と目合いをされていたのでしょ?」
「な!」
「あまり羽目を外されますと、克己様が悲しまれますから注意したほうが宜しいですよ……。奥様に対して失礼な事かもしれませんが……」
「ま、まさか……あ、貴女達が言っていた意味って……」
「何をおっしゃっておられるのかは分かりませんが……。勘違いされていると困りますのでハッキリ言っておいた方が良いかも知れません……。アルスはどう考えているのか分かりませんが、私達は克己様に使えているのであって、奥様に使えている訳ではありません。全て克己様のために動いているのです……。ですから、奥様が何をしようが構いませんが、克己様を困らせる事はしないで下さいね」
ガルボは残酷な言葉を微笑みながら言う。理恵は固まって声を発する事が出来ず、目を泳がせていた。目の前にいた猫はただ、無邪気にボール遊びをしているだけだった……。




