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79話 ICU……

 克己と別れた森田はとあるホテルのエントランス前に立っていた。


「ここで……合っているよね……」


 バッグから同窓会の案内状を見ながら中へと入っていくと、中には数人だけ椅子に座っていた。


「あ、あれ?」


『あれ? もしかして森田か?』


「そ、そうだけど……。どちら様?」


『俺だよ! 2年の時、隣の席だった松本!』


「ま、松本……君? 本当に松本君? 久し振り! 元気だった? 見違えちゃったよ!」


『森田も随分綺麗になったな~』


『おい、早く受付を済ましちまえよ!』


 松本の友人と思われる男が呼び掛ける。


 二人は慌てて受付を済まし、会場の中へと入っていく。中には沢山の同級生がワイワイと話をしており、森田は知っている人がいないかを探す。


「理恵! 理恵じゃん! 久し振り~!」


「こ、琴音ちゃん! 良かった~! 分かる人がいて助かったよ~」


「何を言っているのよ! 佳子達はあっちでお酒を飲んでいるよ! 私達も行こう!」


「うん!」


 森田は童心に返り、色々な人と話をする。宴は永くは続かず、終わりを迎える。


「理恵~、二次会に行こう~!」


「え~、明日早いし~」


「良いじゃん! そんなに遅くならなければ問題ないよ~」


「う~、少しだけだよ?」


 数十人で居酒屋に入り、テーブルを囲む。皆は同窓会の勢いをそのまま持ってきているため、テンションは高く、お酒を飲む量は多かった。丁度その時、森田の携帯にアルスからメールが届くが、森田はそのメールに気が付かなかった。


 森田は友人達と、懐かしむように話をしている。


『そう言えばさぁ、森田って何している人なの?』


『理恵は自衛隊員なんだよ! 凄くない?』


「べ、別に凄くないよ……」


 森田は恥ずかしそうに言うと、隣に居た同級生の男が質問する。


『じゃあさ、異世界ってどうなの? お前、行ったことある? 前に特番を見たけどさ、異世界に行き来している奴……えっと……そう! 成田ってやつ! あいつちょっとおかしくない?』


 その言葉に理恵は固まる。


『そうそう、異世界を自分の物と勘違いしている奴だろ? マジおかしいよ! 森田はどうなのよ?』


「え? あ、う、うん……変わった人だよね……あ、アハハ……」


『実際に会った事ある? そいつに?』


 森田は答えに困るが、取り敢えず頷いた。


『オオォ! スゲー!』


『ねぇ、理恵……そのネックレス、凄くない?』


「え? も、貰いものだから……分からないよ……でも、凄いよね……」


『俺、宝石商に勤めているんだ、ちょっと見せてみろよ!』


 同級生の男はそう言って森田のネックレスを引っ張ろうとする。


「ちょ、ちょっと止めて!! 切れちゃう! もう! 唐木田君はガサツなんだから!」


 森田はそう言ってネックレスを外して男に渡すと、男はネックレスをマジマジ見て驚きの声を上げる。


『これって、異世界側で発見された宝石じゃないか! これだけでも数百万するぞ……』


 その場に居た全員はどよめきの声を上げる。


『ど、どうやって手に入れたんだよ?』


「ど、どうやってと言われても……し、知り合いから貰った……の……」


 森田は知り合いという言葉を使い、克己に悪いことをした気分になったが、お酒を飲んで直ぐにそのことを忘れる。


『知り合いって誰だよ! こんなスゲーのくれる奴だろ? 政府関係者かよ……自衛隊って凄いところだな!』


 森田は自衛隊が凄いのでは無く、克己が凄いのだと思いながらお酒を飲み干し、隣の男がお代わりを注文する。


『でさ、成田ってやつはどんな奴なの? 会ったことあるんだろ?』


「か、克己さんは……」


『克己さん? 森田、成田と親しい仲なのか?』


「あ、いや、私達の周りでは下の名前で呼んでいるだけ、ほ、ほら……同僚にも成田って人がいるから……」


 森田は嘘を吐くその言葉が自分を苦しめていくように感じた。


『で、どうなの? やっぱり言動とかおかしいの?』


「う、うん……変わってる……かな……。綺麗な人ばかり連れているし……」


『奴隷ってやつだろ? マジで羨ましいよな! やっぱり綺麗なんだ? テレビではモザイクがかかっていたから分からなかったけど……』


「美人ばかりだよ、でも、その人達もちょっと変わってる……」


『例えば?』


「これ以上は言えないよ……し、新聞やテレビなどで報道されたら私が怒られちゃうし……」


 森田は話を終わらせようとして言う。皆は納得して話を変え、楽しくワイワイやっていると、色々な人が森田の話を聞きたく近寄ってくる。


 森田は話を逸らせようとして違う話をするが、皆はお酒を飲ませれば話してくれるのではないかと思い、どんどん森田にお酒を飲ませる。


 森田は、断り切れずにお酒をどんどん飲んでいき、だんだん自分が何を考えているのか分からなくなってきた。


『いい加減教えてくれよ……少しだけで良いからさ~』


「え~、わたひが怒られひゃうもん……」


『理恵、異世界にレストランがあるんでしょ? どんな感じなの?』


「れふとらん? おいひいところらよ~……猫耳の人とから料理を渡されるの~……ヒック……」


『猫耳? 他にもいるのか?』


「いるよ~、ウサギや犬……それに狐も~! 尻尾がモフモフなんらよ~……ヒック……お代わり~」


『り、理恵、飲み過ぎじゃない? 大丈夫?』


「森田三曹、らいりょうふであります!」


 森田は急に立ち上がり、敬礼のポーズをするが、フラつき、よろめいて隣の男に寄りかかる。隣の男は支えるフリをして森田の胸を揉むが、森田は酔っておりまったく気にしていなかった。


『お、柔らかけ~!!』


 男は小さい声でそう言うが、森田の耳には届いていない。


 周りはただじゃれ合っているようにしか見えず、気にしていなかったが、男は隙をみて森田の体にセクハラをしていた。


 時間はかなり遅くなり、居酒屋はラストオーダーとなり皆は解散する事になったが、森田はお酒の飲み過ぎで千鳥足になっていた。皆は心配していたが、先ほどセクハラをしていた男が送っていくと言うと、先ほどじゃれ合っていたように見えていたため、皆はその男に任せる事にして解散した。


 男は森田の肩に手を回すフリをして胸を幾度となく揉んだりして、森田の息は多少荒くなる。


『おいおい、森田……大丈夫か? 少し休んでいくか……?』


 下心丸出しであるが、酔っぱらっている森田にはそこまで考える思考は無かった。


「う……うん……眠い……」


『な、なら……す、少し休んでいこう……』


 男は唾を飲み込みながら言うと、携帯を取り出し近くのラブホテルを探そうとする。森田はそれを見て自分の携帯を思い出し、カバンの中から携帯を取り出して嬉しそうに画面を開く。買ったばかりだと言うのに着信の数が多く、携帯電話って面倒だと思いながら森田は着信のチェックを終えて、目を回しながらメール画面を開くと何通ものメールが来ており、これが迷惑メールなのかと思いながら一通目に目を通す。


『至急連絡を下さい! 克己様が倒れました!』


 初めて来たメールの内容がそれだった。森田は携帯を滑らし地面に落とす。


「あ、ちょ、ちょっと……」


 フラつきながら携帯を拾い、何かの間違いかと思いながらもう一度確認するが、やはり書かれていた内容は変わっていなかった。


 森田は立ち尽くして次のメールを読む。内容はほぼ一緒で、迎えに行くから何処にいるのかと書かれていた。時間を確認すると、四時間も前の話である。全部のメッセージを読み終えてからアルスに電話しようとすると、同級生の男は森田の腕を掴みホテルへ連れて行こうとする。思考が働かない森田は何が起きているのか分からず混乱する。


「ど、どこに行くの? 私、行かなきゃ……」


『少し休憩したほうが良い……お前、結構フラ付いているじゃん? 危ないよ?』


「きゅ、休憩? そ、そう……休憩……克己さんが言うなら……」


 森田は男を克己と勘違いして言うと、再びメールが入る。森田はそのメールを確認しようとして足がもつれて転び、携帯が目の前を転がっていく。


 克己とお揃いのストラップがそこには付いていなかった。


「す、ストラップ……ストラップが無い!! ど、どこ! 私のストラップ……」


『お、おい、大丈夫かよ……』


 男は森田を抱き寄せようとする。しかし、森田の頭の中にはストラップしか無く男を引き剥がして地面を一生懸命探そうとするが、見当たらない。そして、他にも大事な物をなくしたことに気が付かなかった。


『ど、どうしたんだよ……?』


「わ、私のストラップ! 携帯のストラップが無いの! ど、どこ! どこにあるの!!」


『ストラップなら俺が買ってやるよ……だから行こう……』


 森田は錯乱しながら地面を這いつくばるが、男は森田を抱きかかえてホテルへと連れて行く。始めは抵抗するが、ストラップを買うと男を言うと、森田は克己だと思い込んで抵抗を止める。


「ストラップ買ってくれ頂けるんですか? ……また……お揃いにしてくださいよ~」


 森田は嬉しそうに言って体を預けると、今度は携帯が鳴りだし、少し鬱陶しくも思いながら着信相手を確認する。掛けてきたのはアルスであり、克己の事が気になっているのかと思い電話に出た。


『つ、繋がった! も、森田さんですか!! 聞こえますか!! 今どこに居ますか!』


「あ、アルスさん? ……け、携帯のストラップが無い……どこかやってしまったの……どうしよう……。だけど克己さんが新しいのを買ってくれるって……えへへ……」


『ストラップ? 克己様が? 買ってくれる? 何を……そ、それより克己様が!!! 今どこにいるんですか!!』


「ほ、ホテルの前?」


 森田は自分の状況を理解しておらず、アルスに言う。


『ほ、ほてる? 宿屋の事ですよね! 何をしているんですか! 貴女は!! 克己様の奥様になられるんでしょ!! 克己様が心配じゃないんですか!! ……あっ、さ、里理さん……』


 森田の耳元で強い音がして怒鳴り声が聞こえる。森田を抱きかかえた男は部屋のボタンを押して、部屋を決めていた。


 森田は携帯を耳に当てながら部屋を見て綺麗で可愛い部屋だと思ってしまった。その瞬間、再び現実に引き戻された。


『森田!! ふざけるなよ!! カッチャンは今、ICUに入っているんだぞ!! 貴様の旦那になる男は死の淵に立っているんだ!! 何してんだよ!!』


 里理の怒鳴り声が耳に入り、森田は耳を疑った。


「か、克己さんが……何? 克己さんはここに居て私と結ばれるんだよ? 里理さん、今回は邪魔しないでくれます?」


 森田は部屋のベッドに押し倒され、天井を見つめる。男は上着を脱ぎ始め、森田の体を抱きしめて首元にキスをし始める。


『何を寝ぼけた事を……お前にカッチャンを譲ったことを後悔してる!! 何でホテルなんかに居るんだ!! お前は今、()といるんだよ!!』


「だ、誰……と?」


 森田は再び周りを見渡し、自分が知らない部屋に居る事に気が付く。そして、自分を舐めまわし、触っているのは克己だと思っていたが、よく見ると違う男が自分の胸を揉み、そして吸っていた。


「だ、誰……! あ、彼方は誰!」


 男は森田の話を聞いておらず、森田の大事な場所を触り始める。


「か、克己さん? 貴方は……克己さん? ……あっん……」


『馬鹿たれ!! カッチャンは病院に居る!! 集中治療室に入っているんだ!! そいつは違う男だ!! よく見ろ!!』


 電話もとで里理が叫ぶ。森田は自分の顔を叩き、意識を集中させると、克己だと思っていた男は中学の同級生だった。


「ちょ、ちょっと!! な、な……あっん!!! や、止めて!」


 森田は男を蹴っ飛ばし、乱れた服のままカバンを手にして裸足で部屋から出ていく。


『も、森田さん! 迎えに行きますから……い、今どこにますか!』


「分かんない! ヤダ! どうしよう!! ……私、何をやっているんだろう……!」


『落ち着いて下さい! 場所を、今いる場所を……!』


 里理が急いでハッキングをして場所を割り出す。


「アルス! この駅は分かるか!」


「分かります!」


「この近くを走っている! 今すぐハミルと一緒に飛べ! どっちかがあいつを捕まえてくれば問題ない!」


 里理が言うと、アルスは頷いてハミルを連れてテレポートを唱え、目的の駅までたどり着く。


「里理さん! 森田さんはどこら辺にいますか」


 ハミルが里理の携帯に電話をして場所の確認を急ぐ。


『そこから30mほど行った先を左に行き……』


 ハミルは里理のナビゲーションをもとに走り始めるが、里理のPCがクラッシュする。


『チッ! バレた!! 自動プログラムが作動したんだ!!』


 里理はそう言うと、ハミルは電話を切り言われた場所を探しながら走る。


「チクショッ!! これでGPSが使えない!!」


 里理はPCを床に叩き付け涙を流す。ケーラは叩きつけられたPCを拾い、袋の中へとしまった。


 アルスとハミルは息を切らせながら森田を探す。


 森田は涙を流し、克己の名前を呼びながら目的地も無いままフラ付きつつ歩いている。


 ハミルが森田を発見してアルスに電話をかける。


「アルス!! 森田さんを発見した! 回収して直ぐに病院とか言う場所に連れて行く!!」


『私も直ぐに行く』


 アルスはそう言って魔法を唱えて病院へと到着すると、ハミルも同じタイミングで戻ってきた。


 アルスが見た森田の服装はかなり乱れており、胸は出ていて今朝の綺麗で可愛いとは掛け離れていた。


「も、森田さん? そ、その格好は……」


 アルスが話しかけようとすると、里理が物凄い剣幕で近寄ってきて森田の顔を引っ叩く。


「痛ッ!!」


「痛いじゃない!! お前は何をやってんだ!! ここから覗いてみろ! ほら!」


 里理は森田の腕を掴んでガラスに押し付ける。


「い、イタッ!」


 森田は押し付けられたときに頭を打つけたようで、手で頭を押さえる。


「あそこに寝ているのは誰だ! 言えよ! お前は他の男とお楽しみの最中かも知れなかったけど、お前を愛してくれている男はあそこで寝ているんだぞ!」


 森田はガラスの向こうで寝ている人を見て声をなくす。その姿は今日別れた時の格好をしており、口には酸素マスク、腕などには色々な管が刺さっている状態だった。


「な、何で……? 何が起きて……」


「あんたが浮かれているときにカッチャンは!!」


 里理は涙を流しながら森田の背中を叩く。


「克己様はドラゴンを束ねる魔王との戦いで負傷してしまい……。安静にしてないといけなかったのですが……」


 アルスは俯きながら森田に言うと、森田は振り向きアルスの胸倉を掴む。


「な、何で教えてくれなかったんですか! どうして!」


「克己様のご意志です……。森田さんには絶対に言うなと……心配するから絶対に言うなと……言われ……ました……」


 アルスは俯き、体を震わせながら言う。森田は再びガラス壁に手を突きベッドの上で横になっている克己を見て、本当に克己なのかと確認する。


「か、回復魔法を使えば! る、ルノールさんの回復魔法を使えば皆みたいに治るんじゃ!」


 森田はハッとしてルノールの方を見る。ルノールは体を震わせ首を横に振る。


「私の魔法は無力です……。古代(アンサイク)ドラゴンの特殊攻撃には……魔法は無力みたいなんです……う、うぅ……」


 ルノールは隣にいたリーズにしがみ付き、声を出して泣いた。


「そ、そんな……」


 森田は膝から崩れ落ち茫然としていた。


「だ、だって私と結婚をするのでは……結婚しようって言ってくれたじゃないですか! そんなところで寝てないで下さい! 起きて下さいよ! 新居になる場所だって観に行ったじゃないですか!」


 森田は乱れている服を気にせずガラス壁を叩く。アルスは慌てて森田を羽交い締めにしてガラス壁から遠ざける。


「アルスちゃん、森田ちゃんを外に連れていって……そんな格好をしている奴が……大事な人が倒れているときに他の男と寝ようとしている奴を追い出して!」


 里理が低い声でアルスに命令をする。森田はハッとして里理の方を見て言う。


「ち、ちが……、こ、これは……これには!」


 森田の、アルスが電話での言葉を聞く限りでは言い訳をしても皆を納得させられる材料は無いと判断して、外へと連れ出そうとする。


「ちょ、ちょっと! あ、アルスさん! や、止めて! か、克己さんの側に居させて! お、お願い……」


 アルスはテレポートで外に連れ出し森田は泣き崩れる。


「ここで暫く頭を冷やして下さい。私も付き添いますから……あっちは里理さん達に任せましょう……。骨の固定は上手くいったと聞いております。暫くはあの状態でしょうが、後日、会うことは許されるのではないかと思います。そしたら、ルノールの魔法で今日、体を空けた傷は治せますから……」


 森田は四つん這いで泣き、地面を何度も叩く。


「も、森田さん! て、手から血が出ていますよ!」


 アルスは慌てて手を掴み回復魔法を唱えて怪我を治す。森田はその行動を見てアルスにすがりつく。


「その力で克己さんを治して! 治してよ! 万能の力で治してよ!」


「そ、それは……無理……です……」


 アルスは顔を歪ませながら言う。


「治してよ……。お願いだから……」


 アルスは何も言葉を探し何かを言おうとするが、適切ではないと思い、(口を積むので→口を噤んで)しまう。それを何度か繰り返し、何かを言うのを諦め、森田をだきしめる。


 森田は暫くの間アルスの胸で泣いていた。

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